幻想使いの成り上がり

ないと

文字の大きさ
11 / 17

6 かくして彼は王都へ向かう①

しおりを挟む
「王都行き最終線、間も無く出発します——」

 汽笛の音が鳴った。

 使用人のウェイルスはいそいそともう一人の使用人、ラルフに話しかけた。

「まずいぜ、ラルフ。急がないと」

 余裕があると思って道草を食っていたら、駅に着くのがギリギリになってしまった。

 これではライガー様に不便をかけるだけでなく、ハルト様から懲戒処分されかねない。

「早く荷物を乗せるぞ」

 掛け声を合わせて、トランクを持ち上げる。

「なあ、ウェイルス。この荷物、なんか重くないか?」

「重いだぁ? こんなにでっかい荷物なんだから、中身も重いに決まってるだろ」

「そうか……そう言われてみりゃそうだな」

 腕をフルフルと震わせながら、二人は列車に貨物を運び込む。

「なあ、ウェイルス。でもこの荷物、なんか音がしないか?」

「音がする? 気のせいだろ」

「そうか……そう言われてみりゃそうかもな」

 実のところ、ラルフはかなり耳が効く。
 カサコソと箱の中で鳴った音も、決して幻聴ではなかった。

 しかし彼の難点を挙げるとすれば、あまりにも他人の言葉に流されやすいところだった。
 
 荷物を全て移動し終えると、ちょうど列車が出発する時刻になった。

 ゆっくりと車輪が回り始めて、列車が線路の上を進む。
 こうして、王都行きの便は発進した。

 =====

 日が登った。
 間も無く武闘会が始まる。

 エリスは大樹の下で佇み、待ち人を探していた。

 ——誰かきた。

 人影が遠くに見える。
 ちょっと期待して、背伸びなんてしてみて、白髪の少年の姿を目で探る。

「まあ、居るわけないか……」

 半ば諦めのようなため息を吐く。

 待ち合わせの時間はとっくの前に過ぎた。
 もう大会の開始時刻まで数分を切った。今来たところで、間に合いはしないだろう。

 信じたくはない。
 だけど、事実として、彼はここにいない。
 
 彼は今日、ついに試練から逃げたのだ。

「期待してた私がバカだったのかな……」

 座り込んで、大樹の根元に背を預ける。

 五年間、ずっと諦めない姿を隣で見ていたからか、こうなることを想像すらしていなかった。

 でも、きっと長い間蓄積してきたものが、限界に達したのだろう。
 そうに違いない。普通そうなるものなのだ。

「もう、待てそうにないよ、レンジ……」

「——おや? そこにいるのはエリス嬢じゃないか」

 聞き覚えのある声に、俯けていた顔を上げるとそこには金髪の美青年が居た。

「ライガー様……」

「いつも愚弟が世話になっている。今日も見た目麗しいよ、エリス嬢」

 ライガーは跪いて、エリスと視線を合わせた。

「ライガー様は……武闘会へ急がなくて良いのですか?」

「俺は初戦を免除されているんだ。だから今暫く、君の側にいられるよ」

 ちょうど道中で君を見つけられて幸運だ。
 そんな調子の良いことを言って、ライガーが優しい声色で囁いた。

「——君は、レンジを待っているんだね?」

「はい、そうです……」

「でも、レンジはもう来ないよ。あいつは、逃げたんだ」

「やっぱり、そうだったんですね。通りで、待ってても来ないと思いました」

 確信的なライガーの言葉に、エリスは肩を落とした。

「いいや、少し勘違いをしているかもしれない」

「勘違い、ですか……?」

 エリスが疑問の表情を浮かべるのに対して、ライガーは力無く頭を振った。

「本当に、逃げ出したんだよ、あいつは」

「それは、一体どういう……」

「あいつは——家を出たんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...