魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

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6. 英雄譚

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「ってゆうか、お前、普通に喋れるんだな」

 ソルは、いくつかの魔力の斬撃を喰らい、腕から血を流しながらも、ペッと血の混じった唾を吐き出してそう漏らした。

「何を言っている……」

 アルガの方も、ソルの光の剣に焼かれ、傷を負いながら、息を荒くして相手を睨む。

「魔族ってもっとこう、話通じないっつーか、ただの獣だと……」

「ナメるな、傲慢な光気取りが!」

 相手が飛びかかってくる。武器こそ持っていないが、近距離では鋭い爪、間合いがあけば素早い魔弾。二つを器用に使い分けた戦法は、むしろ人間より洗練されていて無駄な動きがない。

「でも、お前も、あの門番たちも......まるで人間みたいだ。闇の森にいた獣は、ただ、っ咆哮するだけ————で」

 飛んできた漆黒の魔の玉を剣で打ち砕きながら、ソルは尚も相手をまっすぐ見つめようとした。

「あれは、闇の瘴気に当てられたただの森の獣だ!とうに肉体の限界を超えて......彷徨っているだけの抜け殻だ!」

 アルガはそう激しく怒鳴り、間合いを詰めてくる。

(そう、だったのか————?)

 一瞬動きを止めるソルに、アルガは容赦無く畳み掛けてくる。

「どうせ、俺たちは動物以下と教わってきたのだろう、人の心もなく、ただ排除するべき虫けらと……!!」

 鋭い斬撃の狭間に、どこか悲しい憎しみが滲む。間近に迫った綺麗な瞳が、怒りに青白く燃えるのを見て、ソルは息を呑んだ。

「うぐッ————!」

 一瞬気を取られた隙。強い斬撃が襲い、咄嗟に防御をしたが受けきれず、ソルは背後の壁に叩きつけられた。
 なんとか体勢を立て直そうとしたのも束の間、闇の王はすぐ目前に迫っており、冷たくソルを見下ろしていた。

 ヴン、と両手のひらに、新たな弾が作られた。それは威圧するように激しく放電していき、空気がピリつく。

「帰って、お偉いさん共に伝えるか?蛮族が言葉を知っていたと」

 鋭い皮肉だったが、ソルは違和感を感じていた。

「お前、さ————」

 背と胸の痛みを抑えながらも、ソルは彼を見上げる。

「さっきから、俺を帰らせようとしてるよな」

 その言葉に、アルガはピクリと眉を寄せる。両手の魔弾は、未だソルを撃ち抜いておらず、ただ脅しのように、弾ける寸前で止められている。

「血も涙もない冷徹な魔王なら、とっくに俺を殺してるだろ……隙はいくらでもあった」

 真っ直ぐな炎の瞳に射抜かれ、アルガは一瞬、言葉を失った。

 (何を言ってる。俺は全力で戦っている。こいつを倒さなければ、俺が父さんに殺される)

 しかし、そんなアルガの思考を打ち消すように、ソルの言葉が響いていた。

「お前、実は、『優しい』んだろ」

 微かに緩められた表情。揶揄いや皮肉でもない、なぜか素直でまっすぐな言葉に、アルガは両手に込めていた力を、ふと無意識に弱めていた。

「何を、ふざけたことを……」

「さっきから躊躇ってる。きっと、お前は俺を殺せない」

「黙れ!!」

 アルガは鋭く怒鳴り、魔弾を打ち消したかと思うと、勢いよくソルの胸元を掴み迫った。脅すように、そして彼を否定するように力を込める。が、相手はただ弱々しく笑うだけだ。

「……でも、震えてんじゃん」

 アルガの手首に、その大きな温かい手が重なる。ビクリと反応するアルガに構わず、ソルは続けた。

「母さんがさ、英雄アルヴィーンの話をよく聞かせてくれた—————『めでたし、めでたし』で終わったけど、俺にはそう思えなかった」

 突然訳のわからないことを口走る勇者に、アルガは再び彼を睨んだ。

「アルヴィーン……曽祖父を、殺した奴だ」

 父から伝えられた「負け犬」の物語が蘇り、憎しみが湧いてくる。その爪を立て、今度こそソルの首元を狙って、大きく振りかぶった時だった。

 ソルはその細い手首をグッと掴み、勢いをつけて突き飛ばす。

 いつの間にか、体制は逆転していた。今度は、ソルが光の剣を、アルガの青白い首のすぐ先に突き当てる。

「卑怯な勇者ども———......!」

 その時、吠えるように喚いたアルガの言葉が続かなくなった。彼は、突然力を失ったようにぐらりと揺れたかと思うと、ドサリと音を立てて床に倒れていたのだ。

「っ……!?」

 アルガの、限界だった。もう魔力はとっくに尽きていたのに、無理に戦っていたのだ。ほぼ、執念だけで。

(クソ......何で今、ここにきて......!)

 愕然としながらも、身体は言うことを聞かない。全身が鉛のように重くなり、手足が震え始めた。今まで気にしていなかったが、息はとうに絶え絶えだった。

(い、嫌だ……死にたくない!こんなところで、負けたくない。父はこんなの、許さない。動けよ、動けよ俺の身体!)

 そんな叫びも、声にならない。アルガはぼうっとする意識のなかで、力なく、目の前の勇者を見上げた。彼は無言でアルガを見下ろしており、表情は読み取れない。

 アルガは悟った。もう勝負はついてる。短く激しい戦いだったが、やはり最後に、勇者は勝つのだ。彼らが陽光の国で語る、「英雄譚」のごとく。

 どうにもならない悔しさに、歯軋りをした。もう一歩早く、こいつを切り裂いていれば———

(本当に、俺はどこまでも弱い……)

 父にも弟にも届かない。魔力の配分もできず、重要な時にトドメも刺せず。部下に弄ばれ、魔王の矜持なんて欠片もなく———

「ころ、せ……よ」

 アルガの口から、そんな弱々しい声が漏れた。涙が滲み頬を伝っていく。

「早く、……っ殺せよ。もう……とっくに尽きてんだよ……」

「ああ、俺の勝ちだ」

 ソルの言葉に抑揚はなく、終わりを告げるようで、それは冷たい空気とともにアルガの心を刺した。

 ……いや、父さんに殺されるよりかはましだろうか?いっそ一思いにやってくれたら、俺はこの苦しみから解放される……

「でもさ、これは『めでたし、めでたし』とは言えねえ」

 そんな不可解な言葉が落ちる。が、その意味を考えるより、このまま暗闇に落ちていったほうが楽に思えた。霞む視界の中、アルガはふと諦めたように瞼を閉じる。

「だってお前、『助けて』って顔してる」

 アルガが最後に聞いたのは、そんな言葉だった。しかしそれも、意識と共に闇に呑み込まれていった。

 

 
 
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