必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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〜十月某日〜(全十話)

2♡〜カメリハと本番〜

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   ADさんに連れられてスタジオに入ると、案の定聖南は居た。

   いや、聖南だけじゃなく、みんな居た。

   アキラさんも、ケイタさんも、恭也も、ドクターコートを羽織ったイケメン四人の視線が俺に一心に集まってくる。

   わーーんっっ。 恥ずかしいよ~~っ!

   あんなに見てこられたら緊張どころじゃない……!


「カメリハ、本番の二回通しますので、よろしくお願いします」
「は、はい……っ」


   聖南達とは喋る間も与えられないまま、スタンドマイクの前に立たされてそう説明を受けた。

   カメラが五台もある。

   そのカメラの向こう側には大人が二十人以上は居て、俺の視界の右端にはドクターが四人固まっていた。

   駄目だ、足が震えてしまう。

   早く音流してください、お願い……!

   マイクを両手で握り締めると、ようやく曲が掛かってカメリハが行われ始めた。

   ──良かった……動けてる。

   歌えてる。

   この振り付けを教えてくれたのは女性だった。

   その振り付けの先生から、目線にも妖艶さを足してと無理難題を言われて意識してみてるけど……出来てる気がしない。

   カメリハが終わり、連続でのドキドキな本番の録りも何とか終える事が出来た。

   一人でカメラの前に立つなんて、デビューしてまだ三ヶ月の俺には荷が重過ぎだ。

   いつも通り曲中は無我夢中だから大丈夫だったけど、いざ終わるとホッとしてまた手足が震えてくる。


「──葉璃、お疲れ。 帰るぞ」


   マイクスタンドの前で緊張してカクカクしていると、我先にと聖南が手を差し伸べてくれた。

   その手を取ると、耳打ちしてきた聖南から痛いほど右手を握られてしまう。


「お……お疲れさまです。 痛いです、……聖南さん」
「ハルお疲れ! すげぇ良かったじゃん!」
「ハル君お疲れ様~! 可愛かったよー!」
「え、あ……お疲れさまです……。 可愛かったですか……そうですか……」


   慌ただしく動くスタッフさん達を尻目に、アキラさんとケイタさんがニコニコで声を掛けてくれた。

   可愛かったらしいけど、俺にとってそれは褒め言葉では……ない……。

   すごく複雑な気分だ。


「葉璃、お疲れ様」


   恭也もニッコリ微笑んで労ってくれた。

   ありがとう、恭也もお疲れさま、って言いたいのに、俺の手を握る聖南の力が半端じゃないから話しちゃいけないのかなと思って口を噤む。

   ほんとに痛いんだけど、聖南……。


「これケツだから俺と葉璃は先に帰るわ」
「はいはい、存分にお楽しみください」


   頭上で聖南とアキラさんが会話してるのを聞きながら、ドクターに取り囲まれた俺は何だか変な気分だった。

   厚底ナースシューズを履いてるのに、まだみんなの顔は見上げる位置にある。

   そしてふと思った。

   これ……普通の病院だったらおかしな比率だ。

   お医者さんが四人で看護師さんが一人なんて、絶対変だよね。

   ぷぷ……っ。


「葉璃、何ニヤニヤしてんの。 行くよ」
「え、待って、まだこの後打ち合わせが……っ」
「俺も一緒行く。 ……すぐ帰りてぇから巻くぞ」
「えっ? えぇ? ちょっ、聖南さんっ! あ、お、お疲れ様でした!」


   こ、こんな堂々と手繋いでたら、スタッフさん達から変な目で見られるよ!

   聖南に手を引かれた俺は、少々声を張り気味にペコッと一礼すると、アキラさんとケイタさんと恭也は笑顔で手を振ってくれた。

   スタッフさん達は……うん。

   呆気に取られてる。

   そりゃそうだ。


「聖南さん、マズイですよ! こんな……っ」
「マズくねぇよ。 あそこに居たスタッフ全員、俺が葉璃にダメ出ししに行くと思ってる」
「あ~……なるほど……」


   俺達の事を知らない人が見たら、先輩が後輩を叱るためにスタジオから連れ出してる……ように見えなくもない。

   しかも今、聖南の顔はキレ気味。

   俺はオドオド。

   まさに聖南の言う通りみたいで、視界の端に見えたスタッフさん達の顔は「ヤバ…」って引きつっていた。


「なんで俺に内緒にしてたんだよ」


   廊下を歩きながら、スタッフさん達が居ないのを見計らって聖南が怒った顔で振り返ってきた。


「なに? 何の事?」
「その衣装とあのエロい選曲。 これはどういう意図だ」
「え……ど、どっちも俺の意図じゃないから分かんな……」
「衣装はいつ決まってたの」
「……今日です。 着る直前まで俺は知らなかったです」
「選曲はいつ? 俺、葉璃に聞いたよな? どの曲やるのって。 葉璃は内緒だって言ってたけど?」
「そ、そ、それは……!」


   聖南の追及が根掘り葉掘りすぎて怖い。

   エッチな歌詞だってバレたら絶対怒り出すって分かってたから、聖南には内緒にしてたのに……っ。

   衣装も選曲も、新人の俺には一切決定権ないんだから、そんなに怒んなくてもいいじゃん。


「…………むぅ……」


   怒ってる聖南に納得がいかなくて、ほっぺたが膨らんだ。

   足早にETOILEの控え室に連れ込まれると、すぐに壁際へと追いやられる。

   ドクター聖南による、壁ドンだ……。


「こんなかわいー衣装着て、あんなエロい歌唄って、スタッフの男どもを骨抜きにして……どういうつもりなんだよ」



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