T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第3章・遭遇

#2

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「大丈夫?」
 そう聞かれて宇佐美はハッと顔を上げた。

 事件現場へ向かう道中の車内。
 運転席から野崎が心配そうにこっちを見ている。
「夕べ、ちゃんと寝れた?」
「え?なんで?」
「なんか寝不足の顔してるよ」
 そう言われて、宇佐美は思わず苦笑いした。
 昨夜の出来事はさすがに話せないな……と思い、「寝ましたよ」とだけ答えて窓の外を見る。
 車は、かしわ台駅前を通過し、跨線橋を超えてしばらく走る。
 ぼんやりと車窓の景色を眺めながら、宇佐美は聞いた。
「あの……」
「なに?」
 前方を見つめたまま、野崎は聞いた。
「参考までに聞きたいんですけど……殺された女性って――どこ刺されました?」
「え?」
 何故そんなことを聞くのか不思議そうな顔をしたが、野崎は隠さずに言った。
「首と背中です」
「首と……」
 (背中――)
 宇佐美は生ぬるい感触を思い出して身震いした。
「首は頸動脈を一突き。多分それでほぼ即死。背中はその後刺されたようで――」
 隣で、目を閉じて俯く宇佐美を見て、野崎は慌てて言葉を切った。
「あぁ、ごめん!こういう話はダメか」
「い、いえ、大丈夫です」
 宇佐美も慌てて手を振る。余計な心配をされたくない……そう思って「今日って、お休みだったんじゃないんですか?」と関係ない話題を振った。
「休み?」
「土曜日ですよ?」
「あぁ」
 野崎は軽く笑った。
「残念ながら休みじゃないんだ」
「……そうなんだ」
「休みはあるけど、いつも週末ってわけじゃないし」
「お休みの日に連れ出したんじゃなければいいです」
「――」

 車は川沿いの道に入り、しばらく走って、止まる。
「ここです」
 野崎は、道のすぐ脇にあるアパートを指差した。
 宇佐美はジッとその外観を見つめた。2階の角部屋に規制テープが張られている。現場はあの部屋だ。
「ここには停められないから裏に回ります。少し歩くけど」
 野崎はそう言うと、通りを一本奥に入った場所にある路肩に車を寄せて停車した。
 2人は車から降りてアパートまで歩く。
「この辺りは静かですね」
「住宅街だけど駅まで距離があるし……ちなみに、駅のホームに飛び込んだ男が住んでいたアパートが、ここから500メートル程離れた所にあります」
 その方角を指差して野崎が言った。
「案外近かったんだ」
「もしかしたら、顔ぐらいは合わせたことがあるかもね」
「でも接点はないんだ?」
「今のところは」
 アパートにつくと、2人はそのまま建物の裏手にまわった。
「あの部屋がそうです」
 野崎に言われ、宇佐美は2階の部屋の窓を見上げた。
 カーテンが閉まっていて内部は伺い知れない。
「本当は中を見せたいんだけど……」
「見張りの警察官とかはいないんですか?」
「巡回をしてる。いつもより重点的に」
 ふぅん……と鼻を鳴らして、宇佐美は周囲の様子を伺った。
 現場の部屋の真正面に立ち、その対角線上にある植え込みを見た。
 その植え込みだけ、並んでいる他のものより色味が悪い。
「こいつだけ元気がない。枯れそうだ」
「本当だ――気づかなかった」
 他を見るが、明らかに枯れかけているのは部屋の向かいにあるその植え込みだけだ。
「階下に人は?」
「現場の真下は空き室だ。他は埋まっているのに、空いてるのはそこだけ」
「いつから?」
「半年ぐらい前からって言ってたかな?」
「なんで出て行ったの?」
 いやにこだわるな、と思ったが「契約更新が切れて、更新しなかったからってだけだよ。今も入居者を募ってるけど……あんな事件のあった階下じゃ、どうかな」と首をかしげる。
 大家にとっては、とんだ災難だ。
 宇佐美は植え込みの葉を触って、その場にしゃがみ込む。
 根元の土に触れて何か考えているようだった。野崎は、相手が一体何をしているのかさっぱり分からず、ただ不思議そうに眺めている。
 宇佐美はしゃがんだまま、視線を部屋の窓に向けた。そして、「あっ」と小さく声を出した。
 その視線に誘われるように、野崎も部屋の窓を見上げる。
 そして思わず「え?」と声を上げた。
 ――部屋のカーテンの向こうに、人影があった。
 それが、スーッと動いて部屋の奥へ消えていく。
「――」
 野崎は呆気に取られてしばらく見上げていたが、すぐに階段の方へ駆け出すと、2階へ駆けあがった。
 部屋のドアには規制テープが張られ、中には入れないようになっている。
 当然、鍵もかけてある。
 確認したが、テープを切った痕跡はないし、鍵もかかっていた。
 (どういうことだ?)
 ゆっくりと階段を上がってきた宇佐美は、部屋の前で困惑している野崎を見て言った。
「誰かいましたか?」
 野崎は振り向いて宇佐美を見た。そして静かに首を振る。
「いるわけない……鍵が閉まってる。テープも切れてないし」
「じゃあ誰もいないよ」
「でも誰かいた。見た――よな?」
 そう問いかけてくる野崎の目を、宇佐美はじっと覗き込んだ。
 そして、言った――
「そうか……野崎さんにもんだね」
「え?」
 それどういう意味?と眉を寄せる。
 が、宇佐美は答えずに周囲を見回すと、「もう行こう」と言った。
「これ以上ここにいても何もなさそうだ」
「でも……誰か中に――」
 考えをまとめようと必死になっている野崎を見て、宇佐美は「えぇ、分かってます」と頷く。
 そして困惑している野崎を静かに促した。
「どこかで少し休みませんか?」
「……」
「おなかも空いたし。何か食べよう」
 促されるまま野崎は階段を降りると、もう一度2階の窓を見上げた。
 カーテンの向こうにはもう何も映ってはいない。
 じっと見上げる野崎の後ろ姿を、宇佐美は黙って見ていた。

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