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6 かくして彼は王都へ向かう①
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「王都行き最終線、間も無く出発します——」
汽笛の音が鳴った。
使用人のウェイルスはいそいそともう一人の使用人、ラルフに話しかけた。
「まずいぜ、ラルフ。急がないと」
余裕があると思って道草を食っていたら、駅に着くのがギリギリになってしまった。
これではライガー様に不便をかけるだけでなく、ハルト様から懲戒処分されかねない。
「早く荷物を乗せるぞ」
掛け声を合わせて、トランクを持ち上げる。
「なあ、ウェイルス。この荷物、なんか重くないか?」
「重いだぁ? こんなにでっかい荷物なんだから、中身も重いに決まってるだろ」
「そうか……そう言われてみりゃそうだな」
腕をフルフルと震わせながら、二人は列車に貨物を運び込む。
「なあ、ウェイルス。でもこの荷物、なんか音がしないか?」
「音がする? 気のせいだろ」
「そうか……そう言われてみりゃそうかもな」
実のところ、ラルフはかなり耳が効く。
カサコソと箱の中で鳴った音も、決して幻聴ではなかった。
しかし彼の難点を挙げるとすれば、あまりにも他人の言葉に流されやすいところだった。
荷物を全て移動し終えると、ちょうど列車が出発する時刻になった。
ゆっくりと車輪が回り始めて、列車が線路の上を進む。
こうして、王都行きの便は発進した。
=====
日が登った。
間も無く武闘会が始まる。
エリスは大樹の下で佇み、待ち人を探していた。
——誰かきた。
人影が遠くに見える。
ちょっと期待して、背伸びなんてしてみて、白髪の少年の姿を目で探る。
「まあ、居るわけないか……」
半ば諦めのようなため息を吐く。
待ち合わせの時間はとっくの前に過ぎた。
もう大会の開始時刻まで数分を切った。今来たところで、間に合いはしないだろう。
信じたくはない。
だけど、事実として、彼はここにいない。
彼は今日、ついに試練から逃げたのだ。
「期待してた私がバカだったのかな……」
座り込んで、大樹の根元に背を預ける。
五年間、ずっと諦めない姿を隣で見ていたからか、こうなることを想像すらしていなかった。
でも、きっと長い間蓄積してきたものが、限界に達したのだろう。
そうに違いない。普通そうなるものなのだ。
「もう、待てそうにないよ、レンジ……」
「——おや? そこにいるのはエリス嬢じゃないか」
聞き覚えのある声に、俯けていた顔を上げるとそこには金髪の美青年が居た。
「ライガー様……」
「いつも愚弟が世話になっている。今日も見た目麗しいよ、エリス嬢」
ライガーは跪いて、エリスと視線を合わせた。
「ライガー様は……武闘会へ急がなくて良いのですか?」
「俺は初戦を免除されているんだ。だから今暫く、君の側にいられるよ」
ちょうど道中で君を見つけられて幸運だ。
そんな調子の良いことを言って、ライガーが優しい声色で囁いた。
「——君は、レンジを待っているんだね?」
「はい、そうです……」
「でも、レンジはもう来ないよ。あいつは、逃げたんだ」
「やっぱり、そうだったんですね。通りで、待ってても来ないと思いました」
確信的なライガーの言葉に、エリスは肩を落とした。
「いいや、少し勘違いをしているかもしれない」
「勘違い、ですか……?」
エリスが疑問の表情を浮かべるのに対して、ライガーは力無く頭を振った。
「本当に、逃げ出したんだよ、あいつは」
「それは、一体どういう……」
「あいつは——家を出たんだ」
汽笛の音が鳴った。
使用人のウェイルスはいそいそともう一人の使用人、ラルフに話しかけた。
「まずいぜ、ラルフ。急がないと」
余裕があると思って道草を食っていたら、駅に着くのがギリギリになってしまった。
これではライガー様に不便をかけるだけでなく、ハルト様から懲戒処分されかねない。
「早く荷物を乗せるぞ」
掛け声を合わせて、トランクを持ち上げる。
「なあ、ウェイルス。この荷物、なんか重くないか?」
「重いだぁ? こんなにでっかい荷物なんだから、中身も重いに決まってるだろ」
「そうか……そう言われてみりゃそうだな」
腕をフルフルと震わせながら、二人は列車に貨物を運び込む。
「なあ、ウェイルス。でもこの荷物、なんか音がしないか?」
「音がする? 気のせいだろ」
「そうか……そう言われてみりゃそうかもな」
実のところ、ラルフはかなり耳が効く。
カサコソと箱の中で鳴った音も、決して幻聴ではなかった。
しかし彼の難点を挙げるとすれば、あまりにも他人の言葉に流されやすいところだった。
荷物を全て移動し終えると、ちょうど列車が出発する時刻になった。
ゆっくりと車輪が回り始めて、列車が線路の上を進む。
こうして、王都行きの便は発進した。
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日が登った。
間も無く武闘会が始まる。
エリスは大樹の下で佇み、待ち人を探していた。
——誰かきた。
人影が遠くに見える。
ちょっと期待して、背伸びなんてしてみて、白髪の少年の姿を目で探る。
「まあ、居るわけないか……」
半ば諦めのようなため息を吐く。
待ち合わせの時間はとっくの前に過ぎた。
もう大会の開始時刻まで数分を切った。今来たところで、間に合いはしないだろう。
信じたくはない。
だけど、事実として、彼はここにいない。
彼は今日、ついに試練から逃げたのだ。
「期待してた私がバカだったのかな……」
座り込んで、大樹の根元に背を預ける。
五年間、ずっと諦めない姿を隣で見ていたからか、こうなることを想像すらしていなかった。
でも、きっと長い間蓄積してきたものが、限界に達したのだろう。
そうに違いない。普通そうなるものなのだ。
「もう、待てそうにないよ、レンジ……」
「——おや? そこにいるのはエリス嬢じゃないか」
聞き覚えのある声に、俯けていた顔を上げるとそこには金髪の美青年が居た。
「ライガー様……」
「いつも愚弟が世話になっている。今日も見た目麗しいよ、エリス嬢」
ライガーは跪いて、エリスと視線を合わせた。
「ライガー様は……武闘会へ急がなくて良いのですか?」
「俺は初戦を免除されているんだ。だから今暫く、君の側にいられるよ」
ちょうど道中で君を見つけられて幸運だ。
そんな調子の良いことを言って、ライガーが優しい声色で囁いた。
「——君は、レンジを待っているんだね?」
「はい、そうです……」
「でも、レンジはもう来ないよ。あいつは、逃げたんだ」
「やっぱり、そうだったんですね。通りで、待ってても来ないと思いました」
確信的なライガーの言葉に、エリスは肩を落とした。
「いいや、少し勘違いをしているかもしれない」
「勘違い、ですか……?」
エリスが疑問の表情を浮かべるのに対して、ライガーは力無く頭を振った。
「本当に、逃げ出したんだよ、あいつは」
「それは、一体どういう……」
「あいつは——家を出たんだ」
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