推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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105.それでも。

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「…やっぱ、好き」



唐突に千晴から漏れた言葉。
そのたった二文字が、私の心臓をドクンッと大きく高鳴らせる。

気がつけば千晴は、その場で足を止め、無表情に、だが、迷子のような瞳で私を見ていた。
どうすればいいのかわからない。そう、私に視線で訴えるように。



「先輩、ずるすぎ。好きになるじゃん。そんなの」



あの千晴が珍しく私に戸惑いを見せ、視線を伏せる。
その伏せられた千晴の長いまつ毛が、心なしか震えているように見え、ぎゅうと心臓が締め付けられて、苦しくなった。
私が千晴をそうさせているのに。



「好き。大好き。アイツじゃなくて、俺を選んで?」



もう一度視線をあげ、今度は無表情ながらも、真剣な眼差しで、千晴が私を見据える。



「…こんなにも好きにさせた責任取ってよ」



それから砂糖をドロドロに煮詰めたような声音で、そう言った。

千晴のその胸焼けしてしまいそうな甘さに、鼓動がどんどん加速する。
切なくねだるようにこちらを射抜く強い千晴の視線は、何よりも私の体を熱くさせた。



「俺だけを見て、先輩」



千晴には応えない。
それが今の私のスタンスだ。
だが、初めて見る私の愛を弱々しく求める千晴の姿に、私の口は考えるよりも先に動いてしまった。



「…ちゃんと見てるよ」



思いがけず自分から出た言葉に、頬が一気に熱を持つ。
さらに視界までぼやけて、クラクラしてきた。
〝好き〟だと一言も言っていないのに、まるで告白したあとのような息苦しさと緊張が何故か私を襲う。

何で、こんな…。

自分ではどうにもできない、おかしな症状に戸惑っていると、そんな私を千晴はまじまじと見つめてきた。
そして徐に言った。



「…俺のこと、好き?」



千晴の瞳がゆるゆると細められ、私を捉える。
なんと甘い瞳なのだろうか。
こんな目で見つめられて、心が反応しないわけがない。



「…好きじゃない」



それでも私は心になんとか蓋をして、首を横に振った。



「本当に?」

「本当に」



私の視線を絡め取るようにこちらを覗く千晴に、平静を装い、淡々と頷く。
じわじわと私を蝕む熱に目を背けて。

だが、千晴はそんな私を無視して、嬉しそうに口元を緩めた。



「嘘つき」



千晴の柔らかい声が空気を震わせる。
ここには私たち以外の生徒もたくさんいるのに、私の世界にはもう千晴しかいない。
そこにふわりと暖かくなり始めた風が吹き、千晴のふわふわで綺麗な金髪と桜の花びらを揺らした。



「先輩のその潤んだ目がね、俺を好きだって、ずっと言っているんだよ?知ってた?先輩?」



クスッとおかしそうに笑い、千晴が私の目尻に優しく触れる。その瞳にはもう先ほどの弱々しさはない。
いつもの余裕を取り戻した千晴は、私の耳元に自身の唇を寄せ、誘惑するように囁いた。



「…ねぇ、アイツと別れて俺と付き合って?先輩?」



千晴の吐息が私の耳をかすめる。
甘く甘くて仕方のない一瞬に、心臓が高鳴りをやめ、止まった。

し、死んでしまう…!

私よりも上手で、こんなにも甘く、ある意味で攻撃的な千晴をもうきっとこれ以上誤魔化し続けることなどできない。
また暴れるように動き出したうるさい心臓の音を聞きながら、私はそう悟った。



「…悠里くんとは別れたよ、昨日の夜にね。けど千晴が好きだから別れたんじゃない。ただ好きの形が違ったから別れたの」



諦めたように一度視線を落とし、意を決して、再び千晴へと視線を戻す。
すると千晴は不思議そうに首を傾げていた。



「よくわかんないけど、先輩は今、誰とも付き合ってないんでしょ?だったら俺と付き合えるじゃん」



わけがわからない、と言いたげな目で千晴が私を見る。
だが、私は例え千晴のことが好きでも、胸が高鳴って高鳴って仕方なくても、自分の考えを変えるつもりはなかった。



「…それでも付き合えないよ。今、付き合えば千晴と付き合う為に悠里くんと別れたみたいになるからね。私、悠里くんが傷つくことはしたくないから。例え別れてても」

「えー」



強い意志で淡々と千晴に私の考えを伝えるが、千晴はどこか不服そうだ。
その目が「何で?」とずっと訴えかけている。
しかしそれでも変わらない私の態度についに諦めたのか、千晴は無表情のまま、私の顔を覗いた。

上目遣いでこちらを見る千晴に、相手は自分よりもずっと大きい男なのに、ついかわいいと思ってしまう。
…これが好きになるということか。



「それ、どのくらい期間が空いたらいいの?1週間?半月?一ヶ月?」

「いや、詳しい日取りまでは…」

「んー。そっか…」



私の答えに、千晴が視線を落とす。
それから何か考える素振りを見せると、無表情からふわりと笑った。



「じゃあ、俺、先輩が俺と付き合いたい、てなるまでずっと待つ。だから絶対、未来で俺と付き合って?わかった?」



微笑む千晴に、またドキンッと胸が高鳴った。
何度も何度も意図せず動いてしまう心臓に、だんだん呆れさえしてくるが、不思議と嫌な気分ではない。



「いや、こんなちゃんと応えられない最低な私なんて待たなくていいよ…?千晴なら私よりもずっといい人を見つけられるだろうし…」

「嫌。俺には先輩だけだから。先輩しか俺は好きになれない」



まっすぐと私を射抜く焦がれるような瞳に、胸がギュッと縮む。

私に何度否定されても変わらず愛を伝える千晴に、どうしても未来を夢見てしまう。
未来でも千晴が変わらず私を好きでいてくれて、一緒にいられる、私にだけ都合のいい、そんな未来を。

私はもう千晴を否定し、突き放すことができなかった。



「…わかったよ。でも今は同じ気持ちってだけで、その先が保証されているわけでは…」

「それでもいいよ。同じだって知れただけで、俺は嬉しいから。絶対最後に先輩の横で笑うのは俺だから」



困ったように眉を下げた私に、千晴は明るく笑った。
その明るい笑顔に、私の心臓はぎゅうと鷲掴みにされた。

ーーー好き。
今はただこの想いを私は大事に大事に胸の奥底で抱きしめた。


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