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───なんで佐々木さんがこんなところに居るの?
中腰で変な態勢のまま固まった俺を、いつものスーツと眼鏡姿の佐々木さんが不思議そうに見下ろしている。
「なんでこんなとこにいるんだ?」
……そりゃそう思うよね。
夢中で走ったから俺もここがどこかなんて分からない。 歩き回る気力も体力も無くて蹲ってたらいつの間にか時間が過ぎてしまっていて、とにかく頭が働かない。
……一つ言えるのは、知った顔を見てホッとした俺がいるって事。
ほんとに情けない限りだ。
「……お疲れさまです、佐々木さん」
「いや、答えになってないから。 ここどこだか分かってる?」
「知らない……分からないです」
「……俺ん家すぐそこなんだ。 おいで、話聞くから」
「え、でも……」
「こんなワケありそうな家出少年を放っておけるはずないだろ。 黙ってついてきなさい」
「………………」
知らない場所で一人佇んでいた俺に、何かあったんだって勘付いたらしい佐々木さんが神妙な面持ちで俺に手招きした。
俺を好きだと言ってくれた佐々木さんの後を付いていくのはどうかと思ったけど、動かない俺を振り返って「誓って何もしないから」と言ってもう一度手招きしてきたから、大人しく付いて行った。
佐々木さんと会うのはかなり久しぶりだ。
縁があるのかないのか、こんな、どこだか分からない場所で会うなんて。
「……すごいですね、黒歴史満載……」
佐々木さんが住むマンションの外観は、至って普通だった。
なのに中へ入ると昔の名残りの品々がたくさん飾ってあって、ここはヤンキーの溜まり場かと目を白黒させた。
「黒歴史だけど俺にとっては青春だからな」
俺の本音に佐々木さんは笑いながら、スーツのジャケットを椅子の背凭れに掛けて冷蔵庫からお茶のペットボトルを持って来た。
「あ、すみません。 ありがとうございます」
「適当に座っていいよ」
綺麗にしてはいるんだけど、いたるところにもふもふした物があって、部屋中ヤンキー感が凄いからなんだか落ち着かない。
ペットボトルを握って毛足の長い黒のふわふわ絨毯の上にぺたんと座った俺の前に、眼鏡を外した佐々木さんが髪を無造作に崩して胡座をかいた。
いつもと違う髪型と、家でリラックスしてる雰囲気ってだけで、もう総長に見えてきた。
「セナさんと何かあったの?」
佐々木さんが、俺に渡してくれたのと同じものを飲みながら視線を寄越してくる。
早速核心を突いてきた。
「……あ、いや……何かっていうか……」
「別れた?」
「……えっ、あの、……まだ別れてはないけど、そうするつもりです、俺は」
「じゃあ俺いま、据え膳?」
「え?」
「ちゃんと別れたら俺んとこに来いよ、大歓迎」
ニヤッと笑うその笑顔は、いつもの優しい佐々木さんじゃない。 別れたらって言ってる辺り筋が通ってるのに、凄まれてる気になる。
そういえば佐々木さんは、昔からあんまり笑わない人で有名だった。
「てか急にどうしたんだ? うまくいってたろ?」
「……はい。 あの、実は……」
俺は、聖南との関係を知る佐々木さんにならと、今日の事と俺の今の思いを打ち明けた。
聖南とお父さんとの話は少しだけ端折ったけど、何となく佐々木さんは分かってる風で、俺の話を黙って聞いてくれていた。
ジッと見てくる眼鏡無しの佐々木さんはずっと眉間に皺を寄せていて、もはや総長にしか見えなくて終始怖い。
「だから言っただろ、最初に。 セナさんと付き合ってもいずれ葉璃はそう思う日が来るって」
「言いましたっけ……」
「それっぽい事言った。 当然の迷いだと思うよ。 セナさん女も抱けるなら、女とくっついてりゃいいんだよ」
「あ、あの、佐々木さん……総長のオーラ封印してくれませんか」
「何、そんなの出てる?」
「出てます。 ……すごく」
自宅に帰ってきた安心感からなのか口調も少し強めに変化していて、仕事中はきちんと総長を封印してるんだって改めて分かった。
誰も目の前の総長に気付きもしないくらい、佐々木さんはいつも冷静沈着で穏やかで、極々稀に笑顔を見せるクールな人って印象だった。
むしろ、無口過ぎて俺と同じく根暗なんだろうなって思ってた時期もあったから、俺も見事に騙されてたって事だ。
「やっぱ家帰ると気抜けるなー。 俺、族だったけど正義の族だったから安心していいよ」
「……正義の族って矛盾してません……?」
「してない。 で、葉璃はセナさんに別れるって言ったのか?」
「…………言ってないです」
「それだとセナさんの想いは断ち切れないと思うけど?」
……そうなのかな……。 いやでも、後々どうなるかは分からないにしても、まさに今の聖南の心境は分かる。
逃げたのは俺の勝手な決断だから、聖南が納得してるとは到底思えなくて。
スマホの電源も入れずに行方が分からなくなった俺を、もしかしたら今現在も探してるかもしれない。
心配かけちゃってる。 たぶん。 ……いや、絶対。
聖南の気持ちを考えたら、自分勝手な判断だって事くらい分かってる。
大好きな人のために身を引く。
そう覚悟を決めたのに、俺は聖南の想いを断ち切らせるための算段を逃げる事以外一切付けていなかった。
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