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第2章・星を巡る人々
#5
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「よく分からないんだ」
と、唯人は言った。
卵を買いにスーパーへ行くことになった経緯を話しながら、唯人は何度も首を傾げる。
「台所を通った時も、特にガスの匂いなんてしなかったし」
「でも新聞では、ガス漏れによる爆発ではないかと」
「僕には分からないよ……」
遅い朝食をとりながら、唯人は江戸川から詳しい状況を聞かされた。
ガスに引火しての爆発炎上という事らしいが、どうもピンとこない。本当だろうか?
あっという間に空を黒く染めた、あの不気味な黒煙。
その向こうから、父が小さく手を振るのが見えた。
(お父さんはどうして、遠くのスーパーへ行くように言ったんだろう?)
ふと。その疑問が、一瞬胸に引っかかり、流れていく。
そのことを江戸川に話そうかと思ったが、何故か言うことが出来なかった。
「どうしてこんなことになっちゃったのかな……」
そう呟いて唯人は唇を噛んだ。俯いた拍子に、溢れてきた涙が再び頬を伝った。
「唯人さん。今は何も考えない方がいい。昨日の今日で、まだ混乱しているんですよ」
「うん……そうだね……」
何か考えていたいのに、上手く考えがまとまらない。絡んだ糸を解こうとすればするほど複雑に絡み合っていくようで、なんだかモヤモヤする。
全てを払い除けて頭の中を空にしても、最後に浮かんでくるのは決まって、勝手口に佇み手を振る父の姿だった。なぜ……
なぜ父は自分1人だけの外出を、あの時に限って許したのだろう――
「唯人さん?」
唯人は視線を上げた。自分を見る江戸川に軽く笑いかけ、テーブルに置かれた男の手に自分の手をそっと重ねた。
温かかった。
その熱に触れて、初めて自分も生きているのだと気が付いた。
自分の傍にいる人間は、もうこの男しかいないのだと思うと急に不安になり、重ねた手に力を込めた。
「傍にいてくれる?」
「もちろん。ずっと傍にいますよ。どこにも行きません」
その言葉に恐らく嘘はないだろう。でもその真意を推し量るには江戸川は難しい相手だ。
家族同様に信頼してはいるが、時々何を考えているのか分からない時がある。でも、彼がいなくなれば自分も生きてはいけない――漠然とだが、そう認識している。
重ねた手の温もりとは裏腹に、自分を取り巻く世界が急速に冷えていくのを感じて、唯人は微かに身震いした。
と、唯人は言った。
卵を買いにスーパーへ行くことになった経緯を話しながら、唯人は何度も首を傾げる。
「台所を通った時も、特にガスの匂いなんてしなかったし」
「でも新聞では、ガス漏れによる爆発ではないかと」
「僕には分からないよ……」
遅い朝食をとりながら、唯人は江戸川から詳しい状況を聞かされた。
ガスに引火しての爆発炎上という事らしいが、どうもピンとこない。本当だろうか?
あっという間に空を黒く染めた、あの不気味な黒煙。
その向こうから、父が小さく手を振るのが見えた。
(お父さんはどうして、遠くのスーパーへ行くように言ったんだろう?)
ふと。その疑問が、一瞬胸に引っかかり、流れていく。
そのことを江戸川に話そうかと思ったが、何故か言うことが出来なかった。
「どうしてこんなことになっちゃったのかな……」
そう呟いて唯人は唇を噛んだ。俯いた拍子に、溢れてきた涙が再び頬を伝った。
「唯人さん。今は何も考えない方がいい。昨日の今日で、まだ混乱しているんですよ」
「うん……そうだね……」
何か考えていたいのに、上手く考えがまとまらない。絡んだ糸を解こうとすればするほど複雑に絡み合っていくようで、なんだかモヤモヤする。
全てを払い除けて頭の中を空にしても、最後に浮かんでくるのは決まって、勝手口に佇み手を振る父の姿だった。なぜ……
なぜ父は自分1人だけの外出を、あの時に限って許したのだろう――
「唯人さん?」
唯人は視線を上げた。自分を見る江戸川に軽く笑いかけ、テーブルに置かれた男の手に自分の手をそっと重ねた。
温かかった。
その熱に触れて、初めて自分も生きているのだと気が付いた。
自分の傍にいる人間は、もうこの男しかいないのだと思うと急に不安になり、重ねた手に力を込めた。
「傍にいてくれる?」
「もちろん。ずっと傍にいますよ。どこにも行きません」
その言葉に恐らく嘘はないだろう。でもその真意を推し量るには江戸川は難しい相手だ。
家族同様に信頼してはいるが、時々何を考えているのか分からない時がある。でも、彼がいなくなれば自分も生きてはいけない――漠然とだが、そう認識している。
重ねた手の温もりとは裏腹に、自分を取り巻く世界が急速に冷えていくのを感じて、唯人は微かに身震いした。
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