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9.気づいた想い
しおりを挟むエイダンの奇妙な行動が始まってから、気がつけばもう1ヶ月が経った。
今日も王宮での怒涛の会議ラッシュに疲れながらも、離宮内の庭を移動していると、美しい夕焼けの空から横乗りで箒に乗ったエイダンが現れた。
そしてそのまま私を見つけると、エイダンは突然、私を自身の箒へと乗せ、空へと舞い上がった。
「エ、エイダンっ!?」
あまりの怖さに隣にいるエイダンの服をぎゅうっと強く掴む。
そんな私を見てエイダンは「はは、いい顔」と楽しそうに笑っていた。
私はもちろん全く楽しくない。
事情も何も説明されず、急に箒に乗せられ、街にいる人々がまるでおもちゃのような小ささになるほどの上空へと連れて来られたのだ。
ここから落ちてしまえば即死だと思うと震えが止まらない。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。お前は落ちないから」
この状況に真っ青になっている私におかしそうにエイダンがそう言ったが、私はエイダンのことを完全にはどうしても信じられなかった。
あまりの恐怖に我慢ならず、ギュッと両目を閉じる。
両目を閉じたことによって、周りの状況が全くわからなくなったが、頬に感じるゆったりとした流れの柔らかい風が、私たちが今ゆっくりと空の上を移動していることを知らせた。
ふと、前からエイダンの爽やかで優しい香りが、柔らかな風に乗って、ふわりと私の鼻に届く。
エイダンの爽やかな香りは、私にはとても甘く、エイダンを好きだったあの頃の私をいつもいつもときめかせていたことを思い出した。
…好きだな。
「…っ」
突然、浮かび上がった思考に思わず、目を見開く。
「…わぁ」
だが、その思考は、目を見開いた先の景色の衝撃によって一瞬でどこかへ吹っ飛んでしまった。
横座りしているエイダンの向こうに広がる夕焼け空。
そこには街へと輝きを放ちながら沈む大きな太陽があり、その太陽の輝きが空にオレンジから深い青へと変わる美しいグラデーションを作っていた。
ここは街の上。空だ。
所狭しと建ち並ぶ建物も、森に生い茂る木々もここには何もない。
この幻想的な景色を邪魔するものは一切ないのだ。
そのことがより一層、この景色の美しさと神秘さを増させた。
「どう?気に入った?」
エイダンが目の前に広がる美しい景色ではなく、私に視線を向け、私の様子を窺う。
「はい、とても。皆さんはこんな美しい景色をいつでも見られるのですね」
私は景色と一緒にエイダンのことも見つめ、感嘆の声を上げた。
優しくも刹那的な太陽の光を浴びて、キラキラと輝くエイダンの金髪はまるで神様からの祝福を受けているかのように美しく、私をまっすぐ見つめるアメジスト色の瞳は宝石のように輝いて見える。
私の目に映るもの全てが美しい。
先ほど〝皆さん〟と言ったが、きっと今目の前に広がるこの景色を見られるのは私だけなのだろう。
トクンッと心臓が静かに跳ねる。
またエイダンへの好きが溢れ出していく。
消してしまったはずのそれが私の胸を騒がせる。
『消えた恋心は戻せないけれど、また作ることはできる』
ふと、私はアランが言っていた言葉を思い出した。
私、きっとまたエイダンを好きになっているんだ。
恋心を消す前、気がつけばエイダンのことを目で追って、好きになっていた。
きっかけはよくわからない。
だが、好きになってからエイダンの好きなところを私はいっぱいみつけた。
歪んでいるけど、どこか幼さの残るエイダンが好き。
意地悪く笑う顔が、私には悪戯っ子のように見えて好き。
それでいてたまに見せる心からの笑顔も好き。
何かを深く考える横顔も好き。
気まぐれに私に手を貸すエイダンも好き。
考えれば考えるほど、エイダンへの好きが溢れてくる。
「ふ、いい顔」
景色ではなく、今度はエイダンだけを見つめる私に気づき、エイダンが満足げに瞳を細めて笑う。
その姿があまりにも美しく、私は思わず心を奪われ、何も言えなくなってしまった。
私は今、一体どんな顔でエイダンを見ていたのだろうか。
…いや、考えなくともわかる。
きっと恋心を消す前と同じ顔でエイダンを見ていたのだろう。
満足げに微笑むエイダンの瞳。
そこにはエイダンに想いを寄せる女…私の姿がはっきりと映っていた。
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