59 / 65
第10章・江戸川千景
#6
しおりを挟む
「彼に会いたかったんでしょう?唯人さん――彼の事が好きなんですよね?」
その言葉に、唯人の頬がサッと赤らんだ。
それを見た円香が「やだぁ」と笑った。
「そうだったんだ。どうり誘惑してもなびかないはずよね」
「ち、違うよ!そういう」
「分かってますよ。純粋に彼の事が好きなんですよね?彼は優しいし、一緒に遊んでくれる。お兄さんみたいだ」
「……」
「だから、何かあったら守ってあげたい。でしょう?」
江戸川はそう言いながら、ゆっくりと要と唯人に歩み寄った。
要は唯人を庇う様に前に出ると、江戸川を睨みつけた。
そんな要を見て江戸川は言った。
「唯人さん。取り引きしませんか?」
「取り引き?」
「そう。取り引きです。引き換えは彼の命だ」
そう言った次の瞬間――
江戸川がジャケットのポケットから出した小型の拳銃に、唯人も、そして要も絶句した。
江戸川は、驚く要に銃口を向けた。
(ウソ……だろ?)
要は自分に向けられた銃口を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
あまりにも現実味がなさ過ぎて、理解が出来ない。
あれは本物の拳銃だろうか?
「冗談ですよね?」
「そう思うか?」
顔色一つ変えずに答える江戸川に、唯人が言った。
「どういう事?なんで取り引き?一体何を」
「薬を作って下さい」
「薬?」
唯人がギョッとしたようにたじろぐのが分かった。
要も驚いて江戸川を凝視した。
(この男は――――)
まじろぎもせず、じっと自分に銃口を向ける江戸川を見て、要は息を飲んだ。
(この男は、知っていたんだ……この子が薬の製造法を知っていることを)
(そうか――だからか)
(この子を殺さず、生かしておいたのは)
「どうしてそれを……」
戸惑う唯人に、江戸川は尚も言った。
「薬を作って下さい唯人さん。知っているでしょう?お父さんから聞いたはずだ」
「……」
「彼を殺されたくなければ、言う事を聞いて下さい」
要は、自分に向けられた銃口を睨みつけると、唯人を庇う様に自分の背後に追いやりながら言った。
「唯人君……言う事を聞いちゃダメだ。君は薬の事なんか知らないだろう?」
「取り引きですよ、唯人さん」
「でも――」
「この子は何も知らない!そんな取り引きに応じられるわけないだろう!」
要はそう叫ぶと、唯人の方を振り返った。
「君は何も知らない。だから取り引きなんかする必要ない。あんな拳銃、オモチャに決まってる!」
そう言い切った時、軽い炸裂音がして、左の足首に強烈な痛みを感じた。
「――ッ!!」
「要さん!!」
円香も驚いたように目を丸くした。
銃口から微かな煙が上がる。
「かすめただけだ。でも次は急所を狙う」
要は蹲り、足首を掴んだ。
焼けるような痛みと出血に顔をしかめる。
唯人は、信じられないような目で江戸川を見た。そしてうわ言のように「どうして?」と繰り返した。
「どうしてこんなこと――」
「あなたには分からないでしょうね……なんでこんなことをしているのか」
江戸川はそう呟くと、ポケットからハンカチを取り出して、それを要の方へ放り投げた。要は睨むように江戸川を見上げた。
江戸川はパイプ椅子を引き寄せると、銃口は要に向けたまま、ゆっくりと腰かけた。
「まぁ、驚くのも無理はないな。なら驚きついでにもう一つ、あなたに教えてあげますよ」
唯人は視線を上げた。
「あなたのお父さんを殺したのは私です」
その言葉に、唯人の頬がサッと赤らんだ。
それを見た円香が「やだぁ」と笑った。
「そうだったんだ。どうり誘惑してもなびかないはずよね」
「ち、違うよ!そういう」
「分かってますよ。純粋に彼の事が好きなんですよね?彼は優しいし、一緒に遊んでくれる。お兄さんみたいだ」
「……」
「だから、何かあったら守ってあげたい。でしょう?」
江戸川はそう言いながら、ゆっくりと要と唯人に歩み寄った。
要は唯人を庇う様に前に出ると、江戸川を睨みつけた。
そんな要を見て江戸川は言った。
「唯人さん。取り引きしませんか?」
「取り引き?」
「そう。取り引きです。引き換えは彼の命だ」
そう言った次の瞬間――
江戸川がジャケットのポケットから出した小型の拳銃に、唯人も、そして要も絶句した。
江戸川は、驚く要に銃口を向けた。
(ウソ……だろ?)
要は自分に向けられた銃口を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
あまりにも現実味がなさ過ぎて、理解が出来ない。
あれは本物の拳銃だろうか?
「冗談ですよね?」
「そう思うか?」
顔色一つ変えずに答える江戸川に、唯人が言った。
「どういう事?なんで取り引き?一体何を」
「薬を作って下さい」
「薬?」
唯人がギョッとしたようにたじろぐのが分かった。
要も驚いて江戸川を凝視した。
(この男は――――)
まじろぎもせず、じっと自分に銃口を向ける江戸川を見て、要は息を飲んだ。
(この男は、知っていたんだ……この子が薬の製造法を知っていることを)
(そうか――だからか)
(この子を殺さず、生かしておいたのは)
「どうしてそれを……」
戸惑う唯人に、江戸川は尚も言った。
「薬を作って下さい唯人さん。知っているでしょう?お父さんから聞いたはずだ」
「……」
「彼を殺されたくなければ、言う事を聞いて下さい」
要は、自分に向けられた銃口を睨みつけると、唯人を庇う様に自分の背後に追いやりながら言った。
「唯人君……言う事を聞いちゃダメだ。君は薬の事なんか知らないだろう?」
「取り引きですよ、唯人さん」
「でも――」
「この子は何も知らない!そんな取り引きに応じられるわけないだろう!」
要はそう叫ぶと、唯人の方を振り返った。
「君は何も知らない。だから取り引きなんかする必要ない。あんな拳銃、オモチャに決まってる!」
そう言い切った時、軽い炸裂音がして、左の足首に強烈な痛みを感じた。
「――ッ!!」
「要さん!!」
円香も驚いたように目を丸くした。
銃口から微かな煙が上がる。
「かすめただけだ。でも次は急所を狙う」
要は蹲り、足首を掴んだ。
焼けるような痛みと出血に顔をしかめる。
唯人は、信じられないような目で江戸川を見た。そしてうわ言のように「どうして?」と繰り返した。
「どうしてこんなこと――」
「あなたには分からないでしょうね……なんでこんなことをしているのか」
江戸川はそう呟くと、ポケットからハンカチを取り出して、それを要の方へ放り投げた。要は睨むように江戸川を見上げた。
江戸川はパイプ椅子を引き寄せると、銃口は要に向けたまま、ゆっくりと腰かけた。
「まぁ、驚くのも無理はないな。なら驚きついでにもう一つ、あなたに教えてあげますよ」
唯人は視線を上げた。
「あなたのお父さんを殺したのは私です」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる