4 / 7
君が世界。
しおりを挟むside翡翠
昔からなんでもできたし、なんでも持っていた。
身長も気がつけば高くなっていたし、スタイルもよかった。
顔も整っており、「かっこいいね」と、当然のように言われて生きてきた。
高3の春。
友達とノリで、アイドルのサバイバル番組に応募してみた。
「翡翠ならアイドルになれるっしょ!」
軽くそう言った友達に背中を押されて、俺は気がつけば、サバ番に参加していた。
俺の人生は、イージーモードだった。
だが、サバ番に参加したことにより、俺の価値観は全て脆く崩れ去った。
俺と同じように顔がいい男が、高身長の男が、骨格が優れている男が、掃いて捨てるほどいる。
彼らは容姿がいいだけではなく、幼少期から夢である芸能人になり、活躍するために努力を重ねており、何もして来なかった一般人の俺とは違った。
ある男は踊りができた。
見せられた踊りを瞬時に覚えるだけではなく、自分なりの解釈を入れ、誰よりも魅せる踊りをしていた。
ある男は歌声が綺麗だった。
一度聴くと忘れられないその声は、天性のものだったが、見えないところで、どう歌えば人を惹きつけるのか、研究と努力を惜しんでいなかった。
ある男は表情管理が、またある男は場を楽しませるトーク力が、またある男は自分の魅せ方をよくわかっていた。
俺が一番ではない世界。
俺が劣っている世界。
初めての世界に戸惑ったが、彼らと切磋琢磨し、磨かれていく時間は、何よりも楽しかった。
そしてそんな頑張っている俺の姿を見て、俺を応援してくれるファンという存在が、俺を嬉しくさせた。
ファンの存在が、俺を強くする。
辛い時、苦しい時に、あともう少しだけ、と踏ん張れる。
そんなファンの声が聞きたくて、気がつけば、俺はSNSでエゴサをすることが習慣になっていた。
SNSには、俺を応援する声で溢れている。
『夢島翡翠くん、かっこよくない?顔面が国宝』
『ダンスも歌も素人とは思えない!』
『骨格優勝!華がある!』
どの言葉も俺に力を与えてくれるものだ。
俺はその中で、あるアカウントを見つけた。
『翡翠は私の一番星』
そうシンプルに書かれたプロフィールの言葉。
そのアカウントは〝ねね〟と言い、毎日のように俺についてコメントをしていた。
さらに番組放送時はリアルタイムで言葉を流し、たくさんの俺への愛を語っていた。
『ひたむきに努力を重ねる姿が素敵だった。特にあの難しいステップに挑んだ場面は鳥肌もの』
『逃げない翡翠は誰よりもかっこいいけれど、たまには力を抜いて欲しい』
『待って!今の表情は天才すぎない!?ここ!』
〝ねね〟の言葉はどれも暖かい。
時には俺の背中を押し、時には俺を励ましてくれる。
たくさんのアカウントが俺を応援していたが、〝ねね〟の言葉はその中でも、目を引くアカウントのひとつだった。
〝ねね〟だけが特別なわけではない。
〝こはる〟も〝すみ〟も〝るる〟もたくさんのアカウントが俺の心を掴む。
彼女たちの存在が、俺を前へと向かせてくれるのだ。
番組が進むにつれ、脱落者も出始め、それと同時に残ったメンバーの注目度もどんどん上がっていった。
大手事務所所属ではない、ただの一般人だった俺は、番組後半になると、デビュー圏内を目指せるほどの人気を集めていた。
その結果、俺にはファンだけではなく、アンチもついた。
『素人のダンス。何もかも汚い。踊ってほしくない』
『全部同じ表情で感情移入できない』
『性格悪そう』
毎日流れてくる俺への誹謗中傷。
最初の頃はなかったナイフのような鋭い言葉たちに、俺はさすがに意気消沈した。
もう、辞めようかな。
そう思ってしまう時が、何度もあった。
だが、それでも辞めなかったのは、〝ねね〟が居たからだった。
『ダンス、確実に上手くなってる。翡翠には華がある。必ず目で追っちゃう』
『表情は硬い時もあるけど、そこにはちゃんと緊張とか、一生懸命さがある。翡翠なら絶対いつか完璧な表情管理を見せてくれる』
『翡翠はいつも周りを見て、明るく声をかけている。性格が悪いわけがない』
〝ねね〟が毎日、俺を励ます言葉をこの世に投げてくれる。それを見るたびに、俺は胸を高鳴らせた。
誹謗中傷なんて気にならないほどに、俺は〝ねね〟の言葉だけを頼りにした。
〝ねね〟をフォローするために、SNSに俺名義でないアカウントを作った。
そこで知ったのだが、〝ねね〟には鍵がついている日常アカもあった。
翡翠ファンとして、〝ねね〟と仲良くなり、俺は日常アカも見れるようになった。
〝ねね〟も、日常アカである〝天音〟も、毎日俺への愛を言葉にしてくれた。
今にも崩れそうだった俺を、もう一度立たせ、支えてくれたのは、彼女の言葉だった。
ーーー彼女は俺の神様だ。
*****
デビュー前、最初にして最後の握手会が始まった。
ここがファンに自分を直接アピールする、最後の機会になる。
長机がズラリと置かれたそこには、俺以外にも、サバ番参加メンバーが並び立っていた。
「翡翠くん、ずっと応援してました!最後も駆け抜けて!絶対デビューしようね!」
「うん、ありがとう」
頬を赤く染め、明るく笑うファンと握手をしながら、30秒目を合わせて話す。
こんな機会は初めてで、俺はずっと緊張していた。
ここで何か粗相を起こしてはいけない。
下手したら、デビューに響く。
ファンを1人でも笑顔に、幸せにして、今までの恩を返すのだ。
その心づもりで、愛を振り撒くのだ。
ここには俺の神様も来ているのだから。
緊張しながらも、それでも笑顔を忘れず、ファンと交流すること、1時間。
俺の前に、次は20代前半くらいの綺麗な女の子が現れた。
胸の下まである、ふわふわの黒髪。
センター分けの前髪から見える、綺麗な顔。
白のタートルネックにミニスカ姿は、俺が以前、サバ番内で言った俺の好きな女の子の格好だった。
「翡翠、やっと会えた」
俺の姿を見て、女の子が柔らかく破顔する。
その丸い瞳には、他の女の子と同様に、俺が好きだという気持ちがいっぱい込められていた。
「来てくれて、ありがとう」
机の向こうから差し出された女の子の手を握って、当たり障りのないことを言う。
この子にも、たくさんの幸せと愛をあげなくては。
そう思って、女の子の瞳を覗くと、女の子は優しく笑った。
「緊張してる?大丈夫、翡翠は翡翠らしくいればいいんだよ。みんな、翡翠が大好きでここにいるんだから」
「…っ」
女の子の言葉に、思わず目を見開く。
表に一切出していない俺の内情を、どうして彼女は気付いたのか。
彼女の言葉はどこか暖かく、俺の緊張をゆっくりと溶かしていった。
まるで〝ねね〟の言葉のように、心地よい。
目の前にいる彼女は、俺のことがかなり好きなのだろう。
声音、表情、言葉、全てがそれを伝えてくれる。
さらには俺の好みの格好までしてくれているとは。
健気な彼女の愛が嬉しくて、俺の中で、気がつけば、緊張よりも、喜びの感情の方が強くなっていた。
「翡翠。翡翠はね、私の一番星だよ」
彼女が頬を赤く染め、まっすぐ俺を見て、そう言う。
その言葉に、俺の中の何かがストンッと落ちた。
彼女は〝ねね〟だ。
俺の神様だ。
「…ありがとう。これからも応援よろしくね」
「もちろん!」
彼女の手を握る手に、ぎゅう、と自然と力がこもる。
そんな俺に〝ねね〟は明るく笑った。
ねね。
俺を輝かせてくれる、太陽。
必ず、俺はデビューするよ。
そして、ずっと君の一番星でいるからね。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる