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「どこへ行きましょうか?」
カーナビを設定しながら倉見が聞いた。
「遠くまで行く気ですか?」
綾瀬が不安そうに聞くので、倉見は笑って言った。
「綾瀬さんが行きたい所でいいですよ」
「……」
綾瀬は少し戸惑ったが、「どこでもいいっすよ」と呟いた。
「倉見さんと一緒ならどこでも」
「――」
この男は――と倉見は思った。
(そういうことをサラッと言うから……)
変な動悸を抑えるように、倉見は「じゃあ」と言った。
「海ほたるまで行きましょうか」
「今からアクアライン乗るんですか?!」
「2時間もかからないでしょ」
「……」
呆れたような顔で自分を見る綾瀬に、倉見は笑いかけると「俺も今日はそのまま直帰するから、少しドライブしよう」と言った。
営業車でドライブなんて……意外なことするなぁ、と綾瀬は少し驚いた眼をしていたが、すぐに嬉しそうな顔になって微笑む。
車は都内を走り抜け、海の方へと向かう。午後4時を過ぎているが、日差しはまだ強く、気温もやや高い。
道中、2人はずっと当たり障りのない会話をしていた。
慣れないスーツでの会議で緊張したこと。
「俺、そういうの苦手だから工場勤務にしてるのに」
「そう?意外と様になってたよ」
「倉見さんがいなかったら泣いてたかも」
「あはは」
倉見は笑った。そしてノートの一件を窘める。
「会議中にあれはやめてよ。吹き出しそうになって、すげぇ焦った」
「だって、ずっと誰かに言いたかったけど誰にも言えなくてさ」
「分かるけど。あの場で教えないでよ」
綾瀬は楽しそうに笑った。それを見て倉見も笑う。
一番、しなければいけない話題を、2人はあえて避けるようにしていた。
本当はこんなことを話したいんじゃない。
もっと大事な話があるのに……どう切り出せばいいか分からず、倉見も、そして綾瀬も。遠回りをしながら互いに道を探っていた。
やがて車は海ほたるのパーキングエリアに到着した。
車を駐車場に止めて、2人はしばらく黙り込む。
外へ出ようとする素振りは見せずに、互いに相手の出方を伺ってたが――その沈黙を先に破ったのは綾瀬の方だった。
「倉見さん……俺、あなたに伝えたいことが」
「その前に」
倉見は綾瀬の言葉を遮った。
自分の方から誘っておいて、相手に先手を打たせるわけにはいかない。そう思い、倉見は言った。
「この間の彼女の事だけど」
「……」
「あの子は別に俺の彼女じゃないから」
「――」
綾瀬はじっと倉見を凝視した。
「なにか誤解をされてるんじゃないかと思って……だとしたら、ちゃんと言っておかないと」
倉見はそう言いながら、綾瀬の方を見た。自分を見る綾瀬の目に一瞬、気持ちが揺らぐ。
でも言わなければ……
「あのね」
と、倉見は言った――
カーナビを設定しながら倉見が聞いた。
「遠くまで行く気ですか?」
綾瀬が不安そうに聞くので、倉見は笑って言った。
「綾瀬さんが行きたい所でいいですよ」
「……」
綾瀬は少し戸惑ったが、「どこでもいいっすよ」と呟いた。
「倉見さんと一緒ならどこでも」
「――」
この男は――と倉見は思った。
(そういうことをサラッと言うから……)
変な動悸を抑えるように、倉見は「じゃあ」と言った。
「海ほたるまで行きましょうか」
「今からアクアライン乗るんですか?!」
「2時間もかからないでしょ」
「……」
呆れたような顔で自分を見る綾瀬に、倉見は笑いかけると「俺も今日はそのまま直帰するから、少しドライブしよう」と言った。
営業車でドライブなんて……意外なことするなぁ、と綾瀬は少し驚いた眼をしていたが、すぐに嬉しそうな顔になって微笑む。
車は都内を走り抜け、海の方へと向かう。午後4時を過ぎているが、日差しはまだ強く、気温もやや高い。
道中、2人はずっと当たり障りのない会話をしていた。
慣れないスーツでの会議で緊張したこと。
「俺、そういうの苦手だから工場勤務にしてるのに」
「そう?意外と様になってたよ」
「倉見さんがいなかったら泣いてたかも」
「あはは」
倉見は笑った。そしてノートの一件を窘める。
「会議中にあれはやめてよ。吹き出しそうになって、すげぇ焦った」
「だって、ずっと誰かに言いたかったけど誰にも言えなくてさ」
「分かるけど。あの場で教えないでよ」
綾瀬は楽しそうに笑った。それを見て倉見も笑う。
一番、しなければいけない話題を、2人はあえて避けるようにしていた。
本当はこんなことを話したいんじゃない。
もっと大事な話があるのに……どう切り出せばいいか分からず、倉見も、そして綾瀬も。遠回りをしながら互いに道を探っていた。
やがて車は海ほたるのパーキングエリアに到着した。
車を駐車場に止めて、2人はしばらく黙り込む。
外へ出ようとする素振りは見せずに、互いに相手の出方を伺ってたが――その沈黙を先に破ったのは綾瀬の方だった。
「倉見さん……俺、あなたに伝えたいことが」
「その前に」
倉見は綾瀬の言葉を遮った。
自分の方から誘っておいて、相手に先手を打たせるわけにはいかない。そう思い、倉見は言った。
「この間の彼女の事だけど」
「……」
「あの子は別に俺の彼女じゃないから」
「――」
綾瀬はじっと倉見を凝視した。
「なにか誤解をされてるんじゃないかと思って……だとしたら、ちゃんと言っておかないと」
倉見はそう言いながら、綾瀬の方を見た。自分を見る綾瀬の目に一瞬、気持ちが揺らぐ。
でも言わなければ……
「あのね」
と、倉見は言った――
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