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55話 恩師との再会
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フレミングス子爵の邸に到着すると、僕たち3人は玄関へと通された。中に入ると、研究施設で会ったハミルトン・フレミングス子爵と、マスクを付けたナナリス様、研究所で見たタルパ(半透明状態)の女性がいた。
「「ようこそ、私たちを救ってくれた英雄様方」」
「よ…ようこそ…私たちを救ってくれた…英雄様方」
3人は僕たちを笑顔で優しく出迎えてくれたけど、真っ先に返答したのはルティナとリノア(実体化)だった。
「「院長先生!!」」
2人とも駆け出していき、院長先生に抱きつく。
「2人とも久しぶりね。元気…と言ってはいけないわね。リノアが死んでしまったのだから」
悲しげな顔を浮かべる院長先生。
事故の際、この女性がナナリス様を守ってくれていたわけか。
「先生、私は死んじゃったけど、今はリョウトさんと出会えたことで幸せなの」
「私も私も!!」
「ふふ、あなたたちの噂は聞いているわ。リョウトさん、私は孤児院を経営していたサーシャと言います。私はタルパになった後、聖女様から孤児院の状況を聞きました。子供たちの多くが亡くなり愕然としましたが、聖女様が皆を天国へ行けるよう配慮してくれたのです。ただ、私は残された子供たちがどうしても心配で、成仏を待ってもらっているのです。子供たちから私のことを尋ねられた場合は、成仏しましたと言ってくれるよう、聖女様だけでなく、神官様方にもお願いしていました」
なるほど、だからルティナもリノアも、成仏したと思っていたわけか。そこから話を聞いたところ、サーシャさんは生き残った子供全員が、安心して暮らしていることを確認している最中で、残るはルティナとリノアだけだったらしい。
聖女候補として神殿に引き取られているので、2人は安全と思い、会いに行くのを最後にまわしていた。1ヶ月前になって、ようやく会いに行こうと思った矢先、ナナリス様たちと出会い、彼女の容態が気にかかることもあって、2人に会いに行けなかったわけか。
「リョウトさん、2人の面倒を見て頂き、ありがとうございます」
サーシャさんの第一印象は、子供たちを笑顔にさせる保母さんだな。
「2人とも、7歳とは思えないほどの優秀さですよ。独り立ちできるまでは、一緒に行動するつもりです」
「それを聞いて安心したわ」
「サーシャさん、リノアはタルパなので、彼女にタルパとしての知識を授けてくれませんか?」
「それは必要ね。新聞で読んだ限り、神殿の件も解決しているはず。それで自力で成仏していないということは、残る未練は、ルティナの行く末かしら? わかりました、私もタルパになって、日は浅いけど、私の持つ知識をリノアに伝授するわ」
「やった!! 先生、お願いします!!」
「私たちは3人で話し合いをしましょう。まずは、孤児院の火事で生き残った子供たちの現状を教えるわね」
「はい!! お兄ちゃん、先生と話し合ってくるね」
ルティナもリノアもサーシャさんと手を繋いで、執事ギャリソンさんの案内で僕から離れていく。彼女ってタルパになって一年程度のはずだけど、どこまで強くなっているのいのだろう? まあ、それを聞くのは野暮か。せっかく、恩人の先生と再会できたのだから、ここは何も言わないでおこう。
僕は僕で、ナナリス様やフレミングス子爵と話し合おう。
「リョウトと言います。フレミングス子爵、ナナリス様、素敵なお出迎えに感謝します」
「はははは、驚かせてしまったかな。改めて、自己紹介を。私はフレミングス子爵家当主、ハミルトン・フレミングス。そして、こちらが…」
ハミルトンさんがナナリス様の方を向き、軽く促すと、彼女が1歩前へ出てきた。ただ、僕を見てオドオドしているので、かなりの人見知りというのが第一印象だ。
「初め…まして。ナナリス・フレミングスです…リョウト様、この度は私たちを救って頂き、誠に…ありがとうございます」
彼女は小刻みに震えながら言い切り、軽くお辞儀する。長い銀髪の一部が、右側からするりと顔の動きに合わせて落ちていく。
「申し訳ない、ナナリスは病気で去年まで敷地の外に出たことがなく、極度の人見知りなんだ」
なんか、僕と少し似てるな。それに、あの挙動不審さから見て、多分この一年で何らかの嫌がらせでも受けて、人見知りになったのかもしれないな。
「ナナリス様の気持ちは、少しわかります。私も15歳になるまで、敷地外に出られない軟禁生活を強いられていましたから」
貴族との話し合いである以上、こっちも一人称を[私]にしておこう。
「え、そうなんですか!?」
これは新聞にも掲載されていないから、ナナリス様が驚くのも無理はない。
「それは初耳だ。新聞には、そこまでのことは掲載されていなかった。私もヒライデン家と商売上の付き合いを持っているが、これまで[リョウト・ヒライデン]という名前を伯爵や奥方から聞いたことがなかった。[魔法を習得できない]、それが理由で秘匿扱いされていたのか」
軟禁のことまで話せば、世間からバッシングを受ける可能性が高いからね。
「酷い」
ナナリス様が、何故か悔しがっている。
「ヒライデン家は、優秀な魔法士を生み出す家系。魔法を習得できない者は、愚者扱いされ、その恥を周囲に知られないよう配慮したんですよ。今回、僕の事情を世間に一部知られましたが、魔法改良の件もあって、お咎めなしで済みました」
「それを聞いて安心した。さあ、リビングへ移動して、ゆっくり話し合おう」
僕達は、リビングへと移動していく。
フレミングス子爵は王都でも一目置かれている商会の会頭でもあるから、どの貴族からも注目されている人物だ。こうやって話してみると、気さくで好印象を受けるけど、彼の目を見た限り、商売人のせいか、芯の強さを感じる。
さて、どんな話し合いになるのやら。
○○○
リビングに通され、飲み物とお菓子を出されたけど、やはり大商会だけあって、食器類も優雅で気品があり、紅茶やお菓子もかなり上質なものを使っていて美味い。今頃、ルティナとリノアも、別部屋でパクパクとがっついているかもしれないな。
飲み物を数口飲み落ち着いた気分になったところで、僕はナナリス様を見る。さっきから怯えた目で僕を見ているせいか、視線を合わせると、すぐに逸らされてしまう。
「ナナリス、命の恩人に対して、その視線と表情は失礼だぞ」
「あ…申し訳ありません」
これは、重度の人見知りだな。フレミングス子爵も、悲しげな表情を浮かべているから、何か込み入った事情があるようだ。
「構いませんよ、フレミングス子爵。今回私を招待した理由は…やはりナナリス様のことですか?」
僕の方から話題を本題へと切り替えたことで、彼の顔つきが変わる。
子爵は申し訳ない表情で、僕を見る。
「その通り。既にギャリソンから聞いていると思うが、君の製作してくれたマスクがあまりにも高性能で精巧かつ緻密、専門業者やベテラン魔法士でも製作不可能だとわかった。リョウト君、君はあのマスクを簡易的なものだと言ったが、あそこまで優秀なものを何故そう言ったのか聞いてもいいだろうか?」
この世界は、地球でいうところの19世紀中盤くらいの文明で、建築様式はヨーロッパに近い。マスクとかも開発されているから、てっきり誰にでも製作可能だと思ったのに、とんだ誤算だよ。
「あれを毎日使用していると、目詰まりを起こしてしまい、その機能をいずれ果たせなくなるんです。それに、魔力残滓の吸入をゼロにするわけじゃないので、定期的な解毒魔法による治療が必要です。なにより、ナナリス様がそのマスクを付けていると、せっかくの可愛い顔が半分程しか見えません。だから、不完全な物なんです」
あれ? ナナリス様の顔が赤いぞ? 実際、可愛い顔立ちなんだから、言い慣れているとばかり思っていた。というか、人見知り、何処に行った? この言葉だけでおちたら、お兄さんは君の将来が非常に心配になる。
「あはは…これはやられたな。まさか、そこまで娘のことを考えてくれていたとは…いやはや驚きだ。君には、商売人としての素質がある」
僕に、商売の才能はないよ。あくまで、前世の知識を披露したに過ぎないからね。まあ、何の事情も知らない人から見れば、そう感じてしまうものか。
「大袈裟ですよ。あとで、ルティナの解毒魔法を使い、ナナリス様の体内とマスク内にある魔力残滓を消しておきましょう」
「身体の外にある毒素も、消せるのかね?」
「消せます。ただし、何の知識もなく、言っても理解できない者が、解毒魔法を行使しても、効果はありません。術者自身が、対象者や対象物のことを深く知る必要性があるのです。ルティナには、解毒魔法の真髄を教えていますし、講義受講者にも教えていますので、僕たちがいない時に発作が起きた場合でも、冒険者ギルドに連絡すれば対応可能な問題です」
武器や防具類に付着した毒物の除去が可能と知って、皆も喜んでいたよね。ナナリス様もフレミングス子爵もほっとしているところ悪いけど、一つ注意を入れておこう。
「ここで、一つ忠告しておきます。病気の症状が出ない日々が続けば続くほど、人は『もしかしたら完治したのでは?』と思ってしまいがちです。その油断でマスクを外して行動すると、途端に発症するので、ナナリス様は自分の病気が治っていないことを強く自覚してください」
「は…はい」
僕の真剣な物言いで、彼女も自覚したのか、真剣な面持ちで頷いてくれた。
「「ようこそ、私たちを救ってくれた英雄様方」」
「よ…ようこそ…私たちを救ってくれた…英雄様方」
3人は僕たちを笑顔で優しく出迎えてくれたけど、真っ先に返答したのはルティナとリノア(実体化)だった。
「「院長先生!!」」
2人とも駆け出していき、院長先生に抱きつく。
「2人とも久しぶりね。元気…と言ってはいけないわね。リノアが死んでしまったのだから」
悲しげな顔を浮かべる院長先生。
事故の際、この女性がナナリス様を守ってくれていたわけか。
「先生、私は死んじゃったけど、今はリョウトさんと出会えたことで幸せなの」
「私も私も!!」
「ふふ、あなたたちの噂は聞いているわ。リョウトさん、私は孤児院を経営していたサーシャと言います。私はタルパになった後、聖女様から孤児院の状況を聞きました。子供たちの多くが亡くなり愕然としましたが、聖女様が皆を天国へ行けるよう配慮してくれたのです。ただ、私は残された子供たちがどうしても心配で、成仏を待ってもらっているのです。子供たちから私のことを尋ねられた場合は、成仏しましたと言ってくれるよう、聖女様だけでなく、神官様方にもお願いしていました」
なるほど、だからルティナもリノアも、成仏したと思っていたわけか。そこから話を聞いたところ、サーシャさんは生き残った子供全員が、安心して暮らしていることを確認している最中で、残るはルティナとリノアだけだったらしい。
聖女候補として神殿に引き取られているので、2人は安全と思い、会いに行くのを最後にまわしていた。1ヶ月前になって、ようやく会いに行こうと思った矢先、ナナリス様たちと出会い、彼女の容態が気にかかることもあって、2人に会いに行けなかったわけか。
「リョウトさん、2人の面倒を見て頂き、ありがとうございます」
サーシャさんの第一印象は、子供たちを笑顔にさせる保母さんだな。
「2人とも、7歳とは思えないほどの優秀さですよ。独り立ちできるまでは、一緒に行動するつもりです」
「それを聞いて安心したわ」
「サーシャさん、リノアはタルパなので、彼女にタルパとしての知識を授けてくれませんか?」
「それは必要ね。新聞で読んだ限り、神殿の件も解決しているはず。それで自力で成仏していないということは、残る未練は、ルティナの行く末かしら? わかりました、私もタルパになって、日は浅いけど、私の持つ知識をリノアに伝授するわ」
「やった!! 先生、お願いします!!」
「私たちは3人で話し合いをしましょう。まずは、孤児院の火事で生き残った子供たちの現状を教えるわね」
「はい!! お兄ちゃん、先生と話し合ってくるね」
ルティナもリノアもサーシャさんと手を繋いで、執事ギャリソンさんの案内で僕から離れていく。彼女ってタルパになって一年程度のはずだけど、どこまで強くなっているのいのだろう? まあ、それを聞くのは野暮か。せっかく、恩人の先生と再会できたのだから、ここは何も言わないでおこう。
僕は僕で、ナナリス様やフレミングス子爵と話し合おう。
「リョウトと言います。フレミングス子爵、ナナリス様、素敵なお出迎えに感謝します」
「はははは、驚かせてしまったかな。改めて、自己紹介を。私はフレミングス子爵家当主、ハミルトン・フレミングス。そして、こちらが…」
ハミルトンさんがナナリス様の方を向き、軽く促すと、彼女が1歩前へ出てきた。ただ、僕を見てオドオドしているので、かなりの人見知りというのが第一印象だ。
「初め…まして。ナナリス・フレミングスです…リョウト様、この度は私たちを救って頂き、誠に…ありがとうございます」
彼女は小刻みに震えながら言い切り、軽くお辞儀する。長い銀髪の一部が、右側からするりと顔の動きに合わせて落ちていく。
「申し訳ない、ナナリスは病気で去年まで敷地の外に出たことがなく、極度の人見知りなんだ」
なんか、僕と少し似てるな。それに、あの挙動不審さから見て、多分この一年で何らかの嫌がらせでも受けて、人見知りになったのかもしれないな。
「ナナリス様の気持ちは、少しわかります。私も15歳になるまで、敷地外に出られない軟禁生活を強いられていましたから」
貴族との話し合いである以上、こっちも一人称を[私]にしておこう。
「え、そうなんですか!?」
これは新聞にも掲載されていないから、ナナリス様が驚くのも無理はない。
「それは初耳だ。新聞には、そこまでのことは掲載されていなかった。私もヒライデン家と商売上の付き合いを持っているが、これまで[リョウト・ヒライデン]という名前を伯爵や奥方から聞いたことがなかった。[魔法を習得できない]、それが理由で秘匿扱いされていたのか」
軟禁のことまで話せば、世間からバッシングを受ける可能性が高いからね。
「酷い」
ナナリス様が、何故か悔しがっている。
「ヒライデン家は、優秀な魔法士を生み出す家系。魔法を習得できない者は、愚者扱いされ、その恥を周囲に知られないよう配慮したんですよ。今回、僕の事情を世間に一部知られましたが、魔法改良の件もあって、お咎めなしで済みました」
「それを聞いて安心した。さあ、リビングへ移動して、ゆっくり話し合おう」
僕達は、リビングへと移動していく。
フレミングス子爵は王都でも一目置かれている商会の会頭でもあるから、どの貴族からも注目されている人物だ。こうやって話してみると、気さくで好印象を受けるけど、彼の目を見た限り、商売人のせいか、芯の強さを感じる。
さて、どんな話し合いになるのやら。
○○○
リビングに通され、飲み物とお菓子を出されたけど、やはり大商会だけあって、食器類も優雅で気品があり、紅茶やお菓子もかなり上質なものを使っていて美味い。今頃、ルティナとリノアも、別部屋でパクパクとがっついているかもしれないな。
飲み物を数口飲み落ち着いた気分になったところで、僕はナナリス様を見る。さっきから怯えた目で僕を見ているせいか、視線を合わせると、すぐに逸らされてしまう。
「ナナリス、命の恩人に対して、その視線と表情は失礼だぞ」
「あ…申し訳ありません」
これは、重度の人見知りだな。フレミングス子爵も、悲しげな表情を浮かべているから、何か込み入った事情があるようだ。
「構いませんよ、フレミングス子爵。今回私を招待した理由は…やはりナナリス様のことですか?」
僕の方から話題を本題へと切り替えたことで、彼の顔つきが変わる。
子爵は申し訳ない表情で、僕を見る。
「その通り。既にギャリソンから聞いていると思うが、君の製作してくれたマスクがあまりにも高性能で精巧かつ緻密、専門業者やベテラン魔法士でも製作不可能だとわかった。リョウト君、君はあのマスクを簡易的なものだと言ったが、あそこまで優秀なものを何故そう言ったのか聞いてもいいだろうか?」
この世界は、地球でいうところの19世紀中盤くらいの文明で、建築様式はヨーロッパに近い。マスクとかも開発されているから、てっきり誰にでも製作可能だと思ったのに、とんだ誤算だよ。
「あれを毎日使用していると、目詰まりを起こしてしまい、その機能をいずれ果たせなくなるんです。それに、魔力残滓の吸入をゼロにするわけじゃないので、定期的な解毒魔法による治療が必要です。なにより、ナナリス様がそのマスクを付けていると、せっかくの可愛い顔が半分程しか見えません。だから、不完全な物なんです」
あれ? ナナリス様の顔が赤いぞ? 実際、可愛い顔立ちなんだから、言い慣れているとばかり思っていた。というか、人見知り、何処に行った? この言葉だけでおちたら、お兄さんは君の将来が非常に心配になる。
「あはは…これはやられたな。まさか、そこまで娘のことを考えてくれていたとは…いやはや驚きだ。君には、商売人としての素質がある」
僕に、商売の才能はないよ。あくまで、前世の知識を披露したに過ぎないからね。まあ、何の事情も知らない人から見れば、そう感じてしまうものか。
「大袈裟ですよ。あとで、ルティナの解毒魔法を使い、ナナリス様の体内とマスク内にある魔力残滓を消しておきましょう」
「身体の外にある毒素も、消せるのかね?」
「消せます。ただし、何の知識もなく、言っても理解できない者が、解毒魔法を行使しても、効果はありません。術者自身が、対象者や対象物のことを深く知る必要性があるのです。ルティナには、解毒魔法の真髄を教えていますし、講義受講者にも教えていますので、僕たちがいない時に発作が起きた場合でも、冒険者ギルドに連絡すれば対応可能な問題です」
武器や防具類に付着した毒物の除去が可能と知って、皆も喜んでいたよね。ナナリス様もフレミングス子爵もほっとしているところ悪いけど、一つ注意を入れておこう。
「ここで、一つ忠告しておきます。病気の症状が出ない日々が続けば続くほど、人は『もしかしたら完治したのでは?』と思ってしまいがちです。その油断でマスクを外して行動すると、途端に発症するので、ナナリス様は自分の病気が治っていないことを強く自覚してください」
「は…はい」
僕の真剣な物言いで、彼女も自覚したのか、真剣な面持ちで頷いてくれた。
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