魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

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14. 衝突

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 それから数日後のことだったろうか。

 その夜は、なぜか霧がいつも以上に濃く、木々がザワザワと不穏な音を立ててザワついていた。ギャー、グギャー!と魔夜烏が鳴くのはいつものことだったが
アルガは謂れのない不安に苛まれていた。

 そんな時だった。

 不安が現実となるように、カーテンがふわりと、揺れる。瞬間、辺りに、押しつぶされそうな程の邪悪な魔力が充満し、アルガはハッとして身を起こし、いつの間にか開け放たれている窓を見やる。

「ち、父上……!」

 その禍々しい漆黒の姿を見た瞬間、アルガは反射的に、床に膝をついた。

 何で突然、いつの間にお目覚めになって—————

 アルガの父であり先代魔王、カイザール=ルシフェル=ノクターンは、そんなアルガを静かに見下ろして、ゆっくりと寝室の床に降り立った。ベッド横のテーブルに、ソルがいつの間にか飾ってくれていた白い闇スズランの花が、みるみるうちに枯れていく。死の気配、そして、真の闇の重さ。

 無言の圧が、何よりも恐ろしかった。ソルは、アルガの寝室から離れたところで寝泊まりしている。

 まだ、気づかれていないのか?勇者がここへ来たことは、把握しているのか?でもわかっているなら、問答無用で殺されているはず……

「久しいな、息子アルガよ」

 父の声が、嫌に穏やかで、それがむしろ不気味に思えた。アルガはその顔を見上げることもできずに、小さく震える声で返事をする。

「はい……。よく、戻られました、父上」

「それにしても————城が、些か変わっておる」

 どきりと心臓がなる。ソルは、城をきれいにしてくれたが、それは逆に、父の疑念を誘ったようだ。

「そ、そんなことは……」

 顔を上げると、父の、真紅の血のような瞳がアルガを射抜く。それを見るだけで、全ての獣は本能的に跪くか、怯えて逃げ出す。

「何か奇妙な違和感を感じるのだ」

 父の低い言葉は、既に疑いに滲んでいる。いつまでも隠し通せない、多かれ少なかれ、ソルも自分もすぐに、粛清される運命—————

「貴様、何か隠しておるな?」

 父は言いながら、カツ、と音を立てて近づき、いきなりアルガの細い首を掴むと、そのまま自分の顔の前まで持ち上げた。

「っ———!ち、父上…」

 その冷たい片手は裕にアルガの首を締め付け、じわじわと力が込められる。床からつま先が浮き、その圧迫に呼吸が苦しくなっていく。

「ちが、い……ます、あれはミレーナが————!」

「嘘をつけばさらに酷いことになると知っているだろう」

「うっ……んぐ」

 父の脅迫————いや、それはただの前触れだった。ゴクリと息を呑みながら、その冷たい手から逃れようと、必死に抗うが、父は首を掴んでいた手を乱暴に離し、アルガを壁に突き飛ばした。

 ガシャン!!と大きな衝撃音が響き、打ちつけられた背中の痛みに全身が震える。

「ガハッ…」

 眩暈がした。父に、容赦は全くない。どうにか言い訳をしようと口を開こうとすると、カイザールはすぐ目の前に来ていて、乱暴に顎を掴んで上を向かせた。

「言ってみろ、アルガ。何が起きた?素直に言えば多少は加減してやろう」

「……っ」

 いや、素直に言ったからと言って、父が手加減してくれることは、きっとない。万が一にも本当のことを言えば、一振りで殺られる。

「ゆ、勇者が————」

 震えながら声を絞り出した。その言葉を聞いた瞬間、父の表情が変わった。恐ろしい殺気が放たれる。

「勿論のこと、始末したのだろうな?」

 すぐに頷けなかった。「はい」と余裕の表情で簡単に嘘をつく度胸があったら、事態は変わっていたのだろうか。

 しかし、アルガの一瞬の表情の揺らぎと沈黙が、答えを物語っていた。父カイザールは、みるみるうちに漆黒の魔力を増幅させたかと思うと、アルガのものよりも何倍も長く鋭い爪で—————その腹を、突き刺していた。

「あがッ、う、あ……!」

 その鋭い痛みと衝撃に視界が揺らぎ、ゲホッと、口から血が漏れた。

「勇者を、倒せなかったと……??」

 父が怒りに震えているのがわかる。痛みと恐怖に涙を浮かべながらも、必死に首を振って懇願した。

「父さ、ん……ちがっ…やめて…」

 しかし、そんな息子の姿は、父にとってただの哀れな弱者としてしか映らない。

 まるでアルガを苦しめるように、その爪をさらに深く差し入れ、抉るようにする。途端、アルガはその痛みに絶叫する。

「うああッッ!!あ…あ、」

 必死に、魔力を流して傷を塞いで修復しようとするが、父の魔力のほうが強い。魔族は人間より治癒機能が高いと言えど、あまりに破壊されれば修復が追いつかない。

「言え、勇者は監禁しているのか?どこにいる」

 その所在を聞かれ、アルガはハッとして、全力で首を振った。

「い、いない、ここには、いない!追い返して、もう、勇者は……」

 ソル、絶対に来るな、お前じゃ太刀打ちできない。カイザールを倒すことなんて————せめて、こうして俺が父さんを引き留めている間に、逃げてくれれば……

 そうだ……倒せないなら、無理やりにでも追い返していればよかったんだ。なぜ、ここに住まうことを許した?なぜ、彼が側にいることに安心なんかしていた?ここは魔王城だ。彼がいるべきところではない。

 どうか魔王の気配に気づいて逃げてくれ————そう願った、次の瞬間。

 バリバリバリッ!と大きな音がして、寝室の扉が粉々に蹴散らされる。次いで、眩しい閃光が刃のように部屋を貫いた。

「……!?」

 ザンッ!と目の前の父のすぐ鼻の先を、斬撃が過ぎる。反射的に避けた父だったが、その漆黒のマントの襟が切り裂かれるほど、すれすれだった。

 アルガの腹から、長い爪が抜かれた。ゲホッ、ゲホッ、と更なる血を落としながら、掠れる目で、その姿を認めた。

「ソ、ソル————?」

 なんで、お前はいつも……

「おいおい父ちゃん。児童虐待はお縄って知らねえのか」

 ソルは低くそう言って、剣をクルクルッと軽く片手で回したが、その瞳は、全く穏やかではない。冷酷で今まで見たこともない殺気。ともすると、それは最初に対峙した時より激しく、容赦のない獣のように獰猛にギラついていた。

「貴様—————」

 突然現れた光の勇者に、カイザールは微かな驚きに目を見開きながらも、それは即座に、真っ黒な怒りと苛立ちに変わる。悪魔のような赤い瞳が、ソルを鋭く睨みつけた。

 アルガは咄嗟に、腹部を抑えながら叫ぶ。

「やめっ……父さん、彼は…!」

「黙れ!!!」

 鋭い怒鳴りと共に、雷を帯びた魔力弾が飛び、アルガの頬に命中する。部屋の隅に叩きつけられ、力なく床に崩れ落ちたアルガを見て、ソルは怒りのまま叫んだ。

「黙んのはテメェだよクソ魔王!!!」

 ソルの剣が空中で煌めいた。闇の魔力と、光の力が衝突し、その衝撃に、爆風が爆ぜた。
 
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