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「彼女はそういうんじゃなくて――知り合ったのは合コンなんだけど……その合コンも、落ち込んでる俺を励まそうとした友人が誘ってくれたもので、俺としては全然乗り気じゃなかったんだ」
綾瀬はじっと倉見を見た。
「あの、映画を一緒に観た日だよ。合コンの帰りだったんだ……すぐ帰る気になれなくて、映画でも見て帰ろうかなぁって思ってた時に、綾瀬さんに声をかけられたんだ」
「……」
「正直に言うよ」倉見はそう言って俯くと、少し照れたように笑った。
「俺、あの時綾瀬さんに会えて凄く嬉しかった」
「――」
綾瀬は少し驚いたように目を開いた。
「実はさ。俺、合コンの間ずっと無意識に綾瀬さんの姿を探してた。似てる姿を見るたびにドキッとしてさ――こんな所にいるわけないのに。だから本当に会えて驚いたし……嬉しかったんだ」
「……」
「変だよな……恋愛感情なんてないはずなのに」
自分をじっと見ている綾瀬の方を、まともに見ることが出来ず、倉見は俯いたまま続けた。
「彼女がアドレスを教えてくれたんだけど、返事をするのずっと忘れてて。それであの日、慌ててメール送ったら会いたいって言われて」
「……」
「それで会ってたところへ、綾瀬さんとバッタリ」
倉見はチラッと綾瀬に視線を向けた。目が合って、綾瀬は顔をそむける。
ハンドルに両手をかけたまま。
倉見は目の前を行きかう車をじっと眺めながら言った。
「付き合ってほしいって言われたけど。断っちゃった……どうしてもそんな気になれなくて」
「……」
「友人にはバカじゃないのかって言われたけど、しょうがないよな。その気もないのに、付き合うわけにはいかないよ」
倉見はそう言うと、助手席でずっと黙っている綾瀬を見て言った。
「あの人は彼女じゃないよ。俺には何の感情もないんだ。本当だよ?信じてくれとは言わないけど、変に誤解されたままは嫌だし――それにもし、そのことで綾瀬さんを傷つけたんなら謝りたい」
そう言ってから、倉見は気づいたように苦笑した。
「こんなこと言うと、なんか綾瀬さんと俺が付き合ってるみたいな言い方に聞こえるね。浮気の言い訳してるみたいで……なんか変だな」
照れて頭をかきながら、「でもごめんね。本当はあの場でちゃんと――」
と言いかける。すると、それまでずっと黙っていた綾瀬が突然大きく首を振って言った。
「なんで倉見さんが謝るんですか?あなたは何も悪くないでしょう?だって――だって倉見さんは……」
綾瀬は泣きそうな顔をして言った。
「普通に女の人と付き合える人なのに――俺の方が……」
そう言うと突然頭を下げて、「ごめんなさい!」と言った。
「自分でもちゃんと分ってます。望んじゃいけないことだって分かってる!でも……」
綾瀬は大きく息を吸い込んで――言った。
「俺、倉見さんが好きです」
「―――」
助手席で頭を下げて、怯えたようにそう告げる綾瀬を、倉見は黙って見つめた。
まるで、叱られて殴られることを覚悟しているような姿だった。
あんなに無邪気に自分を翻弄していた男が……
何でもないことのように振舞っていた男が……
だからもっと軽いノリで言ってくるかと思っていたのに――
「本気……なんだよね?」
倉見の言葉に、綾瀬は頷いた。
「もう深入りしないつもりだったんです……ただの友人でいい。倉見さんに彼女が出来ても、普通の友達同士みたいに、その時が来たら、ただ喜んで祝福しようって――そう決めてたし、そう出来ると思ってた」
「……」
「ノンケの人好きになるのがどういう事か、よく分かってるから……だから覚悟してたはずなのに」
「――」
「でもいざ女の人と一緒にいる姿を見たら、想像してた以上にショックで――頭混乱して……ごめんなさい。俺って、本っ当に学習しないよな……」
綾瀬はそう言うと泣き笑いを浮かべた。
「マジで自分が情けないよ……」
そう言って涙を流す綾瀬の肩を、倉見は優しく撫でて言った。
「泣かないでよ」
「でも」
「俺、嬉しいよ。綾瀬さんにそう言ってもらえて」
「倉見さん……」
綾瀬がじっと見つめてくる。涙で濡れたその目が、倉見の心を真っすぐ貫いてきた。
彼が本気なら、自分もちゃんと言わなきゃ……
倉見は静かに息を吸い込むと――覚悟を決めて言った。
「俺も、綾瀬さんのことが好きです――」
綾瀬はじっと倉見を見た。
「あの、映画を一緒に観た日だよ。合コンの帰りだったんだ……すぐ帰る気になれなくて、映画でも見て帰ろうかなぁって思ってた時に、綾瀬さんに声をかけられたんだ」
「……」
「正直に言うよ」倉見はそう言って俯くと、少し照れたように笑った。
「俺、あの時綾瀬さんに会えて凄く嬉しかった」
「――」
綾瀬は少し驚いたように目を開いた。
「実はさ。俺、合コンの間ずっと無意識に綾瀬さんの姿を探してた。似てる姿を見るたびにドキッとしてさ――こんな所にいるわけないのに。だから本当に会えて驚いたし……嬉しかったんだ」
「……」
「変だよな……恋愛感情なんてないはずなのに」
自分をじっと見ている綾瀬の方を、まともに見ることが出来ず、倉見は俯いたまま続けた。
「彼女がアドレスを教えてくれたんだけど、返事をするのずっと忘れてて。それであの日、慌ててメール送ったら会いたいって言われて」
「……」
「それで会ってたところへ、綾瀬さんとバッタリ」
倉見はチラッと綾瀬に視線を向けた。目が合って、綾瀬は顔をそむける。
ハンドルに両手をかけたまま。
倉見は目の前を行きかう車をじっと眺めながら言った。
「付き合ってほしいって言われたけど。断っちゃった……どうしてもそんな気になれなくて」
「……」
「友人にはバカじゃないのかって言われたけど、しょうがないよな。その気もないのに、付き合うわけにはいかないよ」
倉見はそう言うと、助手席でずっと黙っている綾瀬を見て言った。
「あの人は彼女じゃないよ。俺には何の感情もないんだ。本当だよ?信じてくれとは言わないけど、変に誤解されたままは嫌だし――それにもし、そのことで綾瀬さんを傷つけたんなら謝りたい」
そう言ってから、倉見は気づいたように苦笑した。
「こんなこと言うと、なんか綾瀬さんと俺が付き合ってるみたいな言い方に聞こえるね。浮気の言い訳してるみたいで……なんか変だな」
照れて頭をかきながら、「でもごめんね。本当はあの場でちゃんと――」
と言いかける。すると、それまでずっと黙っていた綾瀬が突然大きく首を振って言った。
「なんで倉見さんが謝るんですか?あなたは何も悪くないでしょう?だって――だって倉見さんは……」
綾瀬は泣きそうな顔をして言った。
「普通に女の人と付き合える人なのに――俺の方が……」
そう言うと突然頭を下げて、「ごめんなさい!」と言った。
「自分でもちゃんと分ってます。望んじゃいけないことだって分かってる!でも……」
綾瀬は大きく息を吸い込んで――言った。
「俺、倉見さんが好きです」
「―――」
助手席で頭を下げて、怯えたようにそう告げる綾瀬を、倉見は黙って見つめた。
まるで、叱られて殴られることを覚悟しているような姿だった。
あんなに無邪気に自分を翻弄していた男が……
何でもないことのように振舞っていた男が……
だからもっと軽いノリで言ってくるかと思っていたのに――
「本気……なんだよね?」
倉見の言葉に、綾瀬は頷いた。
「もう深入りしないつもりだったんです……ただの友人でいい。倉見さんに彼女が出来ても、普通の友達同士みたいに、その時が来たら、ただ喜んで祝福しようって――そう決めてたし、そう出来ると思ってた」
「……」
「ノンケの人好きになるのがどういう事か、よく分かってるから……だから覚悟してたはずなのに」
「――」
「でもいざ女の人と一緒にいる姿を見たら、想像してた以上にショックで――頭混乱して……ごめんなさい。俺って、本っ当に学習しないよな……」
綾瀬はそう言うと泣き笑いを浮かべた。
「マジで自分が情けないよ……」
そう言って涙を流す綾瀬の肩を、倉見は優しく撫でて言った。
「泣かないでよ」
「でも」
「俺、嬉しいよ。綾瀬さんにそう言ってもらえて」
「倉見さん……」
綾瀬がじっと見つめてくる。涙で濡れたその目が、倉見の心を真っすぐ貫いてきた。
彼が本気なら、自分もちゃんと言わなきゃ……
倉見は静かに息を吸い込むと――覚悟を決めて言った。
「俺も、綾瀬さんのことが好きです――」
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