145 / 541
28❥
28❥2
聖南はやっとの事で足を前に踏み出した。
街灯の明かりなどあってないようなもので薄暗く、二人は聖南になかなか気付かなかったが、サングラスの男が「あ!」と声を上げて立ち止まったのを機に、葉璃もようやく聖南を視界に捉えた。
「セナさん丸出しじゃないっすか。 どうしたんですか? こんな所で」
近くで収録でもあったんすか?と馴れ馴れしく声を掛けてきたこの男の事を、聖南はすぐには思い出せなかった。
「聖南さん!」
聖南に気付いた葉璃は、暗がりで分かりにくいが嬉しそうな表情をしていて聖南は少しだけホッとした。
これが、「ハッ」といかにもヤバイ所を見られた風な反応をされたら、聖南の中の黒いものの制御が効かなくなっていたかもしれない。
今やここにはこの三人しかいないので、聖南は堂々と両手を広げて葉璃を待った。
「……葉璃、おいで」
声を掛けると葉璃はすぐに走り寄ろうとしていた。 しかし、サングラスの男が葉璃の腕を掴んで行かすまいとそれを阻んだ。
刹那、心に渦巻いていたドス黒い何かが聖南の体外へと放出されたかのように、「てめぇ!」と声を荒げる。
「俺のだ。 触るな!」
聖南は葉璃を奪い取ると、サングラス男を睨み付けた。
素顔を晒しやがれ、夜中にサングラスなんて馬鹿かと思ったが、そんな事はもはやどうでも良かった。
「え? セナさん……の? こいつ、セナさんの?」
「こいつって誰に言ってんだ? あぁ? 殴られてぇのか」
「いや顔命なんで殴らないで下さい。 セナさんガラ悪いっすよ」
「せ、聖南さん……っ」
お前のせいだろ!と怒鳴ろうとしたのだが、葉璃が聖南の袖口を引っ張り、興奮してはダメだと首を振っているのでやめた。
「誰だお前」
この出で立ちで、聖南に敬語を使ってくるあたり同業者である事は間違いない。
聖南は葉璃を自分の背後に隠すと、トーンを落として詰め寄る。
するとサングラスを外した男が、形ばかりにペコッと頭を下げた。
「おっと、失礼しました。 荻蔵っす」
顔を拝むと、聖南は数日前に葉璃とテレビを見ながら交わした会話を思い出して眉間に皺を寄せた。
『……荻蔵斗真……?』
この二人の接点がまるで分からない。
葉璃はこの男を「怖かった」「嫌だった」と言っていたにも関わらず、なぜここに二人で居たのか。
「飯行ってきたんすよ。 そこの居酒屋で」
「居酒屋!? お前、葉璃に酒飲ませてねぇだろーな!?」
正体が分かったとて何ら安心材料にはならなかった。
なぜ皆、聖南より先にアルコールを出すような店に葉璃を連れて行くのか。
どう見ても葉璃は未成年だと分かるはずなのに、神経を疑う。
「飲ませてないっすよ~。 その見てくれじゃ、店側もそう簡単に酒出さないっしょ」
「てめぇ……。 顔がダメなら腹か背中いくか?」
「その拳ヤバイからやめて下さいってば。 何かよく分かんねーけど、先輩と後輩が飯行っただけなんすから、そんな目くじら立てないで下さい」
聖南の怒りのボルテージは上がるだけ上がっているというのに、荻蔵は何とも飄々としていて心底イラつく。
一発どころか何発でもお見舞いしてやりところだ。
「ね、ねぇ聖南さん、もう帰りましょう……? ちょっと足痛くなってきた……」
背後からコソッと顔を出した葉璃が、言葉通り聖南にいくらか体重をかけ始めていて、それは大変だとばかりに体を支えてやると財布から二万を抜き取り荻蔵に差し出す。
「飯代。 借り作りたくねぇから取っとけ」
「多すぎますって」
「分かってる。 葉璃が世話になったな」
荻蔵に金を押し付けて、もう話す事はないと聖南は葉璃を小脇に抱えてその場から立ち去った。
聖南は自宅に帰るまで一言も発さなかった。 否、話す事が出来なかったのだ。
抱えられた葉璃はいつもなら降ろせと抵抗するのだろうが、聖南の無言の圧力でチラチラと視線を寄越すだけに留めている。
『…………胸糞悪りぃ……』
怒りのポイントが多過ぎて、聖南自身も処理に追い付けない。
無自覚の葉璃にも相当に怒りを覚えていた。
葉璃は、日中ですら出歩けば必ず一度はナンパされるほどの可愛らしさなのだ。
それが、何時に出掛けたかは知らないが夜の街に一人で繰り出すなどどうかしている。 自覚が無さ過ぎだ。
自宅へ着くと、葉璃に薬を飲むよう促し、聖南はさっさと一人でシャワーを浴びた。
頭を冷やさなければ、まともに葉璃と会話も出来ないと思った。
『俺……こんな小せぇ男だったんだな……』
荻蔵が言うように、ただの先輩後輩が食事に行っただけなのだろうが、それさえ聖南は許せない。
事務所に入りデビューする葉璃は、これから先もこんな事は確実に起こり得るはずだ。
それにいちいちこれだけ嫉妬していては早い段階で心が壊れてしまう。
葉璃が聖南を好きだと言ってくれている気持ちを疑っているわけではなく、これはすべて聖南の器の問題であった。
『とりあえずお仕置きは確定だ』
聖南の目の前での恭也とのハグ、そして聖南以外の人間と食事に行くなという約束を破った、この二点に関して許してやる気は毛頭ない。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【R18】兄弟の時間【BL】
菊
BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。
待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!
斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。
「じゃぁ結婚しましょうか」
眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。
そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。
「結婚しましょう、兄さん」
R18描写には※が付いてます。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。