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しおりを挟むあれからスマホの電源は怖くて入れてない。
時間を見られないし、目覚ましをセットできない支障はあるけど、もし聖南から連絡が来たら俺はまた考えもなしに流されてしまいそうだった。
聖南と一緒に居たい。
それだけは確かなのに、俺の卑屈さが大いに発揮されている今、ちゃんと自分と向き合う時間が必要だと思った。
俺は聖南に相応しくない。 でも聖南が言ってくれた言葉達は俺に「好き」って想いを教えてくれた。
男同士でも関係ないと言ってくれた、あれは聖南の本心だったのかなんて今考えたところで「絶対違う、俺なんかを好きになるはずない」と否定してしまえる卑屈さが、弱さが、ぐるぐると脳内を支配する。
そんな事を考えていてさぞ難しい顔で歩いてたのか、隣から伸びてきた指が俺の眉間に触れた。
「考えごと?」
放課後、いつも通り駅までの道を恭也と歩いていた。
俺もそうだけど、恭也も習い事があるとかで決まった曜日しか一緒に帰れない。
「あーうん、まぁ……」
「時間ある? そこ、ファミレス。 少し話そ」
「え、恭也っ?」
のんびりとした口調のわりに、俺の背中を押して強引にファミレスへと入店した恭也は、勝手にドリンクバーとパンケーキを二つずつ注文してしまった。
時間ある?って聞いといて、もう飲み物を取りに行ってしまった恭也の背中を、唖然と見詰めた。
こんな事は今までになくて、驚きを隠せない。
俺には甘いココアを持ってきてくれて、向かいに座った恭也はアイスコーヒーをブラックのまま飲んでいる。
「俺って、葉璃のために、何もできないかな」
「え……?」
運ばれてきたパンケーキを見詰めていた恭也が、顔を上げる。
暖簾みたいに長い前髪の向こうから、寂しげな視線が飛んできた。
「昨日の、葉璃見てて、思った。 ……いや、ちょっと前から、かな」
「……恭也……?」
「もどかしいよ。 俺、葉璃の事大好きで、友達だと思ってるのに、葉璃は俺に、悩みも打ち明けてくれない」
俺に悩み事があると分かった恭也が、ひっそりとそんな風に思ってくれてたなんて知らなかった。
でも……相談できる悩みだったら、恭也にならすぐにでも話すに決まってる。
それが出来ないから一人でモヤモヤしてるのに、恭也は真剣な顔で俺を見詰めてくるから、そう強くも言えない。
黙ってしまった俺に恭也はさらに唇を尖らせた。
「春香ちゃんの代わりに、テレビ出てた事も、話してくれなかった」
「えぇ!? ……そ、それ、春香が話した?」
「ううん。 俺が気付いた。 生放送のやつ、口パクだったし。 あの動き、顔の表情、体の線、あれは葉璃だった」
そうでしょ?と問われ、あまりの洞察力の高さに恭也は一体何者なんだと訝る。
唯一自信のあった口パクは、本業である聖南に、俺しか気付いてないと思うと言わしめたほどだったのに。
ここにいる恭也にバレていたという事は、もしかして世間にも知られてしまってるんじゃないかと不安になった。
「……気付いてたの……」
「あ、でも、すごく上手だったから、普通の人には、バレてないと思う」
じゃあ恭也は普通じゃないの?と突っ込みたくなったけど、何だかそんな軽口を叩ける雰囲気じゃなくて黙っとく。
恭也の瞳がずっと寂しそうに揺れていて、俺の行動や言葉が、恭也を信頼してないと思わせていたのかもしれないって気付くといたたまれなかった。
黙り込んだ俺達のパンケーキは、まだ手付かずのままだ。
少しの沈黙のあと、アイスコーヒーを飲んだ恭也が意を決したように口を開いた。
「……俺ね、葉璃が初めて、だったんだ。 こんな俺に、普通に接してくれるの……」
「ど、どういう事?」
「俺昔から、あんまり頭の回転早くないから、喋るのすごく苦手で、こんな感じでしょ。 周りから、嫌がられてたみたいで」
「そうなんだ。 別に、気にするほどでもないと思うけど……」
「でもね、もう、みんなはどうでもいいんだ。 葉璃が居てくれたら、それで。 葉璃が悩んでる姿、見たくないよ。 どうせなら一緒に、悩みたい。 葉璃はすぐ、自分の中で、気持ちを殺すから」
「………………」
恭也がこののんびりした口調を気にしていた事も知らなかったし、そんなにまで俺を理解しようとしてくれている事にも気付けていなかった。
今までの俺は本当に、周りに気を使ってるようでいて、相当な独りよがりだったんだ。
嫌な思いをしたくないからって殻に閉じこもって、誰にも本心を曝け出そうとしなかったツケが回ってきた。
初めて出来た友達……恭也にも、こんな寂しい顔をさせちゃうなんて───。
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