推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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106.卒業。

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少しひんやりとした体育館に、厳かな空気が流れる。
在校生、教師、保護者、そして卒業生が見守る中、舞台上では、前生徒会長、田中が卒業生を代表して、挨拶をしていた。



「在学中、勉学だけではなく、学校行事を通して、さまざまなことを私たちは学び、体験してきました。そこにはいつも友人がおり、時にぶつかり合い、時に励まし合い…」



田中の凛とした声がマイクを通して、この体育館内に響き渡る。
もう感極まって泣いている者、眠気に襲われて頭をゆらゆらと揺らしている者、真剣な顔で前を見据えている者。
卒業生たちはさまざまな様子で、卒業式に臨んでいた。
私もその中でただただ田中を見つめていた。

三月、上旬。
私は今日、ここ鷹野高校を卒業する。



ーーーーーー



長く感じた卒業式を終え、クラスでの最後のホームルームも終えると、生徒たちは皆、校庭へと集まっていた。
ここで皆、いろいろな人と最後の時間を過ごすのだ。

私はそこでハンカチを片手に雪乃といた。



「…ゔっ、ゔぅ」

「まぁだ泣いてんの、柚子」



ボロボロと涙を流す私を、雪乃がおかしそうに見つめる。
だが、その瞳はどこか暖かく、雪乃の優しさを感じた。

それが余計、私を泣かせた。



「だ、だって、中学とは違うじゃん…。もう一緒の学校じゃないし…」

「あははは、そうね」



涙を止められない私を、雪乃はどこか嬉しそうに笑い、ぎゅうと抱きしめてくれる。
暖かい雪乃の体温を感じながらも、私はゆっくりとまぶたを閉じた。

雪乃と私は中学からの親友だ。
しかし、当然だが、進学先は違った。
2人とも地元から離れた違う大学へ行く。大学同士の距離は近いので、会おうと思えば会えるが、逆に言えば会おうと思わなければ会えないのだ。

それは私の推しである悠里くんも同じだった。



「ねぇ、柚子」



ふと、私の背中をさすっていた雪乃が口を開く。



「結局、アンタってどっちを選んだの?」



それから興味深そうにそう聞いてきた。
その瞬間、私の涙は止まった。

雪乃の〝どちらを選んだのか〟という質問の意味。
それは千晴なのか、悠里くんなのか、ということだ。

約一年前、悠里くんと別れ、千晴の告白も受け入れず、私は誰とも付き合わない道を選んだ。
それでも私たちの関係はあまり変わらず、雪乃を始め、全校生徒は、私たちの関係にずっと注目し、関心を寄せていたのだ。

鉄子は一体、どちらと付き合っているのか、と。

この一年、千晴派閥と、悠里くん派閥で、まぁ、揉めに揉めていた。
いつの間にかそういう団体ができており、盛り上がりすぎて大乱闘を繰り広げる、という事件もあり、何度もその仲裁に入った。
そして田中にもよく叱られた。

だが、そんな学校中を巻き込む事態になっても、私はどちらも選ばなかった。



「明日からもう王子には会えないよ?千晴くんもいないよ?アンタ、本当は好きなんでしょ?」



動かなくなった私の頬を雪乃がツンツン、とからかうように突く。
ふざけているようにも見えるが、これが雪乃の優しさだ。
最後に私に後悔させない選択を迫っているのだ。



「………わ、私は」



重たい口をやっとの思いで開いた、その時。



「「きゃあああ!!!!」」



この場に女子生徒の黄色い声が響いた。
何事だ、とその場にいた生徒たちが声の方へと視線を向ける。
私も例に漏れることなく、そこへ視線を向けると、とんでもなくたくさんの女子生徒が、何かを中心に大きな円を作っていた。



「ゆ、悠里先輩!言わせてください!す、好きです!」



その中から必死に叫ぶ女子生徒の声が聞こえる。



「わ、私も!鉄子先輩とのこと応援してます!悠里先輩派閥永久不滅です!」



さらにまた別の必死な女子生徒の声が。



「しゃ、写真写真!」

「悠里先輩!こっち!こっち見てー!」

「鉄子先輩の写真!ほら、ここに鉄子先輩の写真がありますよー!!!」



スマホを高く上げ、なんとか悠里くんを写真に収めようとする者、一生懸命自分の方を見てもらうとする者、何故か私の写真を天高く上げている者など、とにかくカオス状態だ。

どうやらあのカオスサークルの中心で餌食になっているのは、私の推し、悠里くんのようだった。

そしてよく見るとあの人だかりの外には、小さくなって女子生徒たちを見つめる、男子生徒の姿もあった。



「ゔ、ゔぅ、こんなに人がいたら悠里先輩に渡せないじゃん…」



泣きそうになりながら花束を抱える生徒は、悠里くんのバスケ部の後輩だ。
その後輩の周りには、三年生のバスケ部もいた。



「慎!行ってこい!あの女子の壁を突破してこそ、我が鷹野高校バスケ部副部長ってやつだろ!?」



バンっと背中を押すようにその中の一人が明るい笑顔で、後輩の背中を叩く。



「焼香くらいは立ててやる」



それからもう一人が半笑いで後輩を見つめていた。
後輩を面白おかしく見つめるバスケ部の三年生全員の手には花束がある。
つまり、あの後輩は、悠里くんにも花束を渡したいのだろう。
周りを囲む女子生徒たちの迫力に押されて、できないみたいだが。

推しのピンチだ。これは見逃すわけにはいかない。

ゆらりと雪乃から離れて、ゆっくりと悠里くんの元へと向かう。
その過程で、私は先ほどの情けない柚子から、鬼の元風紀委員長鉄子へと表情を変えていった。
そんな私に雪乃は「いってらぁ」とゆるく手を振った。

 
 
 
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