魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

文字の大きさ
3 / 25

2. 召集

しおりを挟む
 その翌日のことだった。ソルがいつものように水汲みを手伝っていると、見慣れない数人の騎士たちが、広場に馬を入れてやってきた。

 兵士達の鋼の鎧の中央にも、馬の鞍のタペストリーにも、輝く太陽の紋様があしらわれている———それは、間違いなく「陽光の国」の印。
 
「ん?王都からの使者か…?」

 と、おじさんが顔を上げ、周りの村人達もざわつき始める。

「いきなり、どうしたのかしら……」

「こんなところまでやって来るなんて、珍しいわね」

 その太陽の紋章を目にした瞬間、ソルの心臓がどきりと鳴った。

 15年前、父が戦場に赴いた、あの時のことが蘇る。あの日も、このように突然数人の使者達がやってきて、父に告げた。

『魔王軍が、南で不穏な動きを見せている。間もなく、大きな戦争が起こるだろう』

 王都から派遣された兵士達の言葉に、村人達はしんと静まり返った。

『国は兵士を集めている———そして何より、「陽光の印」を持つ者が必要だ』

 父の、オレンジの髪が微かに風に揺れるのを、少年ソルは見上げた。

『そうですか……』

 父は、あまり驚くことなく、そう呟いた。

 何か不穏な気配を感じたソルは、『父さん、』と声をかけようとしたが、父はその頭にポン、と優しく手を置いて言った。

『ソル。……父さんは、お前たちを、村を守ると誓った。陽光は、大地を照らすためにあるんだ』

 その瞳は優しかったが、その奥には固い意志が、まるで炎のように静かに燃えていた。使徒たちの話を聞いて、事態が深刻であることを悟った父は、やがて、招集に応じることを決めた。

 ソルと父は「いざという時のために」と、戦いの鍛錬をしていた。そして父は、太陽の光を自在に操ることができた。しかし、それを誇示することも、ソルに強制することもなかった。

 父は、翌日に出発した。最初はしきりに反対していた母も、父の固い意志を前に、引き留める術はなくなってしまった。見送りの際、母が微かに震えていたのを覚えている。

『ソル、お前の中にも太陽がある。決して、忘れるな』

 それが、父の最期の言葉になるとは思わず、少年は「うん!!」と元気に頷いた。

『お父さんは……光の勇者だ。アルヴィーンより、カッコいいよね!』

 馬に乗って、遠くなっていく父の背を見つめ、ソルは興奮して、母を振り返った。しかし母は、まだ小さな妹のルナを抱きかかえ、曖昧な顔をして『ええ、そうね』と微かに寂しげに微笑んだ。


「ソル・ルークはいるか」

 遣いの者の1人が、馬に乗ったままザッと辺りを見渡し、ソルに視線を留めた。

「……お前か」

 その燃えるようなオレンジの髪と瞳は、よく目立つ。それは太陽からの恩恵であり、力を秘めている者の象徴。

 しかし、ソルは反射的に俯いた。

 彼らがこんな片田舎までわざわざ赴いたのは、あの「ヴァン・ルーク」の息子、すなわち自分を探しに来たためだろう。

(でも、俺には、力がない。父のような者を、彼らが期待していたとしても……)

「ソル・ルークは俺です」

 ソルはやがて顔を上げて言ったが、その声には張りがなかった。

「王都で、何かあったんですか」

 問うと、兵士の1人が堅い口調で答える。

「ああ。大々的な戦争を未然に防ぐため、魔王討伐の令が国中に出ている。先代の魔王の力は衰えたが、最近になって、若い魔王が玉座についたと、偵察から報告が入った」

 周囲の村人たちが、ざわついた。皆の顔に、不安がよぎる。

 『闇の淵』———それは「陽光の国」の南に広がる、闇の領土。あらゆる邪悪な魔族と魔物が巣食う、深い霧と険しい山々に覆われた、果てしない深淵。

 それは「陽光の大地」にとっての、長年の脅威となっていた。魔族の根絶のため、王都は各所から勇者や屈強な戦士、討伐パーティを集めているのだ。

「あのヴァン・ルークのような、『陽光の勇者』が必要だ」

 騎士が、ソルを真っ直ぐに見つめ、王からの命令を告げるように言う。しかし、ソルは微かに唇を噛んだ。

 守りたい。国を、大事な人々を。小さい頃から、ずっと憧れてきた。かっこいい勇者になって、魔王を討伐すること。父のように、あの大きな背中を追いかけて——————

「ソル兄!」

 今しがた村に帰ってきたルナが、使者たちを見て、何かを察したように走り寄った。

「国からの、招集……?」

 ルナはあの頃まだ幼かったが、父の時と同じく、何か異様な空気を察したのだろう。

 ソルは静かに、無言で頷いた。国が自分を必要としているのは嬉しい事だというのに、父のように、すぐに応じられない自分が悔しかった。

 その夜、兵士たちはソルの返事を待つために、宿へ泊まった。しかし、彼らの期待は明らかだった。




「ねえソル兄、あたしの占いは当たるよ」

 夜、ルナがカードを持って部屋へやってくる。一見脈絡がないように思えたが、ソルにもわかっていた。昼間のこと……今回の召集のことを言っているのだろう。

「ああ、知ってる。お前は月の力をよく扱える」

 ソルは、父から受け継いだ剣を前に静かに座りながら、呟くように返す。

「でもね、占いには、凶は出なかった」

 ルナははっきりとした口調で言った。

「お兄ちゃんの運命を変える。でも、決して悪いことじゃない」

 ソルはそれを聞いて、ふっと笑う。

「……そうか」

「知ってるよ。お兄ちゃんが、本当は行きたがってるの」

 妹には、なんでもお見通しだったらしい。

 母は、ソルを止めなかった。母もきっと、妹と同じことを思っていたのだろう、彼女は夕食の席で、静かにソルを見つめて言った。

「貴方が、『呼ばれている』と感じるなら—————それに従いなさい」

 子どもの時、あの物語を聞かせてくれた、優しい母の微笑みで。

「母さんは、ルナも、貴方のことも信じてる。『アルヴィーンよりカッコいい、陽光の勇者』になりたいなら、私はあなたを止めない」

 夜の静けさの中、ソルは1人ベッドの上で天井を見つめていた。

「『陽光の勇者』、か……」

 新たな魔王は、すでに魔物を招集し、不穏な動きを見せていると聞いた。父さんが戦った、あの戦争。彼らがあそこで引き留めなければ、魔物は各地を徘徊し、とうに王都への侵略を始めていただろう。

 村を、家族を守りたい。俺に、もしできるなら。

「いや……やるんだ。俺が」

 そんな呟きが、夜の闇に響く。その声にはもう、迷いはなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...