魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

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13. テーブル

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「………」

 朝食は、いつもミレーナが用意してくれ、一緒にテーブルにつく。

 魔王城には元々、従者や使い魔が少なかった。先の戦争で魔族自体が減ったこともあり、全盛期と比べればひっそりとしている。

 ————母が人間界に行ったきり、行方不明になったのは70年ほど前。アルガが100歳、人間でいえば、14歳くらいだろうか————の時だった。

 『貧弱な淫魔め、きっとすでに討伐されているのだろう』と父は冷たく言い、大して気にしなかった。

 しかしつい30年ほど前、城の前で行き倒れていた淫魔ミレーナを保護してからというもの、彼女は「母代わり」となって、この城とアルガを世話していた。

「フフ……♡」

 そしてさっきから、ミレーナは温かく見守るような、意味ありげな眼差しでアルガを見つめており、居心地の悪くなったアルガは低く問う。

「何だ」

「いえ。アルガ様のお肌、今日はツヤツヤして、とてもスッキリしているように見えますわ♡」

「……?」

「きっとソルくんにトロトロに溶かされて、何度も絶頂に達して————」

「なっ、ミレーナ!!!」

 アルガはガタリと席を立って真っ赤になりながらそれを制す。

「いやあ~淫魔ってマジで、恥ずかしげもなく卑猥なこと言うのな」

 ソルがもぐもぐとパンを齧りながら、ミレーナの隣で呟く。

「そしてなぜお前が当然のようにここで食事を取っている!!」

「えー、城の家事手伝ってんだから食事くらい工面してくれよ。ギブアンドテイク、だろ?」

 ソルはそう言って片目を瞑ると、まるで当たり前のようにスープを啜る。

「そうですわよアルガ様、ソルくんが来てから、お料理も手伝ってくれるし、城の隅々までピッカピカ、まるで今のアルガ様のお肌のように—————」

「あ、そうだ。あとダンジョン修理しといた!」

「勝手に修理すな!!」

「ソルくんリフォームのダンジョン、さいっこう♡ まるで勇者たちをじわじわと虐めて罠に落としてくドS設計で~、あたし、あそこに待機して精気吸いつくしたいくら~い♡」

「え、そんなドSにしたつもりないんだけど」

「無自覚ドS~~?ソルくんのポテンシャル、底なし♡」

「勇者が勇者虐めんなアホか!」

「俺いっつも村で便利屋やってたからさ、なんかやることないと落ち着かねえんだよ」

「だからって阻むか!この城のことは放っておいてくれ!」

「でも、留守中にこの城が綺麗に立派になってたら、父さんちょっとは見直してくれんじゃない?」

 ——————そこでアルガは、ゴクリと息を呑んだ。父さんは、あと10日もしないうちに、目覚めるだろう。その証拠に、城の地下から魔力が漂ってくるのを感じる。

「お前は、何一つわかっていない」

 アルガは重い声で言った。父さんが目覚めたら、その時は……

「勇者に敗れた挙句、そいつに面倒見られてるなんて。きっと殺されるどころじゃ済まない」

 父の逆鱗、それから自分への仕打ちを想像すると、自然と手が震え始める。

「アルガ……」

 それを見て、ソルはふと真剣な顔になった。

「お前の父ちゃんが、怖そうなのは知ってる。お前が恐れてるのも。でも、お前は俺が守る」

「何言って……」

「日々、鍛錬してるんだ。真の魔王と対峙するために」

「お前は、俺が真の魔王じゃないと言いたいのか!」

 アルガの瞳に怒りが滲み、ガツン、とテーブルにフォークが突き刺される。地位と存在そのものを否定される、それはただ倒されるより何倍も屈辱的だ。こいつはやっぱり、最初から俺を見下して辱めて——————

「違う、俺は、お前の方が魔王にふさわしいと思ってる」

「……?」

「独りよがりの独裁者なんて、結局すぐ滅びる。お前の方がよっぽど気を配れるし、それに十分な魔力もある。気付いてないだけだ」

 ソルの言葉は真剣で、アルガを信じているような瞳だった。

「……戯言を吐かすな。俺は父さんに勝てない」
 
「俺もさ、今までずっと思い込んでた。俺は父さんのように太陽の力を、光の魔法を使えないって。やっぱり才能がないんだって、諦めてた。でも————」

 ソルはかちゃりと静かにスプーンを置き、ふと自分の手を見つめる。

「あの時、お前が襲われてるのを見た時、一瞬感じたんだ。身体に炎みたいな光が宿って、無意識にそれを放ってた」

 それを聞いて、「あの時」のことが思い出される。そうだ……あの門番たちは、閃光みたいな強い光に焼き尽くされて跡形もなく消えた。普通なら、中級魔族が一瞬で焼失することなどないのに。

「自分の能力なんて、意外と、自分が思ってるよりあるのかもしんねえじゃん」

 ソルは微かに口の端を上げて言う。しかし、アルガは目を細めた。

「……俺が、強くなれると言いたいのか。もしそうなったとしたら、お前を真っ先に倒すかもしれないんだぞ」

「そんときは俺も全力で迎え撃つ。……それか、うーん、お前の弱いとこ全部撫でて骨抜きにするとか?」

「きゃああん♡ やっぱりソルくん、ドSの才覚あるうう」

「うるっさい黙れ!!!俺はそんなのには屈しないぞ!」

「とか言って、ベッドの上では……」

「ああああ!!貴様はさっさと食ってトレーニングでも何でもしてこいっつの、目障りだ!!!」

「え、応援してくれんの?」

「してない!父さんを倒すなら、今のお前の力なんかじゃ到底及ばないと言っている」

 アルガは言い放ってから、ふと視線を逸らした。————おかしい、俺はなぜこんな奴のことを心配してるんだ?ソルが来てから、確かに城は居心地が良くなった。しれっと世話をしてくれることに、いつの間にか安心さえしている。

「……お前に死なれたら、ミレーナの飯が不味くなって城が埃だらけになるから面倒だ」

「アルガお前……俺に求婚してんのか?」

「何でそうなる!?」

「だって、俺の味噌汁を毎日食いたいって」

「言ってねえよ!」

「あら~~~ん!淫魔特性の錬金術で、媚薬入りの束縛指輪、作っちゃうわよ♡」

「作るな!」

「へえ、そんなの出来んの?」

「興味そそられるな!」

 
 —————朝食の席は、それまでと違って、うるさかった。ミレーナ、ソル、自分。3人でテーブルを囲むのが、心なしか、楽しいとさえ思う。

 しかしアルガはそんな微かな温もりから目を背けるように、スープを飲み干した。


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