魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

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22. セルガ

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⚠︎弟攻め要素あり
⚠︎吸血?要素あり



 ソルが魔王城を出て行ってからというもの、アルガはどこか、心の空洞を埋めるように、魔力の鍛錬に集中した。

 城の地下空間、蝋燭の火だけが怪しく灯る狭い部屋にて、アルガは魔力弾の精錬を繰り返す。より早く正確に、そして自由に操れるように。

 父と戦ったあの時、確かに自分の魔力はこれまでと違った。ソルが強くなっていくのに、置いていかれるわけにいかない。それに、いつも守ってもらうわけにも。

 しかし、鍛錬に集中しようとすればするほど、ソルの元気な声と、あの屈託のない笑顔がチラついた。

 ソルのことが頭に浮かぶ度に、何度もそれを振り払うように魔力弾を放つ。

 どこか落ち着かず、居心地が悪い。不安と焦燥—————そして、今までに抱いたことのない、「恋しい」という感情に気づく。

 彼の体温、ゆっくりと肌をなぞる指、重ねられる柔らかい唇に、身体を包む大きな手。ソルに触られた時のことを思い出すと、自然と身体が切なく疼いてしまう。

 いや、何を考えている。今は忘れろ。

 そう自分に言い聞かせながら、アルガは一段と強い魔力を込めて弾を生成し、勢いよく壁に向かって放った。

 と、その時。

 その魔力弾が、何か別の力によって封じられ、拘束された。雷を放電しながらも、突然空中で停止したそれを、どうにか動かそうとしたが、ビクともしない。不可思議な現象に眉を寄せたのも束の間、背後から、ざわっと不気味な魔力が迫った。

「—————!」

 その気配は、覚えのあるものだった。ここ数年、しばらく忘れていたものだったが、幼い頃から知っている。

 咄嗟に、新たに魔力弾を生成して後ろに放とうとした瞬間—————

 アルガの腰と首元に、するっと抱きつくように、青白い腕が後ろから伸びてきた。

「久しぶり、兄さん」

 甘くねっとりとした声が耳元で響き、途端アルガの身体に緊張が走る。

「ッ、セルガ……!」

「魔力の鍛錬?ふふ、見ないうちにすっかり腕を上げたんですね。流石僕の兄さん」

 言いながらも、セルガの怪しい手つきが、するするとアルガの身体に纏わりついていく。

「離れろっ、!!」

 アルガは怒鳴り、後ろを振り返りながら爪を振り上げたが、すでに、そこに弟の姿はなかった。

 ……セルガ=ルシフェル=リリス=ノクターン。

 アルガの異母兄弟にして、強力な闇の魔女の息子。彼は瞬間移動の術を自在に操り、そして見ないうちに、その力を磨き上げていた。

 いつの間にか、涼しい顔で目の前に立っている弟に、アルガは低く問う。

「いつ……帰ってきた」

 魔王城に入られた気配が、全くしなかった。まるで音を立てぬ暗殺者のようだ。

「たった今だよ、兄さんの顔を見たくて」

 セルガはにこりと微笑んだが、その瞳は怪しい輝きを持っている。

「……ふざけるな」

 アルガは瞬時に推測した。きっとセルガはすでに、父王カイザールの気配が消えていることに、気づいている。もしかしたら、彼の逝去を聞いて、はるか南の遠征地から、この魔王城に戻ってきたのかもしれない。

「父さんがもういないこと……知ってるんだろ」

 慎重な問いに、セルガは「うん」と薄い笑みを浮かべる。

「結構驚いたよ、まさか兄さんが、父さんを倒すなんて」

 少し首を傾げるが、その表面的な穏やかさとは反対に、探るような視線が鋭くアルガを射抜く。

「……でも、少し違和感を感じるね。だって長年父さんの言うことを真面目に聞いてきた兄さんが、ある日突然思い立って、彼を単独で殺すとは思えない」

 アルガがぴくりと反応するのを見て、セルガはますます笑みを深めた。

「どれだけ酷い仕打ちをされようと……やっぱり父さんを尊敬してたでしょ?兄さんは恨みと復讐に駆られて王殺しをするような人じゃない」

 低く言いながらも、セルガは虎のような瞳を宿してゆっくりとアルガを壁に追い詰める。

「なぜ……、そう言い切れる。恨みを一つも抱いていないなんて、お前は俺を知らないだけだ」

 背中が冷たい壁に当たり、アルガは逃げ場を失いながらも、言い返した。

「……そうかな?僕の知る限り、兄さんはとっても優しくて、繊細だから」

 行手を阻むように背後の壁に手をつくセルガに、アルガは緊張を隠すように、鋭く彼を睨んだ。

「……消えろ。もうここに用はないだろ」

 しかし彼の威嚇は、幼い頃から「兄さん」に執着してきたセルガにとって、興味と疑念を増長させるものに過ぎない。

( 兄さんは、何か隠してる。だって、嘘をつく時、兄さんは必ず、鎧を被るように強く言い返す )

 と、セルガはそこでふと、違和感に気づいた。

 兄の細い左耳に揺れている、白い羽飾り。右耳に下がる、漆黒の黒曜石でできた耳飾りは見慣れたものだが、左耳に白く煌めいているそれは、見たことのないもの。

「あれ?……これ、何?」

 セルガがふと眉を上げて、そっと彼の耳に触れると、アルガは反射的にビクッと肩を揺らした。

「おかしいな。微かに光の魔法を感じる」

 耳をなぞり、翡翠色の石を手に取った瞬間。アルガが勢いよくその手を払い除ける。

「触るな!!」

 そう鋭く怒鳴った兄を見て、セルガは、くつくつと喉の奥を鳴らした。

「ますます気になるなぁ……」

「ただの飾りだ、お前には関係ない!」

「じゃ、無理やり聞き出そうかな」

 セルガは、にやりと不適に笑い、アルガの首筋に顔を寄せた。

「だってこれ……もしかすると裏切りにあたるよ?」

 アルガは、肌にあたる吐息に息を呑む。

 セルガの、自分への執着心は、度を越している。アルガは何度も、弟に言い聞かせてきた。これは兄弟の距離じゃない、と。

 しかし、セルガは兄を拘束するように、その細い両手首を掴みながらも、ぐっと壁に押し当てた。

「セルガッ……!」

「ねぇ、もしかして、『勇者』が来た?」

 耳元で囁かれた声に、どきりと心臓が跳ね、アルガは必死に手を振り解こうとしたが、弟の力は思ったより強い。

「当たり?まさか、この耳飾り……そいつの?」

 その声に、明らかな殺意が宿っている。漆黒の魔力が、ぞわりと増幅され、部屋全体の空気が張り詰めていく。

「ち、違う、離せ……!」

 いじらしくも抵抗しようとする美しい兄に、セルガはますます恐ろしい嫉妬と支配欲に駆られた。

(勇者からもらったものを、自分の耳に?冗談じゃない)

 言いようのない憎悪に駆られ、セルガはその首筋に舌を這わせると、グサリと自分の牙を突き刺した。

「いっ…あっ……」

 ビクビクッと、兄の身体が揺れるのを見て、セルガはふふっ、と不気味な笑いを溢す。首筋から滲んだ血をぺろりと舐め上げて、わざと熱い吐息で撫でる。

「や、やめッ……セ、ルガっ!」

 アルガは必死に抵抗するが、すでに息が浅くなっていた。

 セルガは、知っていた。アルガが半分淫魔の血を引いていて、身体の感覚がとことん敏感であること。一度こちらが刺激を与えれば、すぐに崩れていく。

「素直に答えてくれたら、やめてあげるよ、兄さん♡」

 セルガは甘く囁くように言いながらも、ねっとりとその鎖骨を舐めるようにして、甘噛みを重ねていく。

「……っや、やめッ……」

 その度にアルガは反応し、ぎゅっと唇を噛みながらも、すでに微かな甘い声が漏れ始める。

 ふふ、淫乱なお兄ちゃん。僕だけのお兄ちゃん。僕が留守にしている間、一体誰の手に渡ったの?本当に……『勇者』なんかの手に堕ちた?

 許せない。そんなの、絶対に許さない—————。
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