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本編

19話 凄惨な光景です

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私とカトレアは、瓦礫の中を少しずつ前進していきます。スキル《身体硬健》のおかげで、どんな大きさの瓦礫であっても、私が左右の腕を使うことで楽に取り払うことができます。ただ、その度に周囲が崩れたり、瓦礫が私の真上から落下したりするので、私もカトレアも肝を冷やします。カトレアも直撃しないよう身を縮こませ、私の身体の範囲内に入るよう努力しています。

「外に出たら、状況次第ですぐに動く必要がありますね。特に、戦闘中のところにボコっと顔を出したら、絶対目立ちます」

「うん…死にたくない。リコッタは、魔物と戦ったことある?」

「森の中でワイルドボアと戦い勝利しました。でも、実戦経験がそれだけなので、この力がボア以外の魔物に通用するのかもわかりません」

メタルリキッドゴーレムに遭遇したら、私も強制的に戦わないといけません。防御面には関しては私も自身ありますが、攻撃面が問題です。

「羨ましい…私には戦闘用のスキルがない」

「適材適所です。私は、人を守ったり癒したりするスキルを持っているだけです。カトレアにも、どこかの場面で役立てる才能があるはずです」

私の場合、前世のご主人様のもとへ行きたいという明確な目的を持っていましたから、初期の時点で強いスキルを持てました。カトレアだって夢を見つけたら、きっと強力なスキルを発現できると思います。ただ、軽はずみに明言するのもダメなので、今はこんな言葉しかフォローできません。

「うん」
「あ、光が漏れ出ています。もうすぐ、出口ですよ!!」

四つん這い状態で少しずつ前進しましたが、崩落してからどれくらいの時間が経過したのでしょう? あれ以降、地響きも衝撃音も聞こえてきません。瓦礫のせいで、聞こえないだけなのでしょうか? 

「多分、これが最後の瓦礫、これをどかせば……やった、出口です!!」
「光だ」

私が左腕で邪魔な瓦礫をおもいっきりどかすと、ようやく陽の当たる外に出られました。真っ先にカトレアの状態を確認すると、左腕と足首付近が赤く腫れています。前進する際、かなり痛がってましたが、骨が折れているようには見えません。次に、外の状況に目を向けると……

「なんですか…この悲惨な光景は!?」
「あ……」

周囲にあった建物の多くが半壊しており、3名の冒険者が地面に倒れ伏し、足や手を鋭利な刃物で斬られ、苦痛で顔を歪めています。既に致命傷を受け死んでいる者も、4名いて、縦や横に一刀両断され、中身が漏れ出て、大きな血溜まりとなり、血生臭い匂いが周囲に満ちています。

そして……3名の冒険者たちが、そこから少し離れた場所で、現在も1体の大型魔物と戦闘中のようです。

グレーの液体状の大型魔物、あれが《メタルリキッドゴーレム》なのでしょうか? 
ここから距離も離れていますから、これならカトレアを連れて避難できそうです。

「リコッタ…どうする?」
「勿論、逃げます」

ここにいたら、いつ標的になるかわかりませんからね。私がカトレアの右肩を首に担ぎ、気取られないよう少しずつ戦線から距離をとっていきます。冒険者さんには悪いですが、今はカトレアを避難させることが、私の最優先事項です。

「「子供たち~~~回避しろ~~~~」」 
「「え?」」

後方から冒険者たちの声が聞こえたので急いで振り向くと、何も起こりませんでした。私たちは疑問に思い立ち止まると、遠く離れた魔物がこっちを見たような感覚を受けました。

「あの男共は!? リコッタ、ここから早く逃げないと!! あいつらは私を裏切った男なの!!」

「ふえ、どういうことですか?」

私があたふたしているうちに、魔物の方から何か大きなものが飛んできました。このままだと、カトレアにも当たってしまうので、私は慌てて彼女を突き放します。

「リコッタ!?」

謎の大きな銀色の弾丸に無防備で直撃してしまい、私は後方に吹っ飛ばされ、建物の壁に激突し、崩れた壁が私を埋めていきます。さっきを声をかけてきた2人の男、1人は人間族で私たちから近い位置にいて、足に大怪我を追っていました。残る1人はかなり離れて魔物と戦っている獣人男性でした。距離があったにも関わらず、魔法を使ったのか、声を聞き取れました。

あいつらは何も起きていないのに、何故私たちを呼び止めた? 
あいつのせいで、魔物が私たちを標的にしてしまった。

「あ、カトレアが危ない!?」

私が急いで瓦礫を吹き飛ばし、前方を見ると、魔物は彼女ではなく、私たちに声をかけてきた大怪我を負っている男の方を見ていました。

「くそ…せっかくゴルドたちから目を逸らせたのに…やべえ…木偶の棒のカトレアより俺を標的に…逃げないと…足が…くそ…毒で身体が…」

ゴルド? 何処かで聞いた名前です。

あの男は逃げようと必死に立ち上がろうと足掻いていますが、魔物から放たれた数えきれない無数の小さな銀色の弾幕が彼の身体を貫きます。

「ちく…しょ…」

男は穴だらけになって、そのまま地面に倒れ伏し絶命しました。

あの男は仲間から魔物の気を逸らすために、わざと私たちに声をかけて、私たちを魔物の標的にしたのでしょうか……だとしたら、最低最悪な行為です。

「あ、まずいです!!」

魔物は、私よりも距離の近いカトレアに照準を合わせたような気がします。まだ余力を残している冒険者たち3人はそれを見て、自分たちの身体を回復させているようです。彼らは魔物討伐を任務としている以上、是が非でも勝たないといけません。だからといって、私たちを囮にしますか!? とにかく、今はカトレアのもとへ一刻も早く向かいましょう。

私は急いでパピヨン形態になって、全力でカトレアのもとへ走ります。そして、先程の無数の弾丸が到達するよりも早く、元の姿に戻り彼女を庇いました。

「リ…リコッタ…」
「カトレア、もう大丈夫です」

カトレアが怪我を負い、地面に倒れていて助かりました。もし、起き上がっていたら、何発かダメージをもらったかもしれません。

「あ…あいつの身体が穴だらけになって…死んだ!! バチが当たったんだ!!」

カトレアの言うあいつとは、さっきの攻撃で絶命した奴ですね。大部分は恐怖で占められていますが、その根底にかなり強い恨みの匂いを感じます。過去に、何か相当な裏切り行為があったのでしょう。

「カトレア、正気を保ってください。奴の絶命した姿をあまり見てはいけません。今は、魔物から逃げることを考えてください」

カトレアを覆いながらこんな会話を交わしていますが、現在も私の背中に魔物から放たれた銀色の散弾が直撃していますので動けません。

「あ…ごめん…リコッタの身体が!?」

「スキルがあるので大丈夫です。ただ、さっきの大きなものより強くはないものの、数が多いので、何もできません」

私はそ~っと顔を後方に向けて、あの魔物をじっと見つめます。グレーのドロドロした液体、見た目は図鑑で見たスライムそのものです。液体からは、土と温泉のような変な匂いを感じますね。

あれは、本当にゴーレムなのでしょうか? 
あ、弾丸の嵐が止んでいきます。
完全に止まったので、私は身体を転換させて、奴と向かい合います。

「今度は何をするつもりですか?」

遠くにいるドロドロした液体状の魔物が、周囲に散らばっている銀色の液体を吸引していきます。すると、身体がどんどん膨らんでいき、10メートルくらいの大きさになったと思ったら、今度はそこから縮んでいき、形を変え、1体の巨大な銀色の人形のような怪物に変化しました。5メートルくらいの大きさですが、威圧感もあり、かなり怖いです。

「え~どうして、こっちに走ってくるんですか~~~」

このままでは、カトレアを確実に巻き込みます。あいつの標的は私のようですから、ここから離れましょう。

「カトレア、あいつの標的は私です。囮になりますから、急いでここから離れてください」
「ごめん…無理だよ。左足が痛くて歩けそうにない」

彼女の左足と左腕を見ると、さっきよりも赤く腫れ上がっています。見ただけで、相当な激痛を感じていることがわかります。

「それなら、私がカトレアから離れた方がいいですね。弾丸の射線に入らないように動きますね」
「リコッタ…ごめん」

私は、カトレアと冒険者から離れます。私が時間稼ぎをしている間に、冒険者の方々には身体を回復してもらい、再び戦線に参加してもらいましょう。私が皆から遠く離れたところにくると、魔物は右腕を大きく振り上げ、私目がけて振り下ろしてきました。その速度が、異様に速いです。

「この魔物、大きいくせに素早いです!!」

私は両腕を交差して防御すると、凄まじい轟音が周囲に鳴り響き、ゴーレムの右腕が砕け散り、痛かったのか悲鳴をあげます。多少のダメージが入ったのかと思ったのですが、砕けた右腕が液体になって、すぐさまゴーレムの方に動いていき結合すると、すぐに腕が復活しました。そうなると、これまで放ってきた弾丸全てがこいつの身体に戻ってしまうから、弾数が無制限じゃないですか!!

「それ、反則です~~~」

ゴーレムは左右の腕を振りかざし、私を襲いかかってきます。吹っ飛ばされたくないので、何とか回避していますが、このままだと埒があきません。

どうやって、退治すればいいのでしょう?
 
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