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第2章・星を巡る人々
#3
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「お前の仕事だ」
麻生はそう言うと、引き出しから1通の封筒を取り出して要の方へ差し出した。
要はそれを見ると、驚いたように麻生を見て言った。
「仕事?へぇ……なんだろう。顧客訪問かな?でも俺、営業って苦手なんだよな……」
「お前が好きそうな仕事だ。他人の秘事を根掘り葉掘り聞き出してほじくり出す、探偵まがいの仕事だよ」
「……」
要は封筒を受け取り、中身を取り出した。
入っていたのは数枚のレポート用紙。そこに【眠り姫に関すること】と書かれてあるのを見て、要は苦笑した。
「眠り姫?おとぎ話の調査でもするの?」
レポート用紙と共に、数枚の写真も出てきた。
かなり色褪せた古い写真と、最近取られたと思しき写真。古い写真はよく分からないが、新しい方には同じ人物が3枚ほど、角度を変えて映っていた。取り方からして盗撮だろう。
中年の、大人しそうな顔をした男だ。もちろん見覚えはない。
「誰ですか?この人は」
要は思わずそう聞いた。
麻生は例の新聞記事を要の方へ差し向けた。要はその記事と写真を見比べ、尚も分からないという顔をして麻生を見た。
「その写真の男は死んだ。その記事がそれだ」
「え?」
「新聞では事故とされているが、事実はそうじゃないと睨んでる。その男は恐らく殺されたんだ」
「こ――」
平凡な生活を送っている限りは、多分一生無縁であろう不穏な単語が、当たり前のように父親の口から出たことに、要は一瞬ギョッとなった。
だが麻生は気にせずに続けた。
「そうだ。殺されたんだよ。でもこの事を詳しく話す前に、ひとつお前と約束がしたい」
そう言って麻生は封筒を手に佇む要の前に立つと、その目をじっと覗き込んだ。
今までと違い、ただならぬ気配を感じ取った要は、思わず息を飲んだ。真剣な父の眼差しは、決して冗談を言っているのではない。不気味な光でチロチロと燃えていた。
それは、先程までの浮ついていた要の心をしっかりと立て直すには、十分すぎる程の迫力を持っていた。
麻生は言った。
「これは遊びじゃない。だがお前の思うビジネスでもない。真剣にやる気があるなら、お前を信じてこの仕事を託す。ただし約束してほしい。他言は一切無用。秘密厳守だ。それと――」
「……」
「一度受けたら途中で投げ出さないことだ。約束できるか?」
要はごくりと唾をのみ込んだ。
「言っておくが――これは半端な気持ちで首を突っ込めば命取りにもなりかねないことだ。そのことはよく肝に銘じておけ。さぁ……どうする?」
要は、無言のままじっと麻生を顔を凝視した。
逆らい難い言葉の魔力に引き寄せられる。抑えきれない好奇心がムクムクと湧き上がってきた。
父の言う話がどんなものであれ、これは相当ヤバいことだ。
要は直感的にそう思った。
ビジネスマンとして、父と同じ土俵では戦えなくても、やはり要の中にも父、麻生稔と同じ血が流れているのだ。
危険と分かっていても、そこに何かあるなら挑まずにはいられない。
「分かりました」
要は静かにそう答えると、麻生と同じように強い眼差しでじっと見返した。
「約束します」
そう言って右手を差し出してくる。
野心に燃えた若い頃の自分とよく似ている――
差し出された息子の手を握りしめて、麻生は不敵な笑みを浮かべた。
麻生はそう言うと、引き出しから1通の封筒を取り出して要の方へ差し出した。
要はそれを見ると、驚いたように麻生を見て言った。
「仕事?へぇ……なんだろう。顧客訪問かな?でも俺、営業って苦手なんだよな……」
「お前が好きそうな仕事だ。他人の秘事を根掘り葉掘り聞き出してほじくり出す、探偵まがいの仕事だよ」
「……」
要は封筒を受け取り、中身を取り出した。
入っていたのは数枚のレポート用紙。そこに【眠り姫に関すること】と書かれてあるのを見て、要は苦笑した。
「眠り姫?おとぎ話の調査でもするの?」
レポート用紙と共に、数枚の写真も出てきた。
かなり色褪せた古い写真と、最近取られたと思しき写真。古い写真はよく分からないが、新しい方には同じ人物が3枚ほど、角度を変えて映っていた。取り方からして盗撮だろう。
中年の、大人しそうな顔をした男だ。もちろん見覚えはない。
「誰ですか?この人は」
要は思わずそう聞いた。
麻生は例の新聞記事を要の方へ差し向けた。要はその記事と写真を見比べ、尚も分からないという顔をして麻生を見た。
「その写真の男は死んだ。その記事がそれだ」
「え?」
「新聞では事故とされているが、事実はそうじゃないと睨んでる。その男は恐らく殺されたんだ」
「こ――」
平凡な生活を送っている限りは、多分一生無縁であろう不穏な単語が、当たり前のように父親の口から出たことに、要は一瞬ギョッとなった。
だが麻生は気にせずに続けた。
「そうだ。殺されたんだよ。でもこの事を詳しく話す前に、ひとつお前と約束がしたい」
そう言って麻生は封筒を手に佇む要の前に立つと、その目をじっと覗き込んだ。
今までと違い、ただならぬ気配を感じ取った要は、思わず息を飲んだ。真剣な父の眼差しは、決して冗談を言っているのではない。不気味な光でチロチロと燃えていた。
それは、先程までの浮ついていた要の心をしっかりと立て直すには、十分すぎる程の迫力を持っていた。
麻生は言った。
「これは遊びじゃない。だがお前の思うビジネスでもない。真剣にやる気があるなら、お前を信じてこの仕事を託す。ただし約束してほしい。他言は一切無用。秘密厳守だ。それと――」
「……」
「一度受けたら途中で投げ出さないことだ。約束できるか?」
要はごくりと唾をのみ込んだ。
「言っておくが――これは半端な気持ちで首を突っ込めば命取りにもなりかねないことだ。そのことはよく肝に銘じておけ。さぁ……どうする?」
要は、無言のままじっと麻生を顔を凝視した。
逆らい難い言葉の魔力に引き寄せられる。抑えきれない好奇心がムクムクと湧き上がってきた。
父の言う話がどんなものであれ、これは相当ヤバいことだ。
要は直感的にそう思った。
ビジネスマンとして、父と同じ土俵では戦えなくても、やはり要の中にも父、麻生稔と同じ血が流れているのだ。
危険と分かっていても、そこに何かあるなら挑まずにはいられない。
「分かりました」
要は静かにそう答えると、麻生と同じように強い眼差しでじっと見返した。
「約束します」
そう言って右手を差し出してくる。
野心に燃えた若い頃の自分とよく似ている――
差し出された息子の手を握りしめて、麻生は不敵な笑みを浮かべた。
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