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しおりを挟む恭也に抱えられるようにしてスタジオから出てきた俺を見て、駆け寄ってきた林さんはギョッとしてたけど、恭也が簡単に状況を説明してくれてすぐに車を出入り口につけてくれた。
俺に気を使って、「成長痛」という単語を出さなかった恭也は優しい。
林さんから後部座席を開かれて、恭也の腕を借りて俺は車に乗り込もうとした、その時───。
「葉璃!」
もはや恭也の片腕にぶら下がるくらいの勢いでしがみついてた俺を、慌てた声が呼び止める。
走り寄ってきた声の主は、ついさっきまで機材に囲まれていた眼鏡聖南だった。
「林……だっけ? 葉璃はいい、俺が送るから。 恭也、お疲れ。 ありがとな。 そんじゃ!」
「わわわっ」
聖南は矢継ぎ早に林さんと恭也に声を掛けると、人前にも関わらず俺をお姫様抱っこして一目散に自分の車まで走った。
恭也がきっとうまく言ってくれるだろうけど、林さんには二連続でこういう場面を見られてるから、うまく誤魔化せるかは分からない。
呆気に取られた顔の林さんと、無表情の恭也が聖南の頭越しに見えて、ごめん、恭也…!と、度重なる面倒事を押し付けてしまい心の中で合掌した。
聖南は俺を、今日は助手席ではなく後部座席にゆっくり労るように乗せてくれる。
でも俺は、毎度毎度嵐のように現れる聖南に、しかもお姫様抱っこされるだなんて、誰が見てるか分からない恐さもあってすかさず噛み付いた。
「また拉致ですかっ」
「人聞き悪りぃな! ってか葉璃、薬は? まさか飲んでねぇの?」
「飲んでないです……」
「ったく……」
バタンッと扉を閉め、運転席に乗った聖南がシートベルトを締めながらルームミラー越しにちょっと怒った顔で俺を見た。
「ちゃんと薬飲んでると思ったから、長丁場無理させたんだぞ? 何やってんだ」
「……すみません……」
「……俺が居たんだから我慢しなくて良かったんだ。 痛いなら痛いってちゃんと言わねぇと。 な、葉璃。 病気じゃねぇから言い難いっつーのも分かるけど、俺の前で我慢してたとしたら、気付いてやれなかった自分にムカついてしょうがねぇよ」
運転しながら何度となく溜め息を吐いている聖南が、俺にも、そして自身にもひどく憤ってるようだった。
たかが俺の成長痛のために、そこまで親身にならなくても…と思ったけど、聖南は苦い顔のままだ。
「いや……聖南さんがムカつかなくても。 俺が薬飲むの忘れてただけだし……」
「最後の二時間くらい、ずっと痛かったんじゃねぇの? ……はぁ……」
「大丈夫ですって。 ねっ? 俺ほら、この通り元気」
「体は元気でも足は違げぇだろーが。 しかもさ、いくら相手が恭也でも、葉璃が俺以外の男にあんなに密着してるとこ見せられたらキツイって」
「………………」
それはどうしようもないじゃん、って言っちゃうと聖南が余計に落胆しそうで、言えなかった。
「痛み止めって何か食わねぇとだよな?」
「はい」
「じゃ俺の知ってる店行くか。 この時間なら個室空いてるだろーから」
そう言った聖南に洋食レストランに連れて行かれてパスタを食べ終わると、聖南に急かされるままにすぐさま薬を飲んだ。
それから三十分ほど何気なく今日の話をして気を紛らわせて、痛みが引いてきた事に気付いてそう伝えると、聖南はあからさまにホッとしてた。
「もう焦らせんなよ? 大好きな奴が痛みに苦しんでる姿とか見たくねぇ。 ……頼むから、我慢だけはすんな」
「分かりました……。 聖南さん、ありがと」
何だか怒ってるようだと思ったのは、俺を心配するが故の焦りからだったらしい。
俺が痛がっていて、しかもそれを我慢してたのが許せなかったみたいで、聖南のマジ説教に俺は素直に頷いた。
たかがこれだけの事、って人は言うかもしれないけど、もしこれが逆の立場だったら、俺も聖南に説教するかもしれない。
そう考えると、「なんでそこまで言うんだよ」っていう文句なんか、この聖南の愛情を前に言えるはずがなかった。
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