125 / 131
✦ 後悔の果て ✦
✧*。122
しおりを挟む乃蒼は、月光を追い出す前に、近藤一家がお隣さんになった経緯をどうしても知りたかった。
「どういう事なんだよ」
腕を組んで月光を見上げると、彼は何の躊躇いもなく飄々と移動し、ダイニングテーブルに腰掛けて足を組んだ。
「俺と早紀の りがい が一致したんだよ~」
「……利害の意味知ってんの?」
「いや、分かんない」
「……だろうな。 それで?」
「俺はな、乃蒼の名前を子どもに付けたいって言ったんだ」
「バカかよ!」
「早紀にもそう言われた~。 友達の名前なんて嫌だって。 じゃあ名前は譲るから、住む場所は俺が決めたいって言ったんだよ~」
「バカだな、お前は……正真正銘のバカ。 早紀ちゃんが怒るのも無理ないよ」
「物件探してたっていうより、乃蒼の事を探してたからさぁ、俺~。 ここに海翔と住んでるって知って、即決だった~」
バカに付ける薬はないと何度も思った事はあるが、そもそもそんな薬は存在しないかもしれない。
どこに親友の名前を我が子に付けようという者が居るだろうか。
海外では珍しくないのかもしれないが、月光と乃蒼は純日本人だ。
おまけに何度となく体を重ねた事のある、所謂元カレという微妙な立場になるので、乃蒼がため息まじりに「本物のバカだ」と何度も呟くのも無理はない。
「……はぁ……。 ここに住む事、早紀ちゃんがよく納得したな」
「ここって子育て支援地域らしくて~、制度?も手厚いし、幼稚園?もいいとこ多いし、病院も近いし? てか隣に医者が住んでるなら、これ以上心強い事ないよな~って話になって~」
「………………」
「乃蒼も居るし、医者も居るし、街は平和そうだし、子育てもしやすいし、早紀の実家も近いし、ここしかねぇじゃん~? みたいな?」
「そんな事はないと思うけどな」
「そんな事あるんだよ~! 子どもも早紀も大事にしてかなきゃいけないって分かってるけど、俺は乃蒼とは離れてたくないんだ~!」
……溜め息しか出てこない。
月光は一体、どういうつもりで乃蒼とは離れたくないなどと言うのだろう。
乃蒼は海翔の事が好きで、付き合っているとも打ち明けた。
ここで海翔と同棲している事も何故か知られていて、たった今も、恋人同士に違いない通話のやり取りを聞いていたはずだ。
早紀とも子どもともしっかりと向き合う姿勢を感じていて見直していたのに、追い掛けてくるとは少々気味が悪くなってきた。
陣痛中の早紀を差し置き、親友として大切な会話をしたあの時間は何だったというのか。
「……お茶飲む?」
「うん、飲む~」
溜め息と「バカ」を連発するだけで何も出さないのは悪いかと思い、人の良い乃蒼は月光にはとても不似合いな煎茶を用意して手渡した。
熱いぞ、と注意する前に一気飲みした月光は、やはり考えなしだ。
「熱っ……~!」
「……なぁ、早紀ちゃんと子どもは?」
「熱~ベロ火傷した~。 ……二人は里帰りで向こうの実家~」
「なるほどな。 ……子どもの名前は決まった?」
「紀に月で、紀月(きら)」
「おまっ……またキラキラネームか!」
「それは早紀に言ってよ~俺が付けたんじゃないもーん」
乃蒼と月光は、まさにそのキラキラネームが元で知り合ったと言っても過言ではない。
『乃蒼ちゃんかと思った~』と、乃蒼の前でニヤニヤしていた出会いを思い出す。
学生の間はもちろん、どこに行ってもこの名前は女性的であり、かつ今流行りのキラキラネームでクスクス笑われる事も多々あったのだ。
同じ運命を背負わせるなよ……と苦笑した乃蒼は、何を隠そうこの月光も「乃蒼」と名付けようとしたと言っていたのを思い出して、さらに苦笑を濃くする。
どちらにせよキラキラネームからは逃れられない運命らしい月光の子に、心の中で合掌した。
そんな乃蒼が自分の名前を受け入れられるようになったのは最近だ。
海翔が「乃蒼」と呼ぶ声が優しくて甘くて、振り返るのが楽しみになっている。
むしろベッドの上では乃蒼の方から、「もっとたくさん名前を呼んで」と甘える事さえある。
まだこの部屋での逢瀬は三回ほどだが、毎回受け止めるのが大変なほど愛情いっぱいに抱いてくれる海翔の事が、もう恋しくなった。
思い出すとよくない。
ついさっき声を聞いてしまったために、寂しくなってきてしまった。
「て、てかさ、早紀ちゃんは俺達の過去の事知ってんのか?」
乃蒼は自身の寂しさを打ち消すように、最後に聞きたかった事を月光に問うてみた。
火傷としたとうるさいので、今度はグラスに冷えたミネラルウォーターを注いで渡してやる。
「お、ありがと。 いや~それはさすがに俺の口からは言ってねぇよ~。 でも薄々勘付いてんじゃない? 俺が乃蒼乃蒼乃蒼乃蒼言ってるし~」
「言い過ぎなんだよ! バカ!」
「バカって言うなよ~。 俺これからどうしよって一応悩んでるんだぞ~」
「…………悩んでる? 何を?」
早々に追い帰そうにも、乃蒼が話を振って引き止めた手前それが難しくなってきた。
どうも親友として話を聞いてほしそうな気配を感じ、長くなりそうだからと乃蒼も自分の湯呑みに煎茶を注ぐ。
その時だった。
───ガチャ、。
月光が足を組み替えたのと同じくして、玄関の解錠音がリビングに居た乃蒼の元まで聞こえた。
10
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる