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本編
18話 私って、地震とお友達なのでしょうか?
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朝の業務終了の鐘が、施設内に鳴り響きます。
「リコッタ、朝の業務…終了だよ」
「ふう、お腹が減りました~~~」
任務3日目となると、流石に業務内容にも慣れてきましたね。カトレアが補助に入ってくれたおかげで、分別した金属も綺麗に整理できますから、作業も捗ります。
「そういえば、今日の朝、外が賑やかでしたが、何かあったのでしょうか?」
「私…理由知ってる。昨日、強い魔物が鉱山の最深部に出現したの」
強い魔物? 元々、鉱山の中には土属性を持つ魔物が度々出現して、冒険者さんたちが退治していると聞いていますが、どんな魔物なのでしょう?
「名前が《メタルリキッドゴーレム》、大勢の冒険者たちが…『掌握すれば大金持ち!!』と声をあげて、鉱山の方へ向かって行った」
強そうな魔物です。
大勢の冒険者たちが訪れていたから、外も賑やかだったのですね。
掌握という意味がわかりませんが、鉱山の入口には近づかない方がいいですね。
「リコッタ、食堂に行こう」
「はいです!!」
私とカトレアが鉱山へ行っても足手まといになりますから、中で分別作業を続けておきましょう。私たちが部屋を出ると、芳しい匂いが漂っています。私の鼻腔をくすぐる匂い、ついクンクンと鼻を動かし、今日の昼食のメニューを想像してしまいます。
「今日のメニューはなんでしょう。楽しみなので…わわ!?」
話している途中で、小さな地響きが起こりました。
こんな場所でも、地震は起こるのですね。
食堂に到着し今日の日替わり定食を見ると、なんとボアのステーキでした!!
値段設定も400チェスタ(銅貨4枚:400円相当)という破格なお値段です。
ここでは、食券を購入しないといけません。
そのため、3台の食券機には目当てのものを購入すべく、行列ができています。
「豪勢…リコッタ…売り切れちゃう…早く日替わり定食をくれる場所へ行こう」
「そうですね」
奴隷の中でも、《犯罪奴隷》に属する者はこの食堂内での食事は許されていませんし、鉱山内で出されるメニューも最低ランクと聞いています。現在のカトレアは、《補助奴隷》という分類で、仕えている者の許可さえあれば、食堂内での食事も可能です。現在の仕え主は7日間限定の私なので、当然許可を出していますし、費用に関しては初日の私とカトレアの働きが評価され、2人分がなんとタダです‼︎
『日替わり定食』限定ですが、専用の食券を予めもらっているので、わざわざ食券を購入する必要性もありません。カトレアはこの内容に大喜びしました。
普段奴隷用の質素な食事だったので、彼女は毎日美味しそうにここで日替わり定食を食べています。今日も、私たちはそれを注文し、トレーに載せて急いで席へと座ります。
さて、お味はどうでしょう?
今日の肉は肉厚もあります。ナイフを持ち、肉に触れると、簡単にスパッと斬れてしまったので、その柔らかさに驚きました。小さく斬っていき、一切れを口の中に入れると、ジューシーな肉の味とタレの絶妙な旨味を感じ、その一体感には目を見張るものを感じさせます。
「美味しいで~す」「美味しい~~~」
ここの施設の食事は、本当に安くて美味しいです。お偉いさんでもある施設長のオルフェンさんが、腕のいい料理人さんを雇っているようです。
食事を楽しんでいると、先程よりも少し大きな地響きが起こりました。
私って、地震に好かれているのでしょうか?
いい経験が無いので、これ以上起きてほしくありません。
「さっきよりも…大きい」
「ですね」
周囲の人々もいつもの日常と違うこともあり、少し不安を感じているようです。多分、これは自然の地震ではありませんね。普通、1時間以内に2回も同じ場所で起こりませんから。そうなると、鉱山内での戦闘による影響でしょうか? 私がそう考えていると、一際大きな地響きが起こりました。
「今度は何ですか!?」
音自体がかなり近い場所で聞こえたような気もします。
皆も私と同じ考えのようで、怯えた表情となります。
「リコッタ」
カトレアの顔も、真っ青です。
「カトレア、外に出ましょう。さっきの音は普通ではありません。鉱山内で何かが起きたんです」
「外は……嫌」
彼女は、外に出ることを極端に怖がります。私たちの寝泊まりする場所はこの施設の隣にある建物のため、必ず日に2度は外に出ないといけないのですが、距離が短いにも関わらず、酷く怯えます。
これも、暴力や虐待による影響なのかはわかりませんが、今は緊急事態です。他の人々も異変を察知して、食事を放棄して、次々と食堂から繋がる庭の方へ出ていきます。多分、私たちが最後になるでしょう。
「状況を見るだけですよ。ここから庭に出ましょう。何かがわかると…ほえ!?」
いきなり地響きではなく、何かの衝突音が聞こえてきました。そのショックで施設全体の照明用の魔道具が壊れたのか、食堂全体が暗くなりました。庭からの光のおかげで、何とか周囲を見渡せますが、状況はかなりまずいです!!
「カトレア、今は外の方が安全だと思い…こ…今度は何ですか!?」
さっきよりも激しい衝突音です。
ここからかなり近いですよ!!
「あ、リコッタ…天井が!?」
カトレアに言われ、天井を見ると、全体が大きくひび割れていました。そこに、真上から特大の衝突音が聞こえてきて、食堂の天井が完全に崩壊して、こっちに襲いかかってきます!!
「リコッタ!?」
「カトレア、危ないです!!」
今から避難しても、天井の崩落に巻き込むこまれて、カトレアが確実に死んでしまいます!!
何とかして助けないと!!
○○○
うう…咄嗟にカトレアに覆い被さったのは良いのですが、真っ暗闇のせいで状況を理解できません。スキル《暗視》のおかげでぼんやりと周囲を認識できますが、それでも暗いです。
「カトレア、大丈夫ですか?」
「左手と左足が…痛い。真っ暗で何も見えない。リコッタの声が…真上から聞こえてくる」
天井の一部がカトレアの身体に当たったようです。でも、今パピヨン状態にはなれません。私の真上には、崩落した天井が覆い被さっているはずです。重い何かが、私の背中に伝わっているのですから。
でも、スキルのおかげか、不思議と苦しくありません。
一体、外で何が起きているのでしょう?
とにかく、一刻も早くここを出ないといけません。
「カトレア、絶対に私から離れないでください。今は私のスキルであなたを守れていますが、私から離れた瞬間、押し潰される可能性があります」
今の私は四つん這い状態で、カトレアを守っています。ここから脱出するためには、彼女を守りつつ動かないといけません。
「押し潰…リコッタは怪我してないの?」
カトレアから、《焦り》と《恐怖》の匂いを感じます。
あまり刺激させてはいけません。
自分の言動には注意しないと。
「ふふふ、こういった緊急事態には、スキル《身体硬健》が発動するのです。これが発動している限り、私は絶対に怪我しません。だから、私の下にいる限り、あなたは大丈夫なのです。ただ、なるべく手足を広げないようにしてくださいね。私の身体自体が小さいので、守れる範囲も狭いのです」
「どうして逃げなかったの? 私を放置して、そのスキルを使えば今頃脱出できたのに」
カトレアの言葉に、私はカチンときました。彼女の言った行為は、明確な裏切りを意味しているからです。
「友達を見捨てて逃げるなんて論外です!! 私は、ご主人様や友達、困っている人たちを守るために、このスキルを女神様から授かったのです!! この信念だけは、絶対に曲げません!! たとえ、私が裏切りに遭おうとも、自分の出来うる範囲内で困っている人々を守ると決めたのです!!」
私は、多頭飼育崩壊を起こした無責任な人間になりたくない。そこにどんな事情があろうとも、あの時の絶望を合わせた人と同じような行為だけは絶対にしたくない。私の身に何が起ころうとも、これだけは曲げたくない!!
「友達…なんで…私…役立たずなのに…どうして…何も返せないのに…どうして…」
泣き声が下から聞こえます。カトレア自身、人から何度も虐待や暴力を受けていたから、きっと裏切り行為も何度もあったのでしょう。
「カトレア、何も返せなくていいです。これは、友達として当たり前の行為なのです」
「ありがと…ありがと…リコッタ…ありがとう」
「さあ、ここから脱出しましょう。私が前へ少しずつ進んでいきますので、あなたもそれに合わせてください。両手を上に伸ばして、私の身体に触れていれば、方向もわかるはずです」
「うん…うん」
私自身がカトレアを守りつつ、少しずつ進んでいきましょう。たとえ、周囲が大きな瓦礫に覆われていようとも、私にはスキル《身体硬健》があります。これまでの経験上、このスキルが発動しているときに限り、私の力も大幅に向上します。この瓦礫に覆われている状態であっても、力を制御できれば、必ず突破できるはずです。
「リコッタ、朝の業務…終了だよ」
「ふう、お腹が減りました~~~」
任務3日目となると、流石に業務内容にも慣れてきましたね。カトレアが補助に入ってくれたおかげで、分別した金属も綺麗に整理できますから、作業も捗ります。
「そういえば、今日の朝、外が賑やかでしたが、何かあったのでしょうか?」
「私…理由知ってる。昨日、強い魔物が鉱山の最深部に出現したの」
強い魔物? 元々、鉱山の中には土属性を持つ魔物が度々出現して、冒険者さんたちが退治していると聞いていますが、どんな魔物なのでしょう?
「名前が《メタルリキッドゴーレム》、大勢の冒険者たちが…『掌握すれば大金持ち!!』と声をあげて、鉱山の方へ向かって行った」
強そうな魔物です。
大勢の冒険者たちが訪れていたから、外も賑やかだったのですね。
掌握という意味がわかりませんが、鉱山の入口には近づかない方がいいですね。
「リコッタ、食堂に行こう」
「はいです!!」
私とカトレアが鉱山へ行っても足手まといになりますから、中で分別作業を続けておきましょう。私たちが部屋を出ると、芳しい匂いが漂っています。私の鼻腔をくすぐる匂い、ついクンクンと鼻を動かし、今日の昼食のメニューを想像してしまいます。
「今日のメニューはなんでしょう。楽しみなので…わわ!?」
話している途中で、小さな地響きが起こりました。
こんな場所でも、地震は起こるのですね。
食堂に到着し今日の日替わり定食を見ると、なんとボアのステーキでした!!
値段設定も400チェスタ(銅貨4枚:400円相当)という破格なお値段です。
ここでは、食券を購入しないといけません。
そのため、3台の食券機には目当てのものを購入すべく、行列ができています。
「豪勢…リコッタ…売り切れちゃう…早く日替わり定食をくれる場所へ行こう」
「そうですね」
奴隷の中でも、《犯罪奴隷》に属する者はこの食堂内での食事は許されていませんし、鉱山内で出されるメニューも最低ランクと聞いています。現在のカトレアは、《補助奴隷》という分類で、仕えている者の許可さえあれば、食堂内での食事も可能です。現在の仕え主は7日間限定の私なので、当然許可を出していますし、費用に関しては初日の私とカトレアの働きが評価され、2人分がなんとタダです‼︎
『日替わり定食』限定ですが、専用の食券を予めもらっているので、わざわざ食券を購入する必要性もありません。カトレアはこの内容に大喜びしました。
普段奴隷用の質素な食事だったので、彼女は毎日美味しそうにここで日替わり定食を食べています。今日も、私たちはそれを注文し、トレーに載せて急いで席へと座ります。
さて、お味はどうでしょう?
今日の肉は肉厚もあります。ナイフを持ち、肉に触れると、簡単にスパッと斬れてしまったので、その柔らかさに驚きました。小さく斬っていき、一切れを口の中に入れると、ジューシーな肉の味とタレの絶妙な旨味を感じ、その一体感には目を見張るものを感じさせます。
「美味しいで~す」「美味しい~~~」
ここの施設の食事は、本当に安くて美味しいです。お偉いさんでもある施設長のオルフェンさんが、腕のいい料理人さんを雇っているようです。
食事を楽しんでいると、先程よりも少し大きな地響きが起こりました。
私って、地震に好かれているのでしょうか?
いい経験が無いので、これ以上起きてほしくありません。
「さっきよりも…大きい」
「ですね」
周囲の人々もいつもの日常と違うこともあり、少し不安を感じているようです。多分、これは自然の地震ではありませんね。普通、1時間以内に2回も同じ場所で起こりませんから。そうなると、鉱山内での戦闘による影響でしょうか? 私がそう考えていると、一際大きな地響きが起こりました。
「今度は何ですか!?」
音自体がかなり近い場所で聞こえたような気もします。
皆も私と同じ考えのようで、怯えた表情となります。
「リコッタ」
カトレアの顔も、真っ青です。
「カトレア、外に出ましょう。さっきの音は普通ではありません。鉱山内で何かが起きたんです」
「外は……嫌」
彼女は、外に出ることを極端に怖がります。私たちの寝泊まりする場所はこの施設の隣にある建物のため、必ず日に2度は外に出ないといけないのですが、距離が短いにも関わらず、酷く怯えます。
これも、暴力や虐待による影響なのかはわかりませんが、今は緊急事態です。他の人々も異変を察知して、食事を放棄して、次々と食堂から繋がる庭の方へ出ていきます。多分、私たちが最後になるでしょう。
「状況を見るだけですよ。ここから庭に出ましょう。何かがわかると…ほえ!?」
いきなり地響きではなく、何かの衝突音が聞こえてきました。そのショックで施設全体の照明用の魔道具が壊れたのか、食堂全体が暗くなりました。庭からの光のおかげで、何とか周囲を見渡せますが、状況はかなりまずいです!!
「カトレア、今は外の方が安全だと思い…こ…今度は何ですか!?」
さっきよりも激しい衝突音です。
ここからかなり近いですよ!!
「あ、リコッタ…天井が!?」
カトレアに言われ、天井を見ると、全体が大きくひび割れていました。そこに、真上から特大の衝突音が聞こえてきて、食堂の天井が完全に崩壊して、こっちに襲いかかってきます!!
「リコッタ!?」
「カトレア、危ないです!!」
今から避難しても、天井の崩落に巻き込むこまれて、カトレアが確実に死んでしまいます!!
何とかして助けないと!!
○○○
うう…咄嗟にカトレアに覆い被さったのは良いのですが、真っ暗闇のせいで状況を理解できません。スキル《暗視》のおかげでぼんやりと周囲を認識できますが、それでも暗いです。
「カトレア、大丈夫ですか?」
「左手と左足が…痛い。真っ暗で何も見えない。リコッタの声が…真上から聞こえてくる」
天井の一部がカトレアの身体に当たったようです。でも、今パピヨン状態にはなれません。私の真上には、崩落した天井が覆い被さっているはずです。重い何かが、私の背中に伝わっているのですから。
でも、スキルのおかげか、不思議と苦しくありません。
一体、外で何が起きているのでしょう?
とにかく、一刻も早くここを出ないといけません。
「カトレア、絶対に私から離れないでください。今は私のスキルであなたを守れていますが、私から離れた瞬間、押し潰される可能性があります」
今の私は四つん這い状態で、カトレアを守っています。ここから脱出するためには、彼女を守りつつ動かないといけません。
「押し潰…リコッタは怪我してないの?」
カトレアから、《焦り》と《恐怖》の匂いを感じます。
あまり刺激させてはいけません。
自分の言動には注意しないと。
「ふふふ、こういった緊急事態には、スキル《身体硬健》が発動するのです。これが発動している限り、私は絶対に怪我しません。だから、私の下にいる限り、あなたは大丈夫なのです。ただ、なるべく手足を広げないようにしてくださいね。私の身体自体が小さいので、守れる範囲も狭いのです」
「どうして逃げなかったの? 私を放置して、そのスキルを使えば今頃脱出できたのに」
カトレアの言葉に、私はカチンときました。彼女の言った行為は、明確な裏切りを意味しているからです。
「友達を見捨てて逃げるなんて論外です!! 私は、ご主人様や友達、困っている人たちを守るために、このスキルを女神様から授かったのです!! この信念だけは、絶対に曲げません!! たとえ、私が裏切りに遭おうとも、自分の出来うる範囲内で困っている人々を守ると決めたのです!!」
私は、多頭飼育崩壊を起こした無責任な人間になりたくない。そこにどんな事情があろうとも、あの時の絶望を合わせた人と同じような行為だけは絶対にしたくない。私の身に何が起ころうとも、これだけは曲げたくない!!
「友達…なんで…私…役立たずなのに…どうして…何も返せないのに…どうして…」
泣き声が下から聞こえます。カトレア自身、人から何度も虐待や暴力を受けていたから、きっと裏切り行為も何度もあったのでしょう。
「カトレア、何も返せなくていいです。これは、友達として当たり前の行為なのです」
「ありがと…ありがと…リコッタ…ありがとう」
「さあ、ここから脱出しましょう。私が前へ少しずつ進んでいきますので、あなたもそれに合わせてください。両手を上に伸ばして、私の身体に触れていれば、方向もわかるはずです」
「うん…うん」
私自身がカトレアを守りつつ、少しずつ進んでいきましょう。たとえ、周囲が大きな瓦礫に覆われていようとも、私にはスキル《身体硬健》があります。これまでの経験上、このスキルが発動しているときに限り、私の力も大幅に向上します。この瓦礫に覆われている状態であっても、力を制御できれば、必ず突破できるはずです。
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