必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 陽気なオープニングがイヤホンから流れ始めた。

 また泣いてしまいそうだった俺は、お茶を握り締めて瞳を閉じた。

 CROWNの三人がここにいるような感覚を楽しむためには、自分だけの世界に入るのが一番だ。


『こんばんはーCROWNのセナでーす』
『アキラでーす』
『ケイタでーす』
『おい、俺の言い方真似すんなよ』
『リーダーにならっただけだろ』
『オープニングからカリカリするなよセナ~』


「ぷっ……」


 オープニング早々、早速三人が言い合いを始めた。

 これを俺だけじゃなく、たくさんのCROWNのファンの人達が笑顔で聴いてるんだ。

 その中の一人である俺は、三人の素を知ってる。 もっと楽しく聴けてしまうから、ほんとに贅沢だよ。


『ツアーのリハがキツイんですけど、セナサン』
『何で俺に言うんだよ』
『だってツアーの全体指揮はセナが取り締まってるじゃん~』
『検問じゃねぇんだから取り締まるはおかしいだろ』
『いやマジで。 俺もケイタもダンサーも、リーダーからめちゃくちゃハードな事やらされてるからみんな遊びに来いよな?』
『今回のスケジュールは土日多いからみんなも来やすいでしょ? いつも平日だったもんね~』
『あ、そこは俺が取り締まった』
『おぉ! 土日公演はセナが取り締まったんだって! ファン思いだね!』
『だろ? 平日は仕事とか学校で来れないってリスナーの子達から何年もメッセージ貰ってたのに、叶えてあげられなかったからな。 今年はちょっと頑張った』


 裏方にも深く関わる聖南が、ツアーの日程にまで口を出せる立場にもう居るって事だ。

 土日のホールを押さえるのが難しいって事は俺ですら知ってるから、ファンの子達も会いに行きたい気持ちを聖南に伝え続けて良かったと喜んでるよ、きっと。

 三人はそれからも和気藹々と一時間、何事もなくいつも通り楽しい番組を提供してくれていた。

 聖南の心中を思うと、ちゃんと出来るのかなって俺は心配だった。

 あれだけの事があったんだから、少しくらい番組に影響あってもおかしくはないのに、聖南はほんとにいつもと変わらなかった。

 番組趣旨である、リスナーから届く悩みや意見、要望なんかを一つ一つ丁寧に答えていって。

 まさか打ち合わせゼロの状態で臨んだなんて思わせない「普段通りのセナ」を見事にこなしてたから、さすがだと思わざるを得なかった。

 あまりにいつも通りだから、時折言い合う三人の掛け合いが可笑しくて、俺も時間を忘れてついつい声を出して笑ってしまったくらいだ。

 エンディングの曲が流れ始め、アキラさんとケイタさんの一言の後にセナが締めると、番組は無事終了した。


「……今日も面白かったー」


 一時間が、あっという間だった。

 さっきの悪夢のような出来事は夢だったんじゃないかと思うほど、変わらない聖南に到底敵わないプロ意識を感じた。

 お茶を飲みながらソファでラジオの余韻を楽しんでいると、聖南が半ば走り込むようにして控え室へと戻って来た。

 急いでる足音が聞こえてたとはいえ、ガチャっと勢いよく開いた扉に体がビクつく。


「葉璃ー!」
「……わわわ…っ! せ、聖南さん。 お疲れ様でした」


 大きな体が早足で近付いてきたかと思うと、そのままガバッと抱き付かれて、俺はその反動でソファに転げた。


「痛いですよっ!」
「葉璃不足。 充電させて」


 スリスリと頬擦りをして甘えてくる聖南からは、さっきのラジオでの面影がすっかり消え去っている。

 左頬が終わったら今度は右頬をスリスリし始めて、大型犬が尻尾を振って全体重をかけてきてるみたいな状況に俺もされるがままにジッとしといた。

 やっぱりあの「何も無かったフリ」はめちゃくちゃ頑張って出してたんだなぁって思うと、健気に仕事をこなしてきた大好きな人を払い除けるなんて出来なかった。




 本当の聖南は、こんなに甘えん坊なんだよ。
 知らないでしょ、聖南のお父さんは。




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