魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

文字の大きさ
16 / 25

15. 光と闇

しおりを挟む

 ガキン、と固いものがかち合う音。白い光、そして漆黒の靄が辺りを渦巻いた。

 身体中が痛くて、起き上がることができない。恐れていた、ソルと、父カイザールの衝突。

 アルガはそれをなんとか止めようと、起きあがろうとするが、ドクドクと流れる血と、打ちつけられた背中や肩、そして頬を殴った電流に、力が出ない。

 掠れる視界の中、激しく両者がぶつかり合っていた—————




 俺は勇者で、こいつは倒すべき闇の王。でも、その激情と戦意は、そんなシンプルなものではなかった。力なく倒れているアルガが、視界の端にチラつくたびに、ソルの中で言いようのない怒りが燃え上がる。

 あいつは、今までどんな苦悩に耐えてきたんだ?運命も、精神も、身体も支配されて。しかしアルガはそれでも抗い、耐えて、そして「魔王」の矜持を見せていた。

 あいつの精神力は、この父王なんかより、はるかに強い—————まあ、身体は超がつくほど弱くて素直だが。

 しかし、それにつけ込むような歪んだ儀式。許さない。俺が許さない。アルガは、そんな仕打ちをされるべきではない。

 ……いつか、アイツの笑った顔が見たい。恥じらいや苦痛、葛藤と怒りは何度も見てきた。でも—————魔王だって、幸せそうに笑っていいだろ。

 俺が笑顔にさせてやる。

 そんな強い意志に導かれ、血流がドクンと大きく脈打った。光の力が、どんどん湧いてくるのを感じる。
それは明らかに、今までの戦闘とは違った。自分の身体は軽く、素早く、そして力強い。

 いつか特訓の時に見た、父さんの身のこなしを再現するように。——————『いつか、人を守るために使いなさい』

 光の剣はその使命を貫くように、宙を舞い、魔王に斬りかかる。

 最初、魔王は油断していた。ここまで強い勇者は、久しく出会っていなかった。そして、それは15年前の戦争を思い出させた—————

 (ほう、『陽光の勇者』か)

 思い返せば、見覚えがあった。同じく燃え上がるようなオレンジの髪と瞳が、魔王のすぐ目の前まで迫ったことがあった。しかし彼もまた、強大な闇の力の前で崩れていった数多の戦士の中の1人に過ぎない。

 (太陽の力、光の魔法————しかし、まだ安定しておらぬ)

 カイザールの、何百年にわたる戦闘経験が物語っていた。ソルの力は、今し方得たもの。まだ使いこなせておらず、感情に呑み込まれている。

 最初は魔王を圧倒していたソルだったが、段々と、相手が一枚上手であることを思い知らされていた。直感で動くソルに対して、カイザールは老獪な冷静さと残酷さを持って、的確に、容赦なくソルを追い詰める。
 その邪悪な黒い魔弾は、アルガのものとは、大きさも、威力もスピードも違う。

 防御をしても、剣で打ち砕いても、少なからず身体に衝撃がある。魔力の電流が肌を切り裂き、ビリビリと手が震える。剣を握り締めて、かろうじて反撃の隙を窺うが、それすら叶わない。

 くっそ、避けてるだけじゃ埒が明かねえ!!

 焦って、間合いを詰めすぎた。魔弾だけに意識を集中していたために、魔王のもう一つの武器を忘れていた。やばい、と思ったのも束の間。漆黒の長い鉤爪が視界を過ぎる。受け止めようとしたが、握っていた剣が弾き飛ばされた。

(あっ———)

 武器を失った丸腰のソルの身体に、鋭い爪が斜めに切り裂きを入れた。

「がっ、あッ————!!」

 喉から胸にかけて3本の裂傷。ビシャリ、と血が飛んだ。焼きつくような痛みが襲う。あと数センチ深ければ、内臓まで届いていたかもしれない。

 しかし傷を抑える暇もなく、首を勢いよく掴まれたかと思うと、地面に叩きつけられた。

 ガシャアン!バリバリッ!!

 鼓膜を破るような音、背中の衝撃で脳が揺れる。いつの間にか、ソルは大破した寝台諸共、床にのめり込んでいた。肺が押し潰され、一瞬息ができなくなる。

 (く、そ……っ—————)

「ソ、ソルッ…!!」

 アルガの必死な声が、耳に届いた。震えながらも視線をやると、なんとか起きあがろうとするアルガが、こちらを呆然と見つめていた。

 んだよ……俺のこと心配してんのか。口ではいつも冷たいこと言って、実は俺のこと、結構気にしてんじゃん。

 一瞬気を取られていると、そこへ魔王の黒い足が飛び込み、鳩尾を勢いよく蹴り上げていた。

「ふぐッ…!!」

 まるで虫けらを蹴り散らすように。ソルは、部屋の隅に転がって、うつ伏せに倒れる。

 口内に血の味が充満する。胸からの出血の他に、今の衝撃で骨にヒビが入っているかもしれない。

 ……身体が動かない。息がしづらい。早く立て、立てよ俺————!!

「ッハ!哀れで貧弱な勇者め」

 すぐ近くに迫った魔王。見下すように、嘲笑の声が落ちる。

「口ほどにもない、お前の光魔法など」

「父さん、やめ、て……!!」

 ぼうっとする意識のなか、アルガが必死に懇願するのが聞こえた。しかし魔王は、全く意に介していないようで、自分の背中の上で、バチバチと大きな魔弾が精製されるのを感じる。トドメを、刺される—————なんとか、残った力を振り絞り、一撃を逃れようとしたとき。

「や、……やめろ!!」

 アルガが叫んだ。それはさっきより一段と大きく響き、薄れかけていた意識が、ふっと戻される。

「ソル、に、触れるなッ!!」

「ほう?」

 カイザールはそこで足を止めた。ゆっくりとアルガを振り返る。いつも従順に言うことを聞いていた息子の、珍しい反発。

「驚いたな。貴様が我に、楯突くなど」

 微かな好奇心を抱いた瞳。どういう風の吹き回しだ?と、わざと首を傾げ、アルガのほうへゆっくりと近づく。

「それは、我に対する命令か?」

「……っ」

 父に楯突くことはもっとも重い罪。どう痛めつけてやろうか、と言ったような、恐ろしく加虐的な笑みが向けられた瞬間、アルガは息を呑んだ。

 「いやだ、やりたくない」と一言でも漏らそうとすると、父はいつもこの笑みを向けた。条件反射で身体が覚えている。父さんがこの顔をすると、1秒後には絶望的な痛みがやってくる。

「あ………」

 息が詰まり、アルガは、無意識に首を振っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...