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第11章・銃口の行方
#1
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要は目を開けた。
多少意識は朦朧とするものの、しかし自分が置かれている状況は瞬時に察することが出来た。
眼前に突き付けられた銃口。
そして、後ろ手に縛られた自由の効かない体。
こんなに寝覚めが悪いのは初めてだった。
「気分はどうだ?」
そう聞かれて要は思わず笑った。
「……いいわけないだろう……最悪だ」
「あと少しの辛抱だ。薬が出来たら自由にしてやる」
「どうだか……」
要はそう悪態をついた。
江戸川は銃口を向けたまま、パイプ椅子に座り足を組んでいる。あの女の姿はなかった。
「君にはいい迷惑だろうが、首を突っ込んだ麻生にも責任を取ってもらわないとな」
「俺のオヤジが何をしたんです?」
要の問いに、江戸川は言った。
「当時、サキヤの上層部にいた人間が、君のお父さんに薬の情報をリークしたことは聞いているか?」
「えぇ」
「そいつは、製造法を聞きだせたら、それを買い取ってくれないかと君のお父さんに持ち掛けたんだろう。真偽を確かめるために、お父さんはサキヤにスパイを何人か潜り込ませていた」
それは父からも聞いていたので、要は頷いた。
「そのことに気づいたサキヤが、臨床検査も不十分な薬の実験を慌てて強行したのさ。おおむね成功できればそれでいいと踏んだのかもな。仮に失敗に終わったとしても――そんな薬の存在、初めから無かったとシラを切るつもりだったんだろう。そして事実を知る者の口を封じ始めた……」
「……」
「麻生の罪は、サキヤを煽った事だ。君のお父さんが首を突っ込んでこなければ、早まった実験はなかったかもしれない。そうすれば誰も――死なずに済んだかもしれない……」
そう言って、視線を落とした江戸川に、要は言った。
「あなたの復讐は、実験を強行したサキヤに対してだろう?そしてそれを行った研究員たちだ。でも唯人君は違う。彼はただの身内の1人で、彼自身は何も知らない――そんな事、あなたにだって分かってるはずだ」
「……」
「だから今日まで何もしなかった。それとも、製造法を知っているから生かしておいたんですか?そうじゃないですよね?10年も一緒に暮らしていて、手が出せなかったとは思えない。あなたの中で、何か変化があったから何もしなかったんじゃないですか?」
要の言葉に、江戸川は黙ったまま、じっと足元を見つめていた。
重く口を閉ざしたまま何も答えない江戸川に、要は語気を荒げて言った。
「教えて下さい江戸川さん――いえ、北岡誠一郎さん。あなたが復讐心で清宮一家に近づいたのが事実だとしても、なぜ今まで何もせず……いえ――なぜ今になってこんな事をしようと思ったんですか?なぜ今なんです!?」
江戸川は、ただ黙ってじっと要を顔を凝視した。
その目には、いつものような冷たさはなかった。むしろ穏やかでとても柔らかい、熱を感じる。
戸惑う要を見て、江戸川は微かに笑うと、言った。
「いつだったか……君は、自分は期待されるほど出来のイイ息子じゃないと言ってたが、でも私はそうは思わない」
「……」
「君は自分で思っているほど、出来の悪い人間じゃないよ。もっと自信を持つといい」
「何を急に……おかしなこと言うなっ!」
要は困惑した様にそう吐き捨てると、不貞腐れた様にそっぽを向いた。
撃たれた左の足首には、簡易的だがガーゼが巻かれている。
この男がやったのだろうか?
自分で撃っておきながら、手当てをするなんて矛盾している……
痛みに顔をしかめる要に、江戸川は言った。
「家に帰ったらきちんと治療した方がいい。掠っただけとはいえ、銃の傷は面倒だ」
「そんな物騒なもの、どこで手に入れたんだよ」
「その気になれば君にだって入手できる」
そう言って笑う江戸川に、何か言い返そうと要が口を開いた時、温室へ続く倉庫のドアが開いた。
「どうやら薬が出来たみたいだな」
「――」
要はハッと息を飲んだ。
多少意識は朦朧とするものの、しかし自分が置かれている状況は瞬時に察することが出来た。
眼前に突き付けられた銃口。
そして、後ろ手に縛られた自由の効かない体。
こんなに寝覚めが悪いのは初めてだった。
「気分はどうだ?」
そう聞かれて要は思わず笑った。
「……いいわけないだろう……最悪だ」
「あと少しの辛抱だ。薬が出来たら自由にしてやる」
「どうだか……」
要はそう悪態をついた。
江戸川は銃口を向けたまま、パイプ椅子に座り足を組んでいる。あの女の姿はなかった。
「君にはいい迷惑だろうが、首を突っ込んだ麻生にも責任を取ってもらわないとな」
「俺のオヤジが何をしたんです?」
要の問いに、江戸川は言った。
「当時、サキヤの上層部にいた人間が、君のお父さんに薬の情報をリークしたことは聞いているか?」
「えぇ」
「そいつは、製造法を聞きだせたら、それを買い取ってくれないかと君のお父さんに持ち掛けたんだろう。真偽を確かめるために、お父さんはサキヤにスパイを何人か潜り込ませていた」
それは父からも聞いていたので、要は頷いた。
「そのことに気づいたサキヤが、臨床検査も不十分な薬の実験を慌てて強行したのさ。おおむね成功できればそれでいいと踏んだのかもな。仮に失敗に終わったとしても――そんな薬の存在、初めから無かったとシラを切るつもりだったんだろう。そして事実を知る者の口を封じ始めた……」
「……」
「麻生の罪は、サキヤを煽った事だ。君のお父さんが首を突っ込んでこなければ、早まった実験はなかったかもしれない。そうすれば誰も――死なずに済んだかもしれない……」
そう言って、視線を落とした江戸川に、要は言った。
「あなたの復讐は、実験を強行したサキヤに対してだろう?そしてそれを行った研究員たちだ。でも唯人君は違う。彼はただの身内の1人で、彼自身は何も知らない――そんな事、あなたにだって分かってるはずだ」
「……」
「だから今日まで何もしなかった。それとも、製造法を知っているから生かしておいたんですか?そうじゃないですよね?10年も一緒に暮らしていて、手が出せなかったとは思えない。あなたの中で、何か変化があったから何もしなかったんじゃないですか?」
要の言葉に、江戸川は黙ったまま、じっと足元を見つめていた。
重く口を閉ざしたまま何も答えない江戸川に、要は語気を荒げて言った。
「教えて下さい江戸川さん――いえ、北岡誠一郎さん。あなたが復讐心で清宮一家に近づいたのが事実だとしても、なぜ今まで何もせず……いえ――なぜ今になってこんな事をしようと思ったんですか?なぜ今なんです!?」
江戸川は、ただ黙ってじっと要を顔を凝視した。
その目には、いつものような冷たさはなかった。むしろ穏やかでとても柔らかい、熱を感じる。
戸惑う要を見て、江戸川は微かに笑うと、言った。
「いつだったか……君は、自分は期待されるほど出来のイイ息子じゃないと言ってたが、でも私はそうは思わない」
「……」
「君は自分で思っているほど、出来の悪い人間じゃないよ。もっと自信を持つといい」
「何を急に……おかしなこと言うなっ!」
要は困惑した様にそう吐き捨てると、不貞腐れた様にそっぽを向いた。
撃たれた左の足首には、簡易的だがガーゼが巻かれている。
この男がやったのだろうか?
自分で撃っておきながら、手当てをするなんて矛盾している……
痛みに顔をしかめる要に、江戸川は言った。
「家に帰ったらきちんと治療した方がいい。掠っただけとはいえ、銃の傷は面倒だ」
「そんな物騒なもの、どこで手に入れたんだよ」
「その気になれば君にだって入手できる」
そう言って笑う江戸川に、何か言い返そうと要が口を開いた時、温室へ続く倉庫のドアが開いた。
「どうやら薬が出来たみたいだな」
「――」
要はハッと息を飲んだ。
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