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僕の甘美な眠り姫④
しおりを挟む久遠は毎日、授業の合間のわずかな休み時間毎に千里の様子を見に来ている。
机に突っ伏して必死で目を開けていようとする気だるげな千里の様を見て、入学して間もない時期からクラスメイト達に「眠り姫」と命名されていた。
容姿と口調、常に眠たそうにぼんやりした様子からそう名付けられたらしいが、千里本人は果たしてその事を知っているのだろうか。
昼休みになり、久遠と千里待望のお昼寝の時間がやってきた。
久遠が見付けたそこは図書室の一番奥で、誰も手に取らないような、年代物の埃を被っていそうな本が、天井付近まで高さのある本棚にぎっしりと詰め込まれている。
一見薄暗そうな場所だが、少しカーテンを開けるだけでここはとても日当たりが良い。
人目にも付きにくく、千里のお昼寝と久遠のもふもふタイムをひっそりと楽しむにはもってこいの場所だった。
やって来て早々、千里は早くもお気に召したようで、表情が柔らかい。
「わぁ…あったかい…」
「ちー君、おいで。 まずはランチだよ」
窓辺で日向ぼっこを始めた千里に、久遠は腰掛けながら声を掛けた。
こういう姿を見ると、可哀想だなと思う。
二人は今、高校二年生。 間もなく三年に上がる。
高校を卒業したら、きっと進学はしないであろう千里を引き取って好きに行動させてやりたい。
寝たい時に寝て、起きたら、それがたとえ真夜中でも元気に動き回ればいい。
これまでたくさん無理をしてきたのだから、千里の好きなように、思うがままの生活をさせてあげたい。
今の久遠の、ささやかな展望だ。
「はい、あーんして」
「自分で食べるよ」
「ちー君はジッとしてね。 すぐこぼすんだから」
「久遠ってお母さんみたいだよねー」
「お母さんっ……?」
久遠が胡座をかいている足の間に、千里は居る。
千里に悪気がないのは分かっているが、お母さんではなく別の呼び方がいいなと苦笑を漏らす。
給食というものが無くなってしまった高校から、毎日久遠が持ち寄った弁当を千里に与えている。
中身は主に野菜で、自分の事は後回しで千里の口に運んでいく。
「美味しい?」
「ん。 美味しい…」
「たくさん栄養摂らないとね」
チンチラ属であるからか、千里は野菜を好む傾向にある。
久遠が毎朝弁当箱に仕込んでいるサラダと、自家製のイタリアンドレッシングは千里のお気に入りだ。
シャク、シャク、という咀嚼音が何とも可愛くて、千里が飲み込まないうちから次々に野菜を与えていると、首を振って嫌がられた。
「もういらない。 ……マスカットの飴、美味しかった」
「ん? マスカット味、全部食べちゃったの?」
「うん」
「そっか。 美味しかったんだね。 僕があと持ってるの、りんご味だけだよ? いい?」
「いい。 ちょーだい」
「サラダは? もういらないの?」
「うん。 美味しかった。 ごちそうさまでした」
「………………………」
───変だ。 かなり食が細い。
毎日こうしてお昼を与えているので、弁当箱半分ほどしか減っていないサラダを見ると訝しさを感じ、久遠は眉を顰める。
いつも以上の気だるさといい、この食の細さといい、どういう事かと千里の顔を覗き込んだ。
「ちー君、夜たくさん食べたの?」
「食べてないよ」
「……量は、って事だよね?」
「夜は食べてない。 朝は食べた」
「何っ? なんでっ? 夜ちゃんと食べなきゃだ……」
「眠たいから寝ていい? りんごの飴、あとでちょーだい」
「え、ちょっ……ちー君っ」
久遠の言葉を遮った千里は、ゴソゴソと寝る態勢に入ってしまい、よほど眠たかったのか陽のよく当たる場所ですぐさま意識を飛ばしてしまった。
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