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12. 悪砂糖【R18】
しおりを挟むチュン、チュン…….
爽やかな小鳥の声と、暖かい朝の陽光が瞼に落ち——————ることはないが、魔鳥の「キェーーークワァーー」という奇声とともに、『闇の淵』の朝は明ける。しかし、なぜかそれさえも、日常の安心感を感じさせた。
少し重い瞼を薄っすらと開け、柔らかいベッドに沈む身体を感じる。
アルガは、しばらくぼーっとしていたが、ふと、自分が何も纏っていないことに気づき、慌てて起き上がる。
昨日のことが鮮明に蘇り、途端、ブワッと顔が火照るのを感じる。
ま、待て待て、俺は……
冷静になればなるほど、事態の異常さに困惑する。
1週間前、オレンジ髪の勇者がたった一人で魔王城へやってきた。俺を討伐するために。でも、俺は敗れた。魔力が尽きて、倒れて……気づくと、あいつに介抱されていた。
体力が戻って、また襲い掛かろうとしたが、いとも簡単にねじ伏せられた。
あいつにとって、弱っている俺を殺すことなんて容易いし、いつでもタイミングはあった。でも、あいつは一向に俺を倒さないばかりか、反対に、興味を持たれている気がする。
いや、興味だけではない。好意、あるいは、欲情さえ—————
勇者に、キスされた?敵である、倒すべきはずの相手に、されたこともない甘いキスで溶かされて、身体が火照り……俺の、限界まで熱くなったところを手で解放してくれた。その時の痺れるような感覚、今もずっと身体に残っている。
「あ、ありえ、ない……」
勇者に敗れたどころか、愛撫されて手でイかされるなんて——————こんな、屈辱。
思わず、自分の身体を両手で抱えた。
っていうか、あいつはどこに?ソルの姿がないことに気づいたその時、ガチャリ、と部屋の扉が開いた。
「あ……おはよ」
なぜか、片手にマグカップを持っている。ふわりと湯気が立ち昇り、甘い匂いが鼻をくすぐる。
ソルは起き抜けのアルガを見つめて、ふと動きを止めた。
真っ白なベッドの上、たった今咲いた可憐な花のように滑らかな裸体。細い両手で自分を抱き抱え、少し乱れた黒髪と、困惑したような瞳でこちらを見つめる、悪魔のような天使。
「……お前、なんか、何してもエロいな?」
そんな姿に、ふとそう呟いていた。ソルは、思ったことは口をついて出てくるタイプだ。
「っ…は!?」
アルガは途端に大声を出して、顔を真っ赤にしながら、シーツを手繰り寄せて自分の身体を隠す。
やばい、顔が見れない。昨日のこと、どう思ってんだよ—————
「ほら、これ。 悪砂糖の、『地獄ココア』。……つーか、魔界の砂糖、おかしいだろ。ネーミングもやばい」
アルガの耳がぴくりと反応する。それは漆黒の、暴力的に甘いココア————アルガの大好物。
「ミレーナに聞いたんだ。お前が好きだって」
ソルは言いながら、アルガに近づいて、その白いマグカップを差し出した。大好きな甘ったるい香りに、つい唆られてしまって、気づけばそれを受け取ってしまっていた。
「いや、よくこんなん飲めるよな。一口で虫歯になりそう」
一口飲んで、ほっと息をついていたら、それを見守っていたソルの言葉がかかる。しかし、そんな呆れた言葉とは裏腹に、どこか愛おしそうに見つめられる。
「でも、お前の好きなもの、また一つ知れた」
無邪気な笑顔に、心臓がキュッとなった。落ち着かない、やめろ、その笑顔、甘すぎんだよ。悪砂糖よりフワフワして、変になる。
「昨日はごめんな」
「は?」
「いや、俺つい感情で突っ走るとこあるから」
何なんだ、こいつは。情熱的に迫ってきて、散々乱れさせたと思ったら、すぐに一歩引いて曖昧な顔をする。
「き、昨日……お前は何で」
なんで、あんなふうにキスしたんだ、と言いたかったが、言葉が出てこない。揶揄いでも、罰でも、ただ力や快楽を求めるものでもない、キス。
「お前見てるとさ、なんか曖昧になっていくんだ————善悪とか、魔族とか人間とか、どうでもよくなる。ただ、ずっと見つめて、触れたくて」
またあの瞳だ。純粋なのに、どこか熱がこもっている。しかし、そこには微かな困惑も見えた。
「こんな気持ちになったことねえから、よくわかんない。でも、昨日お前が汚されてるのを見て、自分でもわかんないほど、苛ついたし、頭に来た」
アルガが何も言えずに黙っていると、ソルは真顔で顔をあげた。
「ミレーナが言うには、これ『恋』だってさ。お前どう思う?」
「はあ??俺に聞くな阿保!」
馬鹿かこいつは。馬鹿なのか?
「いやまさか魔王に恋するとは自分でも思ってなかったし。つーか数日前は殺し合ってたんだぞ俺たち」
「同意だ!なんで殺すべき敵に、こ、こ、恋……とか」
「んー、でも、昨日のアルガ、可愛かったな」
ちらりと見つめるソルに、アルガは赤くなるのを隠すように怒鳴った。
「ふざけんなっ!!俺は魔王だ、可愛いなど————」
「でもお前、触れていいって言ったじゃん」
言葉を遮られる。意地悪な笑み。
「気持ちよさそうに善がってさ」
「黙れ黙れだまれッ!って、あっつ———」
勢いよく否定した反動で、カップに並々と注がれていた熱いココアが溢れ、アルガの肌とシーツに漆黒の液体が飛び散った。
「ったく、何やってんだよ」
ソルがすぐに立ち上がり、マグカップを取り上げ、シーツの端で身体を拭う。
「火傷は?」
「魔族がこんなもので火傷するか」
と、その時。お互いの顔が近くなった。どきりと、また心臓が鳴る。
昨日、自分を見つめていた熱情的な瞳を思い出してしまう。このオレンジの燃えるような瞳に見つめられると、何もかもが崩れていく気がして、怖くなる。でも同時に、その光に触れたくて、温かい手を求めたくなってしまう。
この矛盾が、何よりもアルガを落ち着かなくさせる。
と、ソルは、そこでなぜか唆られたような瞳でアルガを覗き込んだ。
「お前、甘い匂いしすぎ……」
何か言い返す暇もなく、ソルは我慢ならなくなったように、少し屈むと、まるで犬のように、アルガの肌に溢れたココアを、ペロリと舐め上げた。
「ふ、ぁ……っ!?」
思わず声が漏れてしまう。抵抗する間もなく、その大きな手が、グッと背中を引き寄せ、ぴたりと距離が近くなる。
「ちょっ、離せ————」
「ん、甘い」
舌舐めずりをして、くぐもった声が聞こえる。ソルの肩を押し戻すようにするが、その抵抗は弱々しくなっていく。
「や、やめっ…、あッ」
ぴちゃ、じゅる、といういやらしい水音。まるでアルガの身体を丁寧に、綺麗に舐め上げるように。
「ソ、ルッ…ッ♡」
ソルは、さらに背中を引き寄せて、ちゅ、ちゅ、とお腹あたりから口付けを落として這い上がり、それはすでに、敏感になった胸の先端に辿り着いて、舌を絡ませる。
「ひっ、ぁ……!♡」
そんな恥ずかしい声を抑えたくて、手の甲で口を抑える。上半身の震えが収まらない。
「声、もっと出せよ」
「なに言って———-んあ、あ、やだそれ…」
敏感になった突起を舌で包まれてから、不意に甘噛みされる。
「ぅあッ!」
ジン、と鋭い快感が身体を走り、身体が跳ねた。すでに下半身は熱く、がくがくと震え始める。
「やっ、噛むの……ダメッ、おかしくなッ…る」
襲いくる快感から逃れようと身体を捩るが、ソルの舌はいろんなところを、いろんな動きで攻めあげる。
「それ、好きって言ってるようにしか聞こえないんだけど」
「ちがっ……」
「まさか最恐の魔王が、こんなに可愛くてエロいなんて————いつでも襲いたくなるんだけど」
そんな言葉に、ひどい羞恥に苛まれるが、反対に身体は素直になっていく。ソルの舌と指に乱されて声も抑えられず。
これは、俺が、淫魔の血を受け継いでいるからなのか?それとも—————……
そんな戸惑いはしかし、甘い地獄ココアの香りとソルの愛撫に包まれて、やがて溶けていった。
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