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2章 家族との別離(今世)
26話 願いよ、届け
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私が祈りを捧げた瞬間、それは聞こえる。
「咲耶、その言葉を待っていたよ」
「咲耶、その言葉を待っていましたよ」
「ルウリ!! フリード!!」
ルウリとフリードが私の願いと同時に、目の前に出現した。
願いが通じたのは嬉しいけど、早過ぎるような?
「ハミングバードと猫又か。丁度いい、君らもフェルデナンド家の奴隷になるといい」
【奴隷】、これが父…いえ、フェルデナンド伯爵の本性なんだ。会話をすればするほど、この人は本性を曝け出してくる。自分に逆らう者は、たとえ娘であろうとも、自分にとって有意義な者となるよう、性格をスキル《暗示》で歪め、その後にスキル《コントラクト》で心を縛る。
リリアーナも、この男に小さい頃からスキルで性格を変えられていたのだろうか? まだ、記憶を断片的にしか知らないけど、あれだけ暴力を受けていたにも関わらず、彼女は家族を求めていた。これが暗示によるものなのか、元来の性格なのかはわからないけど、心そのものが壊されたことだけは間違いない。
この男はあんな酷いことをしておいて、平然とした顔で私に帰ってこいと宣う非常識な人間だ。彼は醜悪な笑みを浮かべ、駆けつけてきた2体に命令しているけど、ルウリもフリードも全く動揺していない。
「全く哀れな男ですね。スキル《暗示》と《コントラクト》、強力な力を使うことばかりに気を取られ、自分が護衛4人だけでどうしてこんな遠方の土地へ来たのか、未だに理解していないようです」
フリード、何を言っているの? ユウキさんの定期報告を聞き、スキル[原点回帰]に目覚めた私を捕まえるため、あいつはここへ来たのでしょう?
「ある目的を達成させるため、僕たちが全て仕組んだ事なのに。大抵、こういった特殊スキルを持つ者は、その危険性を熟知しているからこそ、自分自身が囚われないよう、あらゆる方面からある程度の耐性を身に付けるものだ。まあ、今回それが仇になったわけだけど。この分だと、永久に気づかないか」
へ?
ルウリ、どういうこと?
ユウキさんを見てもポカ~ンとしているから、彼女も何も知らないんだ。
「お前たちが仕組んだだと? 何を言っている?」
怪訝な顔をするフェルデナンド伯爵、多分私たちも似たような表情となっているかもしれない。
「簡単に言うと、ここにいる君たち全員は僕とフリードの掌の上で転がされたってことさ。その証拠を見せてあげよう。伯爵、そこの護衛共に僕たちを捉えるよう命令してみなよ」
ここにいる全員、つまり私もユウキさんも伯爵もルウリたちに利用されたってこと?
一体、何の目的があって、こんな事をしたの?
「よかろう、望み通りにしてやる。お前たち、この2体を痛めつけろ!!」
あれ?
主人が命令しているのに、4人の騎士たちは全く動こうとしないわ。
というか、ここに来て以降の彼らの立ち位置が全く変わってない。
「どうした? 私の命令が聞こえないのか!! さっさと、2体を痛めつけろ!!」
気のせいかな? よく見ると、少しだけふらついているような? それに、さっきからずっと目を閉じているわ。あ、フリードが何かしたのか、4人が一斉に地面に崩れ落ちた。
「ほほほほ、安心しなさい。私の法術で深く眠っているだけですよ」
全然、気づかなかった。
フリード、いつの間に法術を使用したの?
「馬鹿な…一体、何処で…かけられた? 法術であっても、使用時には必ず魔力を使用するはずだ。我々が、それを見逃すはずがない!!」
私もフリードから法術について教えられたけど、今でも魔法との違いがよくわからない。元々、彼はここから遠く離れた東の国[みずほ]出身で、そこでの魔法の名称は【法術】とされていて、術名や効果もこちらと少し違うみたい。でも、魔力を消費することで発動するところは、魔法と同じなのよね。
「全くお馬鹿な連中ですね。私は、何度か王都を訪れていますから、転移魔法でいつでもそちらに行けるのですよ。私とルウリの分身体が、フェルデナンド家を利用するため、ず~っとあなた方を監視していました。分身体なので、物理法則は通じません。よって、邸に侵入し放題、壁を通り抜けし放題なんですよ。今回、最も無防備な睡眠時を利用させてもらいました。私とルウリは、スキル《暗示》と《コントラクト》を持っています。これを利用すれば、こう言った時間差の芸当も可能なのです。あなたも、似たようなことをスキル[コントラクト]でやっているでしょうに」
魔法や法術をスキルと併用することで、そんな事もできるんだ。
あ、いつの間にか2体がいることで、私の心に安心感が芽生えてるわ。
油断しちゃだめだ。
敵は私の父親、私を狙っている以上、何かを仕掛けてくる可能性があるもの。2体に頼っているだけじゃなく、せめて私も自分の身は自分で守れるようにしないといけない。
「おい、起きろ、お前ら!! ええい、この役立たずが!!」
酷い、自分の護衛なのに、寝ている彼らを容赦なく蹴っている。何度蹴っても、護衛が起きることはない。自分を守る護衛が1人もいなくなり、形勢が一気に逆転したことを理解したのか、伯爵の方を見ると、顔色も悪くなっていき、足元もふらついている。
「おやおや、頭に血がのぼっているようで気づきませんか? 契約」
フリードが漏らした言葉に、伯爵の動きが止まる。
「そうだ…馬鹿な…こんな事が…契約違反なのに…何故死なない?」
伯爵の顔色が、更に酷いものになっていく。
「フリード、どういうこと?」
「この男は部下全員に暗示をかけて、一つの契約を施しているのです。《命令を3回連続で逆らった場合は、死を発動する》。コントラクトで発生する契約自体が一つの鎖となって心臓に巻きつき、命令に逆らったら握りつぶすという仕組みです」
この男は、部下を何だと思っているの?
王都にいる貴族って、みんながこんな醜悪な人ばかりなの?
「まさか…スキルの上書き…か?」
身体を震わせ、顔を真っ青にした伯爵は、恐る恐るフリードを見る。
スキルの上書きって何?
私も知らないわ。
「正解です。私のスキル[コントラクト]で、あなたの持つ契約を上書きしたのですよ。そのため、4人に課せられたあらゆる契約は解除されています。同スキルでの上書きを成功させるには、相手の力を大きく上回る技量が必要となります。ほほほほ、この意味をもちろん理解していますよね? 理解を拒否して私たちに仕掛けてきた場合、どんな末路になるのやら」
【同スキルによる効果の上書き】、そんな方法があったなんて知らなかったわ。実際成功させているのだから、フリードは伯爵よりも圧倒的な強者なんだ。
「馬鹿な…スキル[コントラクト]は相手の魂を縛る。どんな強者であれ、魂との契約を《上書きする》など不可能なはずだ。無理に実施すれば、身体がそのものが爆発しかねないと言うのに…馬鹿な…ありえない…」
伯爵は何かを悟ったのか、地面に座り込んだ。負けず嫌いな性格なのか、元凶となる2体を未だに睨んでいるけど、肝心のルウリとフリードは伯爵に対して、上から目線のような涼しげで鋭い視線を向けている。身長的には伯爵の方が遥かに高いのに、地面に近い2体の方が圧倒的上位に見えるわ。
「馬鹿なのは君だよ、伯爵。スキル[暗示]を使い、スキル[コントラクト]を無理矢理行使しているからこそ、魂の捕縛が不完全なのさ。理由は単純明快、ここにいる4人の護衛騎士もユウキも理性があり、全員が悟られないよう、必死にその契約に抗おうとしているからだ。そう言った歪な関係ならば、魂を縛るコントラクトと言えど、上書きは可能なのさ」
え、ということは、始めからルウリたちに相談していれば、ユウキさんの契約を上書きできたってこと?
「馬鹿な…貴様らの目的は何だ?」
伯爵は、私の側にいるルウリとフリードを睨む。
その眼光には、強い光が宿っている。
まだ、諦めていないんだ。
「一応、フェルデナンド家には感謝しているんだ。君たちが咲耶をこの地へ転移させたから、僕たちはこうして出会えたのだから。咲耶には、ここで幸せに暮らしてほしい。そのためには、諸悪の根源をこのまま放置させておくわけにはいかない。咲耶と僕たちが出会ったその瞬間から、君たちフェルデナンド家は、目障りな存在になってしまったんだよ」
ルウリの目には、怒りが込められている。
全ては、私を思っての行動だったのね。
語られる言葉の一語一語が剣や威圧感となって、伯爵を突き刺し、覆い尽くしていく。伯爵の方を見ると、気圧されているのか、眼光がどんどん萎んでいっている。
「と言っても、僕とフリードが表立って行動すると、どうしても目立ってしまう。そんな時、レストラン《クザン》で君たちを潰す格好の餌を入手した。同時期に、咲耶を監視する女-ユウキも出現したから、この子を利用してやろうと思ったのさ」
ユウキさん自身が、それを理解していない。彼女は暗殺者だから、感知系スキルも優秀だと思うし、全てにおいて警戒しているはずだ。そんな彼女に気付かれず、どうやって利用したの?
「どうやら、3人全員がわかっていないようだ。答え合わせをしてあげよう。ユウキには、僕のスキル《思考誘導》を行使したのさ。このスキルは、自分の言葉を思惑通りに語りやすくする効果があるのだけど、その効果自体をスキル《付与》で他者に一定時間付与させる事も可能なのさ。[咲耶がリリアーナかもしれない][咲耶のスキル《原点回帰》は超有用]、早い段階でこの二つをユウキに強く認識させ、伯爵をこちらに来させるよう、僕のスキルを付与させて定期報告させた。無論、ユウキにも伯爵にもクザンの件を一切悟られないよう配慮してね。君はその誘導に全く気付かず、ここへノコノコと現れたってわけ」
フェルデナンド伯爵は、王都から国境近くのこの街へやって来た。その距離は不明だけど、私が見つかり、有用なスキルも発現したからと言って、当主自らがわざわざ来る必要性はない。ユウキさんが私を捕まえて、その後に王都へ連れ戻せばいいだけだもの。
その違和感を諭られないよう、ルウリはスキル《思考誘導》を使ったんだ。そういう利用法なら、伯爵も気づかないのもわかるわ。ルウリ自身が、直接干渉していないのだから、伯爵に気付けるわけがない。ユウキさんの場合、スキルによる付与だから感知できなかったのかもしれない。
「それと、君に良いことを教えてあげよう。昨日の時点で、僕とフリードの分身体が、フェルデナンド家の血縁者たちとその婚姻者たちを縛る呪縛全てを上書きさせ、契約全てを打ち消させてもらった。既に、1人の人物が君の両親を殺している。今後、血生臭い事件がもっと起きるかもしれないよ」
2体とも、十分目立つ行為を行なっているよ。しかも、私の祖父と祖母が、血縁者かその婚姻者の誰かに殺されたんだ。スキルで無理矢理縛っていた魂が解放されたことで、長年蓄積させていた恨みも一気に爆発させたんだ。
「ああ、安心するといい。犯人は善人だから、誰が殺人者なのかわからないよう、僕とフリードの分身体が工作しておいた」
せっかく解放されたのに、その途端に牢屋行きというのは、いくらなんでも可哀想だけど……私がとやかく言う権利はないか。
「なんて…ことを…早く邸に…」
「馬鹿だな。君には、レストラン[クザン]に関わるあらゆることを暴露してもらう役割があるんだ。逃すわけないだろう。君の人生は、ここで終焉だ」
え?
自分で暴露って、この男の性格から考えて絶対にしないわ。
何かするつもりなんだ。
伯爵もそれに気付いたのか、逃げようとこちらの隙を窺っている。
「ほほほほ、逃がしませんよ。私たちから逃れる術はありません。さあ、仕上げの時間です!!」
「フリード、やろうか!!」
ルウリとフリードが、一気に距離を詰めて、伯爵の顔面に接近した。
2体が伯爵の目をじっと見つめている。
一体、何をするつもりなの?
「咲耶、その言葉を待っていたよ」
「咲耶、その言葉を待っていましたよ」
「ルウリ!! フリード!!」
ルウリとフリードが私の願いと同時に、目の前に出現した。
願いが通じたのは嬉しいけど、早過ぎるような?
「ハミングバードと猫又か。丁度いい、君らもフェルデナンド家の奴隷になるといい」
【奴隷】、これが父…いえ、フェルデナンド伯爵の本性なんだ。会話をすればするほど、この人は本性を曝け出してくる。自分に逆らう者は、たとえ娘であろうとも、自分にとって有意義な者となるよう、性格をスキル《暗示》で歪め、その後にスキル《コントラクト》で心を縛る。
リリアーナも、この男に小さい頃からスキルで性格を変えられていたのだろうか? まだ、記憶を断片的にしか知らないけど、あれだけ暴力を受けていたにも関わらず、彼女は家族を求めていた。これが暗示によるものなのか、元来の性格なのかはわからないけど、心そのものが壊されたことだけは間違いない。
この男はあんな酷いことをしておいて、平然とした顔で私に帰ってこいと宣う非常識な人間だ。彼は醜悪な笑みを浮かべ、駆けつけてきた2体に命令しているけど、ルウリもフリードも全く動揺していない。
「全く哀れな男ですね。スキル《暗示》と《コントラクト》、強力な力を使うことばかりに気を取られ、自分が護衛4人だけでどうしてこんな遠方の土地へ来たのか、未だに理解していないようです」
フリード、何を言っているの? ユウキさんの定期報告を聞き、スキル[原点回帰]に目覚めた私を捕まえるため、あいつはここへ来たのでしょう?
「ある目的を達成させるため、僕たちが全て仕組んだ事なのに。大抵、こういった特殊スキルを持つ者は、その危険性を熟知しているからこそ、自分自身が囚われないよう、あらゆる方面からある程度の耐性を身に付けるものだ。まあ、今回それが仇になったわけだけど。この分だと、永久に気づかないか」
へ?
ルウリ、どういうこと?
ユウキさんを見てもポカ~ンとしているから、彼女も何も知らないんだ。
「お前たちが仕組んだだと? 何を言っている?」
怪訝な顔をするフェルデナンド伯爵、多分私たちも似たような表情となっているかもしれない。
「簡単に言うと、ここにいる君たち全員は僕とフリードの掌の上で転がされたってことさ。その証拠を見せてあげよう。伯爵、そこの護衛共に僕たちを捉えるよう命令してみなよ」
ここにいる全員、つまり私もユウキさんも伯爵もルウリたちに利用されたってこと?
一体、何の目的があって、こんな事をしたの?
「よかろう、望み通りにしてやる。お前たち、この2体を痛めつけろ!!」
あれ?
主人が命令しているのに、4人の騎士たちは全く動こうとしないわ。
というか、ここに来て以降の彼らの立ち位置が全く変わってない。
「どうした? 私の命令が聞こえないのか!! さっさと、2体を痛めつけろ!!」
気のせいかな? よく見ると、少しだけふらついているような? それに、さっきからずっと目を閉じているわ。あ、フリードが何かしたのか、4人が一斉に地面に崩れ落ちた。
「ほほほほ、安心しなさい。私の法術で深く眠っているだけですよ」
全然、気づかなかった。
フリード、いつの間に法術を使用したの?
「馬鹿な…一体、何処で…かけられた? 法術であっても、使用時には必ず魔力を使用するはずだ。我々が、それを見逃すはずがない!!」
私もフリードから法術について教えられたけど、今でも魔法との違いがよくわからない。元々、彼はここから遠く離れた東の国[みずほ]出身で、そこでの魔法の名称は【法術】とされていて、術名や効果もこちらと少し違うみたい。でも、魔力を消費することで発動するところは、魔法と同じなのよね。
「全くお馬鹿な連中ですね。私は、何度か王都を訪れていますから、転移魔法でいつでもそちらに行けるのですよ。私とルウリの分身体が、フェルデナンド家を利用するため、ず~っとあなた方を監視していました。分身体なので、物理法則は通じません。よって、邸に侵入し放題、壁を通り抜けし放題なんですよ。今回、最も無防備な睡眠時を利用させてもらいました。私とルウリは、スキル《暗示》と《コントラクト》を持っています。これを利用すれば、こう言った時間差の芸当も可能なのです。あなたも、似たようなことをスキル[コントラクト]でやっているでしょうに」
魔法や法術をスキルと併用することで、そんな事もできるんだ。
あ、いつの間にか2体がいることで、私の心に安心感が芽生えてるわ。
油断しちゃだめだ。
敵は私の父親、私を狙っている以上、何かを仕掛けてくる可能性があるもの。2体に頼っているだけじゃなく、せめて私も自分の身は自分で守れるようにしないといけない。
「おい、起きろ、お前ら!! ええい、この役立たずが!!」
酷い、自分の護衛なのに、寝ている彼らを容赦なく蹴っている。何度蹴っても、護衛が起きることはない。自分を守る護衛が1人もいなくなり、形勢が一気に逆転したことを理解したのか、伯爵の方を見ると、顔色も悪くなっていき、足元もふらついている。
「おやおや、頭に血がのぼっているようで気づきませんか? 契約」
フリードが漏らした言葉に、伯爵の動きが止まる。
「そうだ…馬鹿な…こんな事が…契約違反なのに…何故死なない?」
伯爵の顔色が、更に酷いものになっていく。
「フリード、どういうこと?」
「この男は部下全員に暗示をかけて、一つの契約を施しているのです。《命令を3回連続で逆らった場合は、死を発動する》。コントラクトで発生する契約自体が一つの鎖となって心臓に巻きつき、命令に逆らったら握りつぶすという仕組みです」
この男は、部下を何だと思っているの?
王都にいる貴族って、みんながこんな醜悪な人ばかりなの?
「まさか…スキルの上書き…か?」
身体を震わせ、顔を真っ青にした伯爵は、恐る恐るフリードを見る。
スキルの上書きって何?
私も知らないわ。
「正解です。私のスキル[コントラクト]で、あなたの持つ契約を上書きしたのですよ。そのため、4人に課せられたあらゆる契約は解除されています。同スキルでの上書きを成功させるには、相手の力を大きく上回る技量が必要となります。ほほほほ、この意味をもちろん理解していますよね? 理解を拒否して私たちに仕掛けてきた場合、どんな末路になるのやら」
【同スキルによる効果の上書き】、そんな方法があったなんて知らなかったわ。実際成功させているのだから、フリードは伯爵よりも圧倒的な強者なんだ。
「馬鹿な…スキル[コントラクト]は相手の魂を縛る。どんな強者であれ、魂との契約を《上書きする》など不可能なはずだ。無理に実施すれば、身体がそのものが爆発しかねないと言うのに…馬鹿な…ありえない…」
伯爵は何かを悟ったのか、地面に座り込んだ。負けず嫌いな性格なのか、元凶となる2体を未だに睨んでいるけど、肝心のルウリとフリードは伯爵に対して、上から目線のような涼しげで鋭い視線を向けている。身長的には伯爵の方が遥かに高いのに、地面に近い2体の方が圧倒的上位に見えるわ。
「馬鹿なのは君だよ、伯爵。スキル[暗示]を使い、スキル[コントラクト]を無理矢理行使しているからこそ、魂の捕縛が不完全なのさ。理由は単純明快、ここにいる4人の護衛騎士もユウキも理性があり、全員が悟られないよう、必死にその契約に抗おうとしているからだ。そう言った歪な関係ならば、魂を縛るコントラクトと言えど、上書きは可能なのさ」
え、ということは、始めからルウリたちに相談していれば、ユウキさんの契約を上書きできたってこと?
「馬鹿な…貴様らの目的は何だ?」
伯爵は、私の側にいるルウリとフリードを睨む。
その眼光には、強い光が宿っている。
まだ、諦めていないんだ。
「一応、フェルデナンド家には感謝しているんだ。君たちが咲耶をこの地へ転移させたから、僕たちはこうして出会えたのだから。咲耶には、ここで幸せに暮らしてほしい。そのためには、諸悪の根源をこのまま放置させておくわけにはいかない。咲耶と僕たちが出会ったその瞬間から、君たちフェルデナンド家は、目障りな存在になってしまったんだよ」
ルウリの目には、怒りが込められている。
全ては、私を思っての行動だったのね。
語られる言葉の一語一語が剣や威圧感となって、伯爵を突き刺し、覆い尽くしていく。伯爵の方を見ると、気圧されているのか、眼光がどんどん萎んでいっている。
「と言っても、僕とフリードが表立って行動すると、どうしても目立ってしまう。そんな時、レストラン《クザン》で君たちを潰す格好の餌を入手した。同時期に、咲耶を監視する女-ユウキも出現したから、この子を利用してやろうと思ったのさ」
ユウキさん自身が、それを理解していない。彼女は暗殺者だから、感知系スキルも優秀だと思うし、全てにおいて警戒しているはずだ。そんな彼女に気付かれず、どうやって利用したの?
「どうやら、3人全員がわかっていないようだ。答え合わせをしてあげよう。ユウキには、僕のスキル《思考誘導》を行使したのさ。このスキルは、自分の言葉を思惑通りに語りやすくする効果があるのだけど、その効果自体をスキル《付与》で他者に一定時間付与させる事も可能なのさ。[咲耶がリリアーナかもしれない][咲耶のスキル《原点回帰》は超有用]、早い段階でこの二つをユウキに強く認識させ、伯爵をこちらに来させるよう、僕のスキルを付与させて定期報告させた。無論、ユウキにも伯爵にもクザンの件を一切悟られないよう配慮してね。君はその誘導に全く気付かず、ここへノコノコと現れたってわけ」
フェルデナンド伯爵は、王都から国境近くのこの街へやって来た。その距離は不明だけど、私が見つかり、有用なスキルも発現したからと言って、当主自らがわざわざ来る必要性はない。ユウキさんが私を捕まえて、その後に王都へ連れ戻せばいいだけだもの。
その違和感を諭られないよう、ルウリはスキル《思考誘導》を使ったんだ。そういう利用法なら、伯爵も気づかないのもわかるわ。ルウリ自身が、直接干渉していないのだから、伯爵に気付けるわけがない。ユウキさんの場合、スキルによる付与だから感知できなかったのかもしれない。
「それと、君に良いことを教えてあげよう。昨日の時点で、僕とフリードの分身体が、フェルデナンド家の血縁者たちとその婚姻者たちを縛る呪縛全てを上書きさせ、契約全てを打ち消させてもらった。既に、1人の人物が君の両親を殺している。今後、血生臭い事件がもっと起きるかもしれないよ」
2体とも、十分目立つ行為を行なっているよ。しかも、私の祖父と祖母が、血縁者かその婚姻者の誰かに殺されたんだ。スキルで無理矢理縛っていた魂が解放されたことで、長年蓄積させていた恨みも一気に爆発させたんだ。
「ああ、安心するといい。犯人は善人だから、誰が殺人者なのかわからないよう、僕とフリードの分身体が工作しておいた」
せっかく解放されたのに、その途端に牢屋行きというのは、いくらなんでも可哀想だけど……私がとやかく言う権利はないか。
「なんて…ことを…早く邸に…」
「馬鹿だな。君には、レストラン[クザン]に関わるあらゆることを暴露してもらう役割があるんだ。逃すわけないだろう。君の人生は、ここで終焉だ」
え?
自分で暴露って、この男の性格から考えて絶対にしないわ。
何かするつもりなんだ。
伯爵もそれに気付いたのか、逃げようとこちらの隙を窺っている。
「ほほほほ、逃がしませんよ。私たちから逃れる術はありません。さあ、仕上げの時間です!!」
「フリード、やろうか!!」
ルウリとフリードが、一気に距離を詰めて、伯爵の顔面に接近した。
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