薔薇を抱いて眠れ

sorarion914

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第7章・困惑

#3

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「やはり生きていらしたんですね」

 要はホッと安堵のため息を漏らし、同時に強い警戒心を周囲に向けた。それを察した土方は、「大丈夫だ」と頷いた。

「見張りがついている。何かあったら知らせに来る」
「でもどうして?なぜ俺の事を?どうやって?」」

 矢継ぎ早に聞く要に土方は笑うと、その顔をじっと見つめて言った。

「君はあまりお父さんに似てないな……」

 その台詞に要は苦笑した。

「見た目も性格も、何もかも正反対ですよ――父の事もご存知で?」
「まぁな」

 その問いに対しては曖昧に頷いた。

「君は父親の命令で動いているのか?それとも君の意思で?」
「――以前は前者でしたが……今は後者ですね。俺は麻生の裏切り者なんです」

 要はそう言い切ると、土方の目を見て言った。

「麻生もサキヤと同じように動いている事をご存知なんですね」
「身を守るための手段でね。情報を知ることが何よりも大事だった……」
「それなら今、唯人君が置かれている状況もご存知ですよね?」
「あぁ」

 土方は低く呻いた。

「唯人君の存在を、いつ頃から知ってたんですか?」
「生まれた時から知っているよ」

 土方はそう言うと、「なぁ」と問いかけた。

「私が今日こうして君を呼び出したのは、君にを知ってもらうためだ。君が父親の命令であの子に近づいたのなら、事のは知っているんだろうね?」
「ある特殊なバラから抽出される薬の存在について――ですか?俺はそれを【眠り姫】と聞いていますが――」
「眠り姫?……そうか。君たち間ではそう呼ばれているのか。我々は野獣の薔薇ビーストローズと呼んでいたがね」
「ビースト?」
「ふふふ。どちらもお伽噺をコードネームにするとは……ふざけた話だ」

 そう言って土方は苦笑した。

「今の君は、父親に反旗を翻した裏切り者という立場なんだろう?それは今も変わってないか?」

 そう問いかけられ、要は静かに頷いた。

「そうか……あの子は君の事を、とても信頼しているようだったよ」
「唯人君に会ったんですか?」
「短い時間だったがな。でも有意義な時間だったよ。何よりも、以外に信頼を寄せる相手がいるという事実を知っただけでも――それが、麻生の倅だった事には少々驚いたがね」

 土方は笑ったが、すぐ真顔の戻ると言った。

「サキヤの連中は必死だよ。4,5日前のニュースを見たか?多摩川で浮いた男だ。奥村は昔、サキヤの中央研究室にいた。薬の製造には直接関わってはいなかったが、頻繁に実験棟に出入りしていた。だから知っていたんだろう」
「薬の存在をですか?それとも、その製造法?」

 土方は首を振ると、要の目を見つめたまま身動き一つせず言った。

「君たちが欲しがっているのは薬の製造法だ。でもサキヤはだけじゃない。奴らが今も必死になって探し回り、隠したがっているのは製造法じゃなく、その薬を使って行われた非合法な人体実験の事実だ」
「――」

 要は言葉を失くした。

(なんだって……?)

 驚く要を見て土方は頷くと、「よく聞いてくれ」と念を押してから言った。

「これを君に打ち明けるかどうかは、正直迷った。何故って、この事実を知った時点で君もまた命を狙われる1人になりうるからだ。だからくれぐれも用心して欲しい。この事実は恐らく、君の父親も知らない事だ」
「……」
「奥村はその事を知っていた。どうやって知ったかは分からない。でも実験の後、彼は会社を辞めてしまった。もともと勤務態度の良くない男でね。しょっちゅうトラブルを起こしていた。ギャンブルでだいぶ借金が嵩んでいたようだが、バカな男だよ――彼はサキヤを強請ゆすったんだろう。人体実験の事実をネタにして脅迫したんだ」
「……」
「でもサキヤがそんな取引に応じるわけがない。可哀そうにな……黙っていれば長生きできたものを――彼は殺されたんだよ」
「自殺に見せかけて?」
「それが連中のやり口だ」
「――」

 要は言葉もなく目を閉じた。


 とても、現実世界のやり取りとは思えなかったのだ。
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