10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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5章 猫の恩返し

64話 味覚の違い *ユウキ視点

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この獣人の女性は何者?
さっきから猫ではなく、販売用の餌類ばかりを見ている。

年齢は二十代前半、水色の長い髪を1本にまとめ、ポニーテールにしており、軽快なドレス風の服装から見て、間違いなく貴族だ。

「ねえ、そこのあなた」
「は、はい」

何を言われるのだろう?

「ここにある物、あなたは全て試食をしたの?」
「当然しています。咲耶、私-ユウキ、あともう1人が協力し合い、猫たちのために作り上げましたから」

何故か猫のところで、彼女のほおがピクっと動く。

「そう、猫たちのために。これらには、美味しそうに餌をほお張る可愛い猫の絵が描かれているわ。ここにいる現実の猫たちも、絵と同じように、野良なのに毛並みも良く、幸せな表情をしている。皆から可愛がれ、餌にも恵まれているのね。咲耶さんは人間族だからわかるけど、あなたは獣人族……もしかして、この国で生まれ育ったの?」

この女性は、何が言いたいんだ?

「はい、そうですけど」
「なるほど、だから気づいていないのね」

何に気付いていないんだ?
悪い女性ではなさそうだが、そろそろ私にもわかるように言ってほしい。

「ここにある物全て10セットずつ頂くわ」
「え、10セットも!?」

ここにある販売品は、試供品に近い物だ。チュールは4袋1セットで200ゴルド、キャットフードの[ドライタイプ]と[ウェットタイプ]は猫1匹分の食事量で用意しており、[ドライタイプ]は50ゴルド、[ウェットタイプ]は80ゴルドで販売している。平民でも買える物だが、それを10セットずつ購入するだなんて、随分と豪気なお客様だ。この人も、動物を飼っているのだろうか?

「これらはヘルハイム王国の獣人にとって、良いおやつになるわ」
「は? おやつに!?」

女性の言葉に、私は驚きを隠せない。獣人のおやつって、これは猫用に調整されたものだ。実際、私も試食して美味しいとは思うが、人がそこまで喜ぶほどのものじゃない。

「あの…これは猫用…」

私は紙製の大きめの袋に、10セット分の商品を入れていき、お金を貰ってから商品の入った袋を手渡す。彼女はそれを右手に持ち、左手に付けている指輪の宝石を光らせると、紙袋はスッと消えてしまう。あの指輪は魔道具で、小型マジックバッグなのか。

「ふふ、あなたは知らないようだけど、ヘルハイム王国で育った獣人には、聖獣様の加護が備わっているの。その影響で、味覚が人間と少し違うのよ。だから……」

あ、指輪からキャットフード(ドライタイプ)を1箱だけ取り出し、箱から少しだけフードを左手に乗せると、一気に口の中に放り込み、バリバリと食べてしまった。

「うん、美味しいわ。猫用だから少し物足りない感はあるけど、おやつにぴったりな素材ね」

おやつ……ヘルハイム王国生まれの獣人の場合はそういうものなのか? 

女性は、美味しそうに小粒フードをバリバリ食べていると、周囲の獣人たちも猫の餌に興味を示したのか、チラチラと見ている。

「あなたたち、この猫用に用意された物は、ヘルハイム王国生まれの獣人にとって、ピッタリなおやつになるわよ。物は試しに買ってみなさいな」

その女性の言葉だけで、何故か獣人が集まってきた。そして、女性が先程買ったフード類やチュールを与えると、途端に目の色が輝き出す。ええ~、そこまで美味しいものか? あちこちで「美味い」「カリカリ感がいい‼︎」といった高評価ばかりが勢揃いして、次々とフード類を買っていき、あっという間に在庫が尽きてしまった。どうやらヘルハイム王国の獣人たちにとって、私たちの開発した餌類は、3時のおやつになるようだ。


○○○


物品の在庫が切れると、すぐに見世物の時間となったので、私は猫たちと共に戯れた。一応、この見世物は猫たちにとって人に飼われるかもしれない重要イベントなんだが、猫たちは緊張する事なく、普通に遊んでいる。猫たちが固くならないよう、咲耶が「いつも通りにすればいいよ」と語ってくれたこともあり、全員が彼女の言葉を信じ行動している。

30分の見世物が終わると、先程の女性が私に近づいてきた。

「ユウキ、お疲れ様。まだ、自己紹介をしていなかったわね。私はレイナ・ライエット、国境を挟んだ隣のヘルハイム王国ライエット辺境伯領の領主の娘よ。ちなみに、主催者メンバーの1人」

道理で、高貴な雰囲気を感じさせるはずだ。ライエット辺境伯は、ヘルハイム王家と親戚だ。つまり、この方は王族に近しい人物ということになる。

「レイナ様のおかげで、物品も完売し、猫たちも可愛がられて満足しているようです」

「それはよかったわ。今後、私はアマンガム様に、この菓子類をヘルハイム王国でも販売できるよう話し合うつもりよ。それに、私はあなたと咲耶に、とても興味を抱いたわ。ここの猫たちは、あなたたちによって躾けられ、大変礼儀正しい。そんな猫たちが、長年我々人類を苦しめてきたテンタクルズオクトパスのヌメリの除去方法を開発してくれた。これはね、世界レベルの大発明なのよ」

だ、大発明…些か大袈裟な気もするが、あの魔物の死体は全世界において処置方法に困らせていると聞いているから、大発明と言える部類に入るのかな?

「開発したのはミケーネ、シロが助手を担当しました。2匹はどうなるのでしょう?」

何故か妖艶な笑みを浮かべるレイナさん、何を考えているの?

「まだ王家に連絡していないけど、恐らく咲耶とユウキは、ミケーネとシロと共に、王族の住む王城へ招待され歓迎されるでしょうね。ヘルハイム王国の西方地域は、この国と同じく海に面していて、不定期に出現するあの魔物に苦しまされてきた。その討伐数も20を軽く超えていて、遺体は宝物庫のバッグ内に保管されているの」

あの巨大魔物が20以上、王家としては全てを一掃させたいはずだ。そうなると、このフェスタで提供される料理全てが、全世界に伝わる可能性があるな。

「私は、このおやつ類をヘルハイム全土に流行らせたいと思っているわ。招待される時期次第では、猫たちだけでなく、あなたちも盛大に出迎えを受けるかもしれないわよ」

フード類を食べたヘルハイム王国生まれの獣人たちの反応は、上々だった。しかし、これらが国中を流行らせるものになるとは思えない。

だって、猫用だぞ? 

猫のために開発したものが、獣人のおやつになるだなんて、開発当初は考えたこともなかった。

「それともう一つ、今、咲耶が料理を披露しているようだけど、今後のあなたたちの行動次第で、もし王国に大きな利益をもたらした場合は、勲章授与もありえるわね」

それを聞いた私は絶句する。
勲章授与って、余程の功績がないと出ないものだ。
そもそも、私たちは10歳だ。
国レベルでの功績なんて、立てられるわけがない。

「ふふ、[猫によるヌメリ除去の開発][獣人専用おやつ類の開発]、これらは大前提として、あなたたちが猫に教育を施したことで起きたことなの。つまり、あなたたちが動かなければ、この事象は起きなかった。まだ10歳だけど、あなたたちからは底知れない何かを感じるわ。次に会う時、何を開発しているのかしら? 楽しみにしているわ」

レイナさんは、上品な笑みを浮かべて去っていく。すぐ近くに護衛がいたのか、何やら話し合っていて、主催者テントへと向かっていった。
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