魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

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5. 対峙

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「って…ダンジョンあるとか聞いてねえよ!!」

 ソルは連日、闇の森を歩き通し、時々出会う低級な魔物に体力を消費したせいで、ゼイゼイ荒い息を吐きながら叫んだ。

「まじか…迷路の森の次は、カラクリ屋敷とか…ダンジョン攻略はしてきてなかったな」

 疲労が身体を襲う。ヒーラーを連れて来たほうがよかったか?と一瞬そんな迷いがよぎるが、「いや、」と首を振る。

「決めたんだよ、俺は、魔王と正々堂々対峙する—————まあ、相手が言葉通じる奴だったらな」

 ふぅー、っと長い息を吐きながら、森を抜けたところで腰を下ろし、持って来た乾物を齧る。少しの体力回復アイテムだ。

「太陽の魔法、あればよかったな———」

 と言っても、闇の領土ではどちらにしろ太陽の光は届かないため、存分に力を発揮できないが。そんなことをぼやきながら、灰色の空を見上げていた時だった。

 突然、空に数人の影が現れ、頭上を覆った。それは明らかな殺意を持って、空中から切り掛かってくる。

「っ—————!」

 反射で避けながら、相手を確認する。今までの魔物とは様子が違い、人型で鎧と武器を持っていた。

 素早く襲ってきた鋭い剣を、ソルは陽光の剣で受け止める。思ったより重い一撃に、反動で後ろに飛ばされたところ、別の影に背後を取られた。が、ソルは瞬時に身を屈めると同時に、素早く剣を横に切り裂いた。

「ぐわあッ!!」

 人型の魔族はを声を上げ、傷を抑えてよろけていた。それを見て、ソルはかすかに眉を寄せる。今までの魔物なら、塵となって一瞬で消えていたからだ。

「チッ…!」

 別の影が忌々しそうに低く舌打ちする声が聞こえた。ソルは気を抜かずに、地を蹴って真っ直ぐに突っ込む。剣が激しくかち合った。灰色の肌をしたその人型の魔物は、一瞬大きな魔力を放出し、動きが数段鋭くなる。

(何だ、いきなり強くなった…?)

「消えろ、虫けら勇者!アルガ様の魔力をなめるな!!」

(喋った————)

 獣の咆哮と唸り声に慣れていた故に、ソルは一瞬驚いたが、すぐに体制を整えて応戦する。

 ———数分後。「魔族を滅ぼす」というソルの固い意志と、重ねてきた鍛錬により、数分後には4人の魔族達は蹴散らされていた。

「……はぁ、はぁ」

 肩を大きく上下させ、呼吸をなんとか整えながらも、地面に力なくのびた4人の魔物達を見下ろす。

 早く魔王を倒さなければ。

 ソルは、これ以上の奇襲を受けないためにも、逃げるようにダンジョンの薄暗い迷路の中へと入っていった——————



「うーん。まじでカラクリ屋敷?」

 幼い頃から野山を駆け巡り、森の中で遊んでいたソルにとって、ダンジョンはかなり肩透かしであった。時々抜け落ちる床や飛んでくる鉄球は、養ってきた瞬発力で、軽々と避けていく。

「つーか、このダンジョン、だいぶガタ来てねえか?」

 進むにつれ、難易度が上がるかと思ったが、なぜかカラクリが軋んでいて機能を成していない。

「魔王さん、修復ぐらいしろよな。いや、そこまで頭が回らないのか?」

 そんな独り言を呟きながらも、ついに最深部に辿り着く。禍々しい気配が近づいた。ソルにもわかっていた、もうすぐ、ボスとの対峙がやってくると。




 ——————並々ならぬエネルギーが近づいてくるのに、アルガの白く尖った耳がピクリと反応した。

 じわり、と手に汗が滲む。

 (本当に、ここまで来たのか…?)

 いや大丈夫だ。今までの血の滲むような鍛錬で、魔力と戦闘力は十分に上げてきた。勇者はすでに体力を消耗しているはず。

 そう自分に言い聞かせながらも、門番から何の報告も入らないことが気にかかっていた。それどころか、彼らの気配を感じられない。まさか……

 玉座から立ちあがろうとした途端、くらりと眩暈がした。さっき、あの門番らに魔力を与えすぎたためだ。残されている力は、僅かしかない。

 いや、ここで引き下がるわけにはいかない。勇者を迎え撃ち、息の根を止める。それが、父さんの期待に応えること。俺が俺でいられる、唯一の方法—————!

「魔、王……?」

 その時だった。王の間の入り口から、ふと声が聞こえてきた。

 思わず見上げて、身を固まらせた。

 1番恐れていたものが、そこにいる。隆々とした筋肉に逞しい身体、燃えるようなオレンジの髪と、炎を宿したような瞳。それを見た瞬間、すぐにわかった。『陽光の印』を持った者だ。

 『フ…フハハハハハ!!ようく辿り着いたな、勇者め』—————と、父さんは力を誇示するためにそう高笑いをしろとか言ってたけど……そんな恥ずかしいことできるかよ!!

 逆に弱く見えるだろ、ここはとりあえず冷たく睨んで、怯え上がらせるのがきっと最善だ。

 アルガはそう考えて、眩暈を抑えながら玉座に座り直した。相手を突き刺すように睨み、嘲笑うかのように見下ろす。

「……勇者か」

 冷たい空間に、静かな声が反響した。勇者は、こちらをじっと見つめる。表情から、感情が読み取れない。



 (これが、魔王…?)

 ソルは、剣を持つ手を一瞬緩めてしまった。想像していたものとはかけ離れていた。

 確かに彼は、漆黒のローブに身を包み、邪悪な気配を放っていた。黒光りする小さな 巻き角、尖った耳は禍々しく、明らかに人間のものではない。でも—————

 美しい。

 ソルの中に、思いもよらぬ感情が湧き上がっていた。

 艶めくアメジスト色の瞳が、暗闇から真っ直ぐにこちらを射抜く。透き通るような白い肌に、どこか儚げに揺れる、柔らかな黒髪。中性的な顔立ちのせいか少し幼く見えるが、その冷たく高貴な姿は「王族」の風格を漂わせている。

(獣の親玉でも、悪の怪物でもねぇじゃん……)

「ここまで来たことを褒めてやろう」

 その若い魔王は、低く威圧するように言った。冷静な響きだが……どこか、装っているようにも見える。

「つーか…」

 気づくと、ソルは声を漏らしていた。

「あのダンジョン、めっちゃ古くなってたぞ」

 辿ってきた方を指しながら真顔で言うと、相手もポカンとする。

「……は?」

「あれ修復した方がいいんじゃねえの。ほぼダンジョンの機能失ってる」

「なっ…!そ、それは、」

 魔王はガタリと玉座から立ち上がり、どこか狼狽えたような表情になる。

「余計な世話だ!!」

 そう吐き捨てたが、先ほどまでの余裕を失っているように見える。なぜか、村の少年達を思い出させた。生意気で、強がりで、しかし成長まっさかりの少年。

 (全然話通じるじゃん。みんなが言うような、獣じゃない)

 そのせいだろうか、先ほどまでの緊張がなぜか薄れていく。

「あー、まあそうだな、余計な世話かもな」

 微妙な苦笑いを浮かべていると、鋭く低い声が返ってきた。

「戯言を。今すぐ消してやる」

 そんな低い声が聞こえた刹那、目の前の魔王が視界から消えていた。驚いたのも束の間、すぐそばでヒュン、と空気を切り裂く音がした。

「え……」

 (速い———-!)

 あの4人の刺客とは、比べ物にならない。見えない攻撃を避けるように、咄嗟に飛び退く。

 ガラガラッ、と鼓膜を突く衝撃音に、思わず目を見開いた。その若い魔王の指先は、いつの間にか黒く変色し、鋭い爪が伸びていた。それは、自分の背後にあった壁を鋭く打ち砕いている。

 (なんだあれ……)
 
 速さだけでなく、威力も強い。あの爪にやられたら、一溜りもない。

「へえ?」

 彼は少し眉を上げて、自らの血が滲んだ爪を軽く舐める。

「まあ、どうりで、ここまで来れた訳だ……」

 どうやら、自傷も厭わずにあの斬撃を繰り出したらしい。冷酷な眼差しと、不適な笑み。血に濡れるその姿は、やはり邪悪だった。

「っ......ナメんなっての!」

 ソルは即座に切り掛かかった。まだ体力は残っている。やっとここまで辿り着いたのだ。この魔王を前にして、屈してたまるか———迷いを捨てて向かっていったが、相手は軽々しく避けていた。それどころか、間髪入れずに次の斬撃を繰り出してくる。

 避けたはずだったが、それは頬を切り裂いた。ヒリつく痛みとともに、血が滲んでいくのがわかる。

「諦めろ、今すぐ消えれば見逃してやる」

「わざわざ消えるために……ここまで来てねえよ!」

 ガツン、と大きな音を立て両者の爪と剣がかち合い、玉座の間の空気が揺れる。

「脳筋か……主人公気取りが」

「勇者が主人公気取って悪いかよ」

 ソルはニヤリと笑い、アルガはそれを冷たく睨んだ。お互いに互角の力を感じながらも、どちらも引き下がらない。

 ———————憧れの、勇者になるために。
 ———————父が望んだ、魔王になるために。

 両者の希望と切望が、火花を散らせた。

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