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しおりを挟む迎えた土曜日。
週末は必ず怜のマンションへ泊まりに行っていたので、またも嘘を吐かなければならなかった。
橘との約束の時間が迫っていたが、現在、電話口で拗ねた友人を諭しているところだ。
「ごめんってば。 ばあちゃんとこ行かなきゃなんなくなって」
『昨日までそんな事言ってなかったじゃん。 もう由宇の分のご飯も用意してたのに』
「……ほ、ほんとにごめんね? あ、じゃあ明日泊まりに行こうかな? 制服持って。 朝一緒に学校行こうよ」
『…………ほんと? 来る? ドタキャンは嫌だからな?』
「分かってるって。 じゃあまた明日、連絡するね」
明日泊まりに行く事で渋々納得してくれた怜との電話が終わり、妙に切なくなってしまったのはすべての事情を知っているからだろう。
(怜……寂しいんだろうな……)
こうなる前はあたたかい家庭だったに違いない。
だからこそ余計に今の状況がツライはずで、由宇も、早く何とかしてあげたいと自身を奮い立たせていた。
どんな結末になろうとも、由宇は怜の側に居てあげたい。
以前から寒々と冷え切っていた由宇の家庭環境とは違ったらしい怜の寂しさは、計り知れない。
約束の10分前に駅に到着すると、見覚えのある黒のワンボックスカーがすでにロータリーに停まっていた。
あれは橘の仲間達が乗る車だと気付いてすぐ、中からチンピラのような風貌の男が三人降りてきて、一瞬だけ帰ろうかなとよぎってしまう。
真っ直ぐ由宇の元へやって来た三人のうち一人が、見た目の厳つさとは程遠い明るさで声を掛けてきた。
「チワワちゃん、ども。 俺、拓也。 ロン毛のコイツが大和、そっちのツンツンが瞬。 よろしくー」
「よ、よろしくです……」
拓也と名乗った彼が一番人懐っこいようで、笑顔で由宇を捉えてくれている。
一方、大和、瞬、と紹介された二人はジーッと由宇を見ていて、「チワワちゃん」と言われた事に怒ろうにも何とも居心地が悪い。
揃いも揃って強面だからか、これから由宇はカツアゲでもされそうな雰囲気である。
「風助さんから聞いてるよ。 もうすぐ来ると思うから俺の車乗っとく? ……と思ったら来たね」
マフラー音を響かせながら、荒々しい運転で見事にワンボックスカーの前に滑り込んできた黒塗りセダンから、橘がゆっくり降りてきた。
「お前小さ過ぎて見えなかったんだけど。 来てるなら来てるって言えよ」
「……ッッ来てる!!」
「今言っても遅せーよ。 マジで補導されかねねーから俺らからはぐれんなよ」
「車移動でしょ! はぐれようがないです!」
「あはは……! 超ウケる! このやり取り見れて俺今日もう満足!」
「何が満足だよ。 仕事はこれからだろ」
行くぞ、と橘が仕切ると、三人はいそいそとワンボックスカーに乗り込みに行った。
開口一番で由宇をキレさせた張本人は、「乗れ」と一言だけ言ってさっさと運転席に乗ってしまい、由宇はブスくれたまま助手席に落ち着く。
橘の車内は、彼の書く字のように綺麗なものだ。
そして車内中、学校でも度々感じていた香りが立ち込めている。
「あいつら面白がってんな」
「……そうだね。 先生が俺を怒らせるから」
「怒らせてる意識はねーんだけど」
(だとしたら真剣に言ってるって事? 尚悪いじゃん……)
橘の言動に振り回されっぱなしなのは当初から変わらない。
だがそれが彼らしくもある、と今になって由宇はやけに冷静だった。
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