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本編
13話 森の中で独りぼっちになりました
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私が目覚めると、そこは深い森の中でした。
ゆっくり起き上がると、そこら中に何かが散らばっており、いくつかを拾い上げると、魔物の牙のようなものでした。周囲を見渡しても、魔物はいませんし、私を眠らせた奴らもいません。血の臭いもしませんから、ここでは誰も戦っていないのがわかります。というか、知らぬ間に夜が明けていたようです。
「あ、ポシェット!?」
お嬢様たちから戴いたポシェットだけは失いたくないので、急いで腰回りを触ると、モフっとした感触があったので、それが精霊ラピスを模したポシェットであることがわかったので一安心です。
「あいつら、やってくれます」
後から来た3人組、あいつらはメアリーヌの命令で、薬で眠らせた私を森の中へ置き去りにしたのですね。
「いつか絶対に報復してやるです!! それに、私がこの程度で絶望を感じると思ったら大間違いです!! 多頭飼育崩壊から生き残ったパピヨンを舐めるなです!!」
あそこでは、狭い空間の中でどうやって生き残るか、毎日が戦争でした。飢えと喉の渇きを潤すため、溜まった綺麗な雨水を飲み、他の犬たちと喧嘩しながら、ネズミやトカゲなど、色んな生き物や植物を食べて生き残ってきたのです。それに比べたら、こんな環境なんてどうってことないです。
気をつけるべきは、魔物との遭遇です。
ポシェットの食料に関しては、腐ることも考慮して、昨日の夕食でみんなと協力して、半分ほど食べてしまいました。残りは保存食となっていますので、1週間分くらいはあると思います。
「う~ん、森に覆われているせいで、街道の臭いが全然わかりませんね。そうだ、絶対嗅覚でご主人様たちのいる方向と距離を調べたら、少しは位置を掴めるかもしれません」
《立木安優香(前世のご主人様)の位置:ここから北西3567キロ》
《アリア・ヨークランド(今世のご主人様)の位置:ここから南30キロ》
う~安優香様との距離が果てしなく遠いです。
アリア様との距離が野営時よりも、5キロほど遠くなっています。
暗い夜道の中をここまで運んできたのですね。
私は、メアリーヌに相当恨まれているようです。
「べクルトンの街はお嬢様の家から80キロほど離れていますから、その途中にある山の中に捨てられたと言うことですね。それならば、北へ…」
「ピギ~~~~~」
「へ?」
私が考え事をしていると、いきなり茂みから馬鹿でかい猪がこっちに突っ込んできました。気づくのが遅れたので、もう距離は3メートル程しかありません。どうせぶつかってくるのなら、ここでスキル《身体硬健》の力を実感しておきましょう。今後、このスキルを使いこなせないと、魔物と戦えません。私の予想通りなら、おもいっきり殴るだけで勝てるはずです。
「もう、やけくそです!! てや~~~」
私はありったけの力を右拳に込めて、突っ込んでくる馬鹿でかい猪の鼻っぱしらを殴りつけました。かなりの衝撃音が鳴り響くと、猪はずるずると地面に崩れ落ちていきました。
「はは、やったで~~す!! 初めての魔物討伐で~~す!! でも、こいつをどうしましょう?」
体長2メートルくらいありますし、アイテムボックス付きのポシェットには……容量オーバーで入らないようです。う~ん、今ここで食べちゃいましょう!! 私にはスキル《身体硬健》もありますから、生のまま食べても病気になりませんからね。幸い、朝食もまだです。
「え~と、ナイフは……あ、ありました!!」
私のステータス欄には、ポシェット内にある荷物も全て記載されているので助かります。そこにはナイフもあったので、ポシェットを探ると、どういう原理なのか不明ですが、ナイフを出せました。解体なんてしたことないので、このまま適当にやりましょう。
……悪戦苦闘すること30分、どうにか皮を剥いで内臓を取り出し、肉の部分も一部だけ切り落としました。
「生で食べると、どんな味がするのでしょう?」
私はそのまま齧り付き、肉を千切り、味を確認すると、生臭く美味しいとは言えません。
「でも、犬だった時に食べたトカゲと比べるとマシですね」
本当なら火を起こして、きちんと焼いてから食べるべきなんですが、1人でやると火事になる危険性もあります。教わったばかりの知識を、1人で実行するのは危険ですよね。私が適当に肉を切り分けて食べていき、ポシェットの中にある野菜類を生で食べていくと、すぐにお腹いっぱいになりました。
「うう、もう食べられません。まだ、9割以上も残っているのにどうしましょう?」
私が悩んでいると、左の方向から複数の何かがゆっくりこちらに近づいているのを察知しました。立ち上がり警戒態勢をとると、茂みから顔を出したのは……
「狼さん!!」
「げ、さっき見た馬鹿硬い獣人のガキ!?」
私の目の前に、体長2メートルほどの狼さんが1匹だけいます。残りは、茂みの奥に隠れているようです。あれは、屋敷の魔物図鑑で見た《フォレストウルフ》という魔物だったはずです。
あれ?
そういえば、狼さんの言葉がわかったような?
私が首を横に傾げると、狼さんも同じことを思ったのか、同じ方向に首を傾げました。
「狼さん」
「なんだ、ガキ」
やっぱり、互いに意思疎通ができています。理由は不明ですが、意思疎通ができるのなら、余計な戦闘を回避できるかもしれません。
「あなた方は、私を殺す気ですか?」
「さっき無防備な状態のお前を齧った。それだけで、お前は俺らより強者だとわかった。できれば、見逃してほしい」
それ、私が言いたいセリフです。
というか、私が寝ている時に齧っていたんですね。
「私も、無駄な戦いを好みません。ただ、厚かましいのは重々承知なのですが、私のお願いを聞いてくれませんか?」
「願い?」
う、狼さんが後ろに一歩下がりました。
警戒しているのもわかります。
「ここにいる猪、え~と名前はワイルドボアですか? 食べきれないので、残りを全部食ってくれませんか? このままだと、他の魔物を寄せ付けてしまいます」
「は?」
狼さんは馬鹿なことを言う私を見て、呆れた声を出しました。
○○○
私の目の前で、5頭の狼さんが余程お腹を減らしていたのか、ワイルドボアの肉や内臓をがむしゃらに食べています。2頭はパパさん狼、ママさん狼、残り3頭はその子供たちです。
「父ちゃん、久しぶりの肉だよ!!」
「あははは、後でリコッタにお礼を言っておけよ」
「「「うん!!」」」
子供の狼さんたちは食べ盛りなのか、私と同じくらいの身体なのに、私以上にバクバク食べています。
「リコッタ、あんなご馳走は久しぶりよ。分けてくれてありがとう」
先に食べ終えたママさん狼が、私のもとへやって来ました。食べる前の自己紹介では、私を警戒していましたが、今は完全に打ち解けています。
「いえいえ、私も処理に困っていたので助かります」
「その小さな身体で、どうやってあの大きなボアを倒したのか不思議だわ」
「スキルのおかげです。私自身、まだ使いこなせていないのです」
意思疎通できることを互いに不思議に思ったまま、私はママさん狼と世間話をしたことで、狼さんたちの事情を知ることができました。魔物たちにとって、私たち人類は天敵なのですが、魔物同士も同種族以外は互いに敵のようです。そして、魔物たちは強くなるべく、戦った相手の魔石を食べることで、少しずつ進化するそうです。この家族はこの山を住処としており、自分達と同格か格下の魔物を倒して、日々成長しているそうです。
「進化ですか、面白いですね。私も、魔石を食べたら進化するのでしょうか?」
「絶対、食べたらだめ!! 人にとって、魔石は猛毒なの!!」
あう、そうなのですか。
私なら食べられると思いますが、石を食べても美味しくないでしょうし、あのボアの魔石に関しては狼さんたちにあげましょう。ママさん狼と話していて気づいたのですが、何処か足を庇っているような素振りが見えます。
「わかりました、食べないよう気をつけます。ところで、右前足を痛めているのですか? ここへ来る時も、少し庇っているような気がしたのですが?」
「ええ、三日前にゴブリンアーチャーの毒矢で足首を射抜かれたのよ。右前足の動きも日を追うごとに低下しているから、もしかしたら動かせなくなるかもね」
それって、生活していく上で致命的じゃないですか!?
私は魔法を使えませんし、ポーションだって持っていません。
あ、もしかしたら私のスキルを使えば治療できるかもしれません‼︎
「その右前足、私が治療しても良いですか?」
このレベルの怪我を治療できるか試したことありませんが、せっかくなので挑戦してみましょう。
ゆっくり起き上がると、そこら中に何かが散らばっており、いくつかを拾い上げると、魔物の牙のようなものでした。周囲を見渡しても、魔物はいませんし、私を眠らせた奴らもいません。血の臭いもしませんから、ここでは誰も戦っていないのがわかります。というか、知らぬ間に夜が明けていたようです。
「あ、ポシェット!?」
お嬢様たちから戴いたポシェットだけは失いたくないので、急いで腰回りを触ると、モフっとした感触があったので、それが精霊ラピスを模したポシェットであることがわかったので一安心です。
「あいつら、やってくれます」
後から来た3人組、あいつらはメアリーヌの命令で、薬で眠らせた私を森の中へ置き去りにしたのですね。
「いつか絶対に報復してやるです!! それに、私がこの程度で絶望を感じると思ったら大間違いです!! 多頭飼育崩壊から生き残ったパピヨンを舐めるなです!!」
あそこでは、狭い空間の中でどうやって生き残るか、毎日が戦争でした。飢えと喉の渇きを潤すため、溜まった綺麗な雨水を飲み、他の犬たちと喧嘩しながら、ネズミやトカゲなど、色んな生き物や植物を食べて生き残ってきたのです。それに比べたら、こんな環境なんてどうってことないです。
気をつけるべきは、魔物との遭遇です。
ポシェットの食料に関しては、腐ることも考慮して、昨日の夕食でみんなと協力して、半分ほど食べてしまいました。残りは保存食となっていますので、1週間分くらいはあると思います。
「う~ん、森に覆われているせいで、街道の臭いが全然わかりませんね。そうだ、絶対嗅覚でご主人様たちのいる方向と距離を調べたら、少しは位置を掴めるかもしれません」
《立木安優香(前世のご主人様)の位置:ここから北西3567キロ》
《アリア・ヨークランド(今世のご主人様)の位置:ここから南30キロ》
う~安優香様との距離が果てしなく遠いです。
アリア様との距離が野営時よりも、5キロほど遠くなっています。
暗い夜道の中をここまで運んできたのですね。
私は、メアリーヌに相当恨まれているようです。
「べクルトンの街はお嬢様の家から80キロほど離れていますから、その途中にある山の中に捨てられたと言うことですね。それならば、北へ…」
「ピギ~~~~~」
「へ?」
私が考え事をしていると、いきなり茂みから馬鹿でかい猪がこっちに突っ込んできました。気づくのが遅れたので、もう距離は3メートル程しかありません。どうせぶつかってくるのなら、ここでスキル《身体硬健》の力を実感しておきましょう。今後、このスキルを使いこなせないと、魔物と戦えません。私の予想通りなら、おもいっきり殴るだけで勝てるはずです。
「もう、やけくそです!! てや~~~」
私はありったけの力を右拳に込めて、突っ込んでくる馬鹿でかい猪の鼻っぱしらを殴りつけました。かなりの衝撃音が鳴り響くと、猪はずるずると地面に崩れ落ちていきました。
「はは、やったで~~す!! 初めての魔物討伐で~~す!! でも、こいつをどうしましょう?」
体長2メートルくらいありますし、アイテムボックス付きのポシェットには……容量オーバーで入らないようです。う~ん、今ここで食べちゃいましょう!! 私にはスキル《身体硬健》もありますから、生のまま食べても病気になりませんからね。幸い、朝食もまだです。
「え~と、ナイフは……あ、ありました!!」
私のステータス欄には、ポシェット内にある荷物も全て記載されているので助かります。そこにはナイフもあったので、ポシェットを探ると、どういう原理なのか不明ですが、ナイフを出せました。解体なんてしたことないので、このまま適当にやりましょう。
……悪戦苦闘すること30分、どうにか皮を剥いで内臓を取り出し、肉の部分も一部だけ切り落としました。
「生で食べると、どんな味がするのでしょう?」
私はそのまま齧り付き、肉を千切り、味を確認すると、生臭く美味しいとは言えません。
「でも、犬だった時に食べたトカゲと比べるとマシですね」
本当なら火を起こして、きちんと焼いてから食べるべきなんですが、1人でやると火事になる危険性もあります。教わったばかりの知識を、1人で実行するのは危険ですよね。私が適当に肉を切り分けて食べていき、ポシェットの中にある野菜類を生で食べていくと、すぐにお腹いっぱいになりました。
「うう、もう食べられません。まだ、9割以上も残っているのにどうしましょう?」
私が悩んでいると、左の方向から複数の何かがゆっくりこちらに近づいているのを察知しました。立ち上がり警戒態勢をとると、茂みから顔を出したのは……
「狼さん!!」
「げ、さっき見た馬鹿硬い獣人のガキ!?」
私の目の前に、体長2メートルほどの狼さんが1匹だけいます。残りは、茂みの奥に隠れているようです。あれは、屋敷の魔物図鑑で見た《フォレストウルフ》という魔物だったはずです。
あれ?
そういえば、狼さんの言葉がわかったような?
私が首を横に傾げると、狼さんも同じことを思ったのか、同じ方向に首を傾げました。
「狼さん」
「なんだ、ガキ」
やっぱり、互いに意思疎通ができています。理由は不明ですが、意思疎通ができるのなら、余計な戦闘を回避できるかもしれません。
「あなた方は、私を殺す気ですか?」
「さっき無防備な状態のお前を齧った。それだけで、お前は俺らより強者だとわかった。できれば、見逃してほしい」
それ、私が言いたいセリフです。
というか、私が寝ている時に齧っていたんですね。
「私も、無駄な戦いを好みません。ただ、厚かましいのは重々承知なのですが、私のお願いを聞いてくれませんか?」
「願い?」
う、狼さんが後ろに一歩下がりました。
警戒しているのもわかります。
「ここにいる猪、え~と名前はワイルドボアですか? 食べきれないので、残りを全部食ってくれませんか? このままだと、他の魔物を寄せ付けてしまいます」
「は?」
狼さんは馬鹿なことを言う私を見て、呆れた声を出しました。
○○○
私の目の前で、5頭の狼さんが余程お腹を減らしていたのか、ワイルドボアの肉や内臓をがむしゃらに食べています。2頭はパパさん狼、ママさん狼、残り3頭はその子供たちです。
「父ちゃん、久しぶりの肉だよ!!」
「あははは、後でリコッタにお礼を言っておけよ」
「「「うん!!」」」
子供の狼さんたちは食べ盛りなのか、私と同じくらいの身体なのに、私以上にバクバク食べています。
「リコッタ、あんなご馳走は久しぶりよ。分けてくれてありがとう」
先に食べ終えたママさん狼が、私のもとへやって来ました。食べる前の自己紹介では、私を警戒していましたが、今は完全に打ち解けています。
「いえいえ、私も処理に困っていたので助かります」
「その小さな身体で、どうやってあの大きなボアを倒したのか不思議だわ」
「スキルのおかげです。私自身、まだ使いこなせていないのです」
意思疎通できることを互いに不思議に思ったまま、私はママさん狼と世間話をしたことで、狼さんたちの事情を知ることができました。魔物たちにとって、私たち人類は天敵なのですが、魔物同士も同種族以外は互いに敵のようです。そして、魔物たちは強くなるべく、戦った相手の魔石を食べることで、少しずつ進化するそうです。この家族はこの山を住処としており、自分達と同格か格下の魔物を倒して、日々成長しているそうです。
「進化ですか、面白いですね。私も、魔石を食べたら進化するのでしょうか?」
「絶対、食べたらだめ!! 人にとって、魔石は猛毒なの!!」
あう、そうなのですか。
私なら食べられると思いますが、石を食べても美味しくないでしょうし、あのボアの魔石に関しては狼さんたちにあげましょう。ママさん狼と話していて気づいたのですが、何処か足を庇っているような素振りが見えます。
「わかりました、食べないよう気をつけます。ところで、右前足を痛めているのですか? ここへ来る時も、少し庇っているような気がしたのですが?」
「ええ、三日前にゴブリンアーチャーの毒矢で足首を射抜かれたのよ。右前足の動きも日を追うごとに低下しているから、もしかしたら動かせなくなるかもね」
それって、生活していく上で致命的じゃないですか!?
私は魔法を使えませんし、ポーションだって持っていません。
あ、もしかしたら私のスキルを使えば治療できるかもしれません‼︎
「その右前足、私が治療しても良いですか?」
このレベルの怪我を治療できるか試したことありませんが、せっかくなので挑戦してみましょう。
応援ありがとうございます!
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