COLLAR(s)

sorarion914

文字の大きさ
32 / 40

#32

しおりを挟む
「彼女はそういうんじゃなくて――知り合ったのは合コンなんだけど……その合コンも、落ち込んでる俺を励まそうとした友人が誘ってくれたもので、俺としては全然乗り気じゃなかったんだ」
 綾瀬はじっと倉見を見た。
「あの、映画を一緒に観た日だよ。合コンの帰りだったんだ……すぐ帰る気になれなくて、映画でも見て帰ろうかなぁって思ってた時に、綾瀬さんに声をかけられたんだ」
「……」
「正直に言うよ」倉見はそう言って俯くと、少し照れたように笑った。
「俺、あの時綾瀬さんに会えて凄く嬉しかった」
「――」
 綾瀬は少し驚いたように目を開いた。
「実はさ。俺、合コンの間ずっと無意識に綾瀬さんの姿を探してた。似てる姿を見るたびにドキッとしてさ――こんな所にいるわけないのに。だから本当に会えて驚いたし……嬉しかったんだ」
「……」
「変だよな……恋愛感情なんてないはずなのに」
 自分をじっと見ている綾瀬の方を、まともに見ることが出来ず、倉見は俯いたまま続けた。
「彼女がアドレスを教えてくれたんだけど、返事をするのずっと忘れてて。それであの日、慌ててメール送ったら会いたいって言われて」
「……」
「それで会ってたところへ、綾瀬さんとバッタリ」
 倉見はチラッと綾瀬に視線を向けた。目が合って、綾瀬は顔をそむける。
 ハンドルに両手をかけたまま。
 倉見は目の前を行きかう車をじっと眺めながら言った。
「付き合ってほしいって言われたけど。断っちゃった……どうしてもそんな気になれなくて」
「……」
「友人にはバカじゃないのかって言われたけど、しょうがないよな。その気もないのに、付き合うわけにはいかないよ」
 倉見はそう言うと、助手席でずっと黙っている綾瀬を見て言った。
「あの人は彼女じゃないよ。俺には何の感情もないんだ。本当だよ?信じてくれとは言わないけど、変に誤解されたままは嫌だし――それにもし、そのことで綾瀬さんを傷つけたんなら謝りたい」
 そう言ってから、倉見は気づいたように苦笑した。
「こんなこと言うと、なんか綾瀬さんと俺が付き合ってるみたいな言い方に聞こえるね。浮気の言い訳してるみたいで……なんか変だな」
 照れて頭をかきながら、「でもごめんね。本当はあの場でちゃんと――」
 と言いかける。すると、それまでずっと黙っていた綾瀬が突然大きく首を振って言った。
「なんで倉見さんが謝るんですか?あなたは何も悪くないでしょう?だって――だって倉見さんは……」
 綾瀬は泣きそうな顔をして言った。
「普通に女の人と付き合える人なのに――俺の方が……」
 そう言うと突然頭を下げて、「ごめんなさい!」と言った。
「自分でもちゃんと分ってます。望んじゃいけないことだって分かってる!でも……」
 綾瀬は大きく息を吸い込んで――言った。


「俺、倉見さんが好きです」


「―――」
 助手席で頭を下げて、怯えたようにそう告げる綾瀬を、倉見は黙って見つめた。
 まるで、叱られて殴られることを覚悟しているような姿だった。

 あんなに無邪気に自分を翻弄していた男が……
 何でもないことのように振舞っていた男が……
 だからもっと軽いノリで言ってくるかと思っていたのに――

「本気……なんだよね?」
 倉見の言葉に、綾瀬は頷いた。
「もう深入りしないつもりだったんです……ただの友人でいい。倉見さんに彼女が出来ても、普通の友達同士みたいに、その時が来たら、ただ喜んで祝福しようって――そう決めてたし、そう出来ると思ってた」
「……」
「ノンケの人好きになるのがどういう事か、よく分かってるから……だから覚悟してたはずなのに」
「――」
「でもいざ女の人と一緒にいる姿を見たら、想像してた以上にショックで――頭混乱して……ごめんなさい。俺って、本っ当に学習しないよな……」
 綾瀬はそう言うと泣き笑いを浮かべた。
「マジで自分が情けないよ……」
 そう言って涙を流す綾瀬の肩を、倉見は優しく撫でて言った。
「泣かないでよ」
「でも」
「俺、嬉しいよ。綾瀬さんにそう言ってもらえて」
「倉見さん……」
 綾瀬がじっと見つめてくる。涙で濡れたその目が、倉見の心を真っすぐ貫いてきた。
 彼が本気なら、自分もちゃんと言わなきゃ……
 倉見は静かに息を吸い込むと――覚悟を決めて言った。


「俺も、綾瀬さんのことが好きです――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

処理中です...