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日常系
不思議な招待状 2
しおりを挟む「さあ、パーティーの始まりです」
棗の言葉とともに、どこからともなく仮面を付けて着飾った男女が、そこかしこから現れた。
「わあ…」
訪れた人は皆、棗に招待状を渡していく。
「確かに」
棗は渡された招待状を検分して懐に仕舞う。
「ハッピーハロウィーン」
「お招きありがとう」
「今宵は楽しんで」
「ええ、ありがとう」
「あらお久しぶり」
「ちょっと聞いてくれるかい…」
あちらこちらで挨拶を交わす声は、やがて談笑となり、ホール全体が社交の場となった。
いつの間にか舞台には楽団が着席し、指揮者の元、オーケストラのような音楽を奏ではじめた。
優美な音楽に合わせてダンスを楽しむ者、テーブルでは、食事だけではなく、チェスやボードゲームを楽しむ者までいた。
朋志は左右を見渡しながら、さっきまでの寂しかったホールとは正反対の光景に圧倒されるばかりだった。
「おや、キミは」
「…?」
背の高い紳士が朋志に声をかける。身長はそんなに低くない朋志が見上げるほどだった。
「…キミ…こんなところにいたら危ないよ?」
「えっ、それはどういう事ですか…?」
朋志が聞こうとすると、棗が朋志と紳士の間にスルリと入り込み、紳士を制する。
「ミスター、…」
「いや、あまりにも魅力的だったから、…キミ、あとで一緒に踊ろう」
そう言って、長身の紳士は人の波へと消えていった。
ーーー 今のは何だったのだろう…。
棗を見ると、気づいて朋志のほうに視線をあわせたが、すぐに後ろからかかった声の方へ振り向いた。
そこには、中世の絵画から飛び出してきたような、貴族が着るたっぷりとした布が細い腰から足先まで覆うロングドレスの貴婦人が立っていた。横には従者と思わしき少年がいて、棗に招待状を渡していた。
「ごきげんよう、貴方」
「麗しいマダム、今宵もお会いできて光栄です」
「相変わらずお上手ね」
棗が、差し出された手の甲に唇を落とした。
「あっ」
豪奢なドレスに身を包んだ女性に、棗が恭しい態度でキスをしている。それが挨拶だとわかっていても、朋志は胸がきゅうっとと絞られるように感じてしまう。
棗はそんな朋志のことなど気に留めた様子もなく、貴婦人を見送り、朋志に話しかける。
「ほら、あなたも楽しんで。ただし…」
「その仮面を外してはいけませんよ」
背中を押され、ホールの中へと誘われる。しかし、気がついたらここにいただけの朋志は、社交の場へと入っていけない。
華やかな衣装も、豪奢な料理も、耳触りの良い音楽も、機知の効いた会話も、朋志を不安にさせるだけだった。
「棗さん…」
黒いマントをぎゅうっと掴む。
「おやおや、困った人ですね、みんなあなたと踊りたくて仕方がないというのに」
「…」
この人は棗だけど、棗じゃない。棗なら、朋志を突き放すようなことは言わない。だけど、今の朋志には、彼しか頼れる人はいない。棗の姿で、朋志を持て余すような顔を、態度を取らないで…。
泣きたい気分で、でも手だけはマントを固く握って離さなかった。
朋志にとっては、藁をも掴む思いだった。
しかし、棗はそんな朋志を冷ややかに見るだけ。
「”Dance”」
「…!」
ーーー うそ、こんなところで?!
棗と同じ姿で、同じ声だから?
わざとなのかたまたまなのか、棗から発せられたコマンドに、朋志の体はおおいに反応した。
「棗さん…!」
「さあ、行って」
視線はもうダンスホールを向いている。
助けを求める手は、ホールから伸びてくるいくつもの手に絡め取られ、朋志はホールの中で、踊れないダンスを踊らされることになった。
もう、人に紛れて棗の姿も見えなくなった。
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