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第7章・困惑
#3
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「やはり生きていらしたんですね」
要はホッと安堵のため息を漏らし、同時に強い警戒心を周囲に向けた。それを察した土方は、「大丈夫だ」と頷いた。
「見張りがついている。何かあったら知らせに来る」
「でもどうして?なぜ俺の事を?どうやって?」」
矢継ぎ早に聞く要に土方は笑うと、その顔をじっと見つめて言った。
「君はあまりお父さんに似てないな……」
その台詞に要は苦笑した。
「見た目も性格も、何もかも正反対ですよ――父の事もご存知で?」
「まぁな」
その問いに対しては曖昧に頷いた。
「君は父親の命令で動いているのか?それとも君の意思で?」
「――以前は前者でしたが……今は後者ですね。俺は麻生の裏切り者なんです」
要はそう言い切ると、土方の目を見て言った。
「麻生もサキヤと同じように動いている事をご存知なんですね」
「身を守るための手段でね。情報を知ることが何よりも大事だった……」
「それなら今、唯人君が置かれている状況もご存知ですよね?」
「あぁ」
土方は低く呻いた。
「唯人君の存在を、いつ頃から知ってたんですか?」
「生まれた時から知っているよ」
土方はそう言うと、「なぁ」と問いかけた。
「私が今日こうして君を呼び出したのは、君にある事実を知ってもらうためだ。君が父親の命令であの子に近づいたのなら、事のあらましは知っているんだろうね?」
「ある特殊なバラから抽出される薬の存在について――ですか?俺はそれを【眠り姫】と聞いていますが――」
「眠り姫?……そうか。君たち間ではそう呼ばれているのか。我々は野獣の薔薇と呼んでいたがね」
「ビースト?」
「ふふふ。どちらもお伽噺をコードネームにするとは……ふざけた話だ」
そう言って土方は苦笑した。
「今の君は、父親に反旗を翻した裏切り者という立場なんだろう?それは今も変わってないか?」
そう問いかけられ、要は静かに頷いた。
「そうか……あの子は君の事を、とても信頼しているようだったよ」
「唯人君に会ったんですか?」
「短い時間だったがな。でも有意義な時間だったよ。何よりも、あの男以外に信頼を寄せる相手がいるという事実を知っただけでも――それが、麻生の倅だった事には少々驚いたがね」
土方は笑ったが、すぐ真顔の戻ると言った。
「サキヤの連中は必死だよ。4,5日前のニュースを見たか?多摩川で浮いた男だ。奥村は昔、サキヤの中央研究室にいた。薬の製造には直接関わってはいなかったが、頻繁に実験棟に出入りしていた。だから知っていたんだろう」
「薬の存在をですか?それとも、その製造法?」
土方は首を振ると、要の目を見つめたまま身動き一つせず言った。
「君たちが欲しがっているのは薬の製造法だ。でもサキヤはそれだけじゃない。奴らが今も必死になって探し回り、隠したがっているのは製造法じゃなく、その薬を使って行われた非合法な人体実験の事実だ」
「――」
要は言葉を失くした。
(なんだって……?)
驚く要を見て土方は頷くと、「よく聞いてくれ」と念を押してから言った。
「これを君に打ち明けるかどうかは、正直迷った。何故って、この事実を知った時点で君もまた命を狙われる1人になりうるからだ。だからくれぐれも用心して欲しい。この事実は恐らく、君の父親も知らない事だ」
「……」
「奥村はその事を知っていた。どうやって知ったかは分からない。でも実験の後、彼は会社を辞めてしまった。もともと勤務態度の良くない男でね。しょっちゅうトラブルを起こしていた。ギャンブルでだいぶ借金が嵩んでいたようだが、バカな男だよ――彼はサキヤを強請ったんだろう。人体実験の事実をネタにして脅迫したんだ」
「……」
「でもサキヤがそんな取引に応じるわけがない。可哀そうにな……黙っていれば長生きできたものを――彼は殺されたんだよ」
「自殺に見せかけて?」
「それが連中のやり口だ」
「――」
要は言葉もなく目を閉じた。
とても、現実世界のやり取りとは思えなかったのだ。
要はホッと安堵のため息を漏らし、同時に強い警戒心を周囲に向けた。それを察した土方は、「大丈夫だ」と頷いた。
「見張りがついている。何かあったら知らせに来る」
「でもどうして?なぜ俺の事を?どうやって?」」
矢継ぎ早に聞く要に土方は笑うと、その顔をじっと見つめて言った。
「君はあまりお父さんに似てないな……」
その台詞に要は苦笑した。
「見た目も性格も、何もかも正反対ですよ――父の事もご存知で?」
「まぁな」
その問いに対しては曖昧に頷いた。
「君は父親の命令で動いているのか?それとも君の意思で?」
「――以前は前者でしたが……今は後者ですね。俺は麻生の裏切り者なんです」
要はそう言い切ると、土方の目を見て言った。
「麻生もサキヤと同じように動いている事をご存知なんですね」
「身を守るための手段でね。情報を知ることが何よりも大事だった……」
「それなら今、唯人君が置かれている状況もご存知ですよね?」
「あぁ」
土方は低く呻いた。
「唯人君の存在を、いつ頃から知ってたんですか?」
「生まれた時から知っているよ」
土方はそう言うと、「なぁ」と問いかけた。
「私が今日こうして君を呼び出したのは、君にある事実を知ってもらうためだ。君が父親の命令であの子に近づいたのなら、事のあらましは知っているんだろうね?」
「ある特殊なバラから抽出される薬の存在について――ですか?俺はそれを【眠り姫】と聞いていますが――」
「眠り姫?……そうか。君たち間ではそう呼ばれているのか。我々は野獣の薔薇と呼んでいたがね」
「ビースト?」
「ふふふ。どちらもお伽噺をコードネームにするとは……ふざけた話だ」
そう言って土方は苦笑した。
「今の君は、父親に反旗を翻した裏切り者という立場なんだろう?それは今も変わってないか?」
そう問いかけられ、要は静かに頷いた。
「そうか……あの子は君の事を、とても信頼しているようだったよ」
「唯人君に会ったんですか?」
「短い時間だったがな。でも有意義な時間だったよ。何よりも、あの男以外に信頼を寄せる相手がいるという事実を知っただけでも――それが、麻生の倅だった事には少々驚いたがね」
土方は笑ったが、すぐ真顔の戻ると言った。
「サキヤの連中は必死だよ。4,5日前のニュースを見たか?多摩川で浮いた男だ。奥村は昔、サキヤの中央研究室にいた。薬の製造には直接関わってはいなかったが、頻繁に実験棟に出入りしていた。だから知っていたんだろう」
「薬の存在をですか?それとも、その製造法?」
土方は首を振ると、要の目を見つめたまま身動き一つせず言った。
「君たちが欲しがっているのは薬の製造法だ。でもサキヤはそれだけじゃない。奴らが今も必死になって探し回り、隠したがっているのは製造法じゃなく、その薬を使って行われた非合法な人体実験の事実だ」
「――」
要は言葉を失くした。
(なんだって……?)
驚く要を見て土方は頷くと、「よく聞いてくれ」と念を押してから言った。
「これを君に打ち明けるかどうかは、正直迷った。何故って、この事実を知った時点で君もまた命を狙われる1人になりうるからだ。だからくれぐれも用心して欲しい。この事実は恐らく、君の父親も知らない事だ」
「……」
「奥村はその事を知っていた。どうやって知ったかは分からない。でも実験の後、彼は会社を辞めてしまった。もともと勤務態度の良くない男でね。しょっちゅうトラブルを起こしていた。ギャンブルでだいぶ借金が嵩んでいたようだが、バカな男だよ――彼はサキヤを強請ったんだろう。人体実験の事実をネタにして脅迫したんだ」
「……」
「でもサキヤがそんな取引に応じるわけがない。可哀そうにな……黙っていれば長生きできたものを――彼は殺されたんだよ」
「自殺に見せかけて?」
「それが連中のやり口だ」
「――」
要は言葉もなく目を閉じた。
とても、現実世界のやり取りとは思えなかったのだ。
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