僕の甘美な眠り姫

須藤慎弥

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僕の甘美な眠り姫③

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   ヒトの世は、当時も今も表面だけ分かったような顔をして、実はまだまだ獣種にそれほど理解が無いように見える。

   久遠が内々で調べたところによると、口数の少ない千里はうさぎちゃんではなく、チンチラ科チンチラ属に分類される紛れもないチンチラちゃんだという事が判明した。

   夜行性のため、夜は元気だが昼間は眠気に襲われてしまいとても弱い。

   お昼寝を挟んだ午後はまだいいが、昔から午前中は特に気だるそうで何ともいたわしい。


「ちー君、眠たくなったらこの飴、舐めてね?」


   さっさと自分の教室内へ入ろうとした千里を引き止めて、その手に飴玉をいくつか握らせた。


「ん。  何味?」
「マスカットと、ピーチだよ。  昨日とは違う味にしたからね」
「マスカット好き…」
「そうだよね。  ちー君はマスカット味とグレープ味が好きだもんね」
「うん。  ………眠い」
「ダメだよ、寝ちゃ。  お昼寝まで我慢してよ?  今日のちー君、特に心配だなぁ」
「もうチャイム鳴るよ。  久遠バイバイ」
「バイバイ、ちー君。  また後でね」


   久遠の心配をよそに、千里は何ともあっさり教室の扉を閉めて自分の席へ着席している。

   バイバイ、と言って手を振る今日の千里の姿は、今までに見た事がないほどダルそうだった。

   久遠の目の届かないところでうたた寝をして、うっかり耳と尻尾を出現させないように、眠気覚ましに毎日違う味の飴玉をいくつも渡している。

   中学までは種性別関係なくクラスを割り振られていたのに、高校に入った途端、それがうるさくなった。

   千里はβのみの男女クラス、αである久遠はαのみの男女クラスと、完璧に種によって区別されている。

   成人後の社会的階級に慣れるためとはいえ、久遠にとってはこの分類は鬱陶しさしか感じない。

   事情があるにせよ、千里がヒトと同じ生活リズムに慣れるのは習性上とても難しい事だ。

   せめて獣人専用の学校に行けば、夜行性属のための夜間コースもあるのだから、そこであれば千里もこんなに無理をしなくていい。

   そうは言っても、千里と離れ離れになる事など考えたくもない久遠は、たとえそれが千里の負担になろうとも譲れないかもしれなかった。

   僕が守ってあげるから、同じ学校に行こうよ。

   そう言って結局は一緒に居ようとしたがるので、どちらにしても千里は眠気から逃れられない。

   また千里自身にも、獣人である事を隠そうという意識があるらしく、ウトウトはしても決して眠りはしない。

   今まで一度も失敗していない事からも、ちゃんと久遠の言い付け通り、眠くなったら飴玉を口の中でコロコロと動かして眠気を覚ましているのだろう。


『可愛いんだよねぇ……ほっぺたに飴玉入れてる顔…』


   授業もそっちのけで、久遠は瞳を瞑って今しがた別れたばかりの千里の姿を思い出す。

   βとして生きている千里はいじらしい。

   今日も、自分が獣人である事は誰にも気付かれていないと信じて疑わない千里は、油断するとすぐにもふもふな耳と尻尾を出してしまうから、久遠は気が抜けないでいた。

   それを知っているのは、身近な者では恐らく、幼い頃から誰よりも一緒の時間を過ごしている久遠ただ一人だけである。




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