僕の甘美な眠り姫

須藤慎弥

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僕の甘美な眠り姫⑨

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   車内から欠席の連絡を済ませた久遠は、千里があまり足を踏み入れたがらない我が自宅へと帰宅した。

   車から降りてきたところを姫抱きしようとした久遠から逃げた千里は、ムッとしたまま後ろを付いてきている。


「ねぇ、なんでここに帰るんだよー。  大丈夫だってばー」
「大丈夫じゃないの。  学校は一週間お休みだからね、ちー君。  ……僕に秘密にしてる事、全部話してもらわなくちゃ」
「…っ?  秘密なんて……」


   千里の耳元で囁くと、彼はまた「えー」と不満を口にしている。


「朝も勝手に先に行っちゃうし。  寂しかったんだからね」
「………それは…ごめん…」
「素直なちー君、可愛い」


   不満があるのは久遠も同じだ。

   出会ってから本当にたくさんの時間を共有し、久遠からの度を越した独占欲にも嫌がらないでいてくれて、とうとう昨日はキスまで受け入れてくれたというのに。

   この期に及んでまだ隠そうとするとは、悲しいを通り越して少しだけ怒ってしまいそうだった。

   と言いつつ、千里の戸惑い顔を見てしまうと「これ以上追及したら可哀想」と欲目が出てしまい、結局は許してしまうのだけれど。


「久遠のお家、大き過ぎて苦手…」


   玄関を土足のまま上がり、長い廊下を歩いて階段に到達すると、そこから三階まで上がって一番奥が久遠の部屋である。

   手前の三部屋分をぶち抜いたそこは、千里の家丸ごとすっぽり入ってしまいそうなほど広い。

   昔からここへ来るのを嫌がる千里は、久遠の部屋はもちろん家そのものが豪奢なために気後れするらしかった。


「じゃあ僕達は小さい家に住もうね。  今からもう探し始めようか?  いいお家があるといいな。  あ、一から建てるっていうのもいいよね。  僕は外観も内観も西洋風にしたいんだけど、ちー君はどう思う?」
「なに?  ……久遠、何を言ってる?」
「何って…僕とちー君が住むお家の話」
「一緒には住まないよ?」
「え?」


   千里が理想とする小さくて可愛らしい戸建ての妄想にふけって微笑んでいたら、突然冷水を浴びせられた。

   特注の総本皮で作られた真っ白なソファに腰掛けた千里を見ると、まさかの真顔だ。
 

「え……待ってよ、僕と住むの嫌?」
「嫌じゃないけど、住まない」
「な、なんでっ?  僕はそのつもりでいたよ?  ずっと昔から」
「久遠、αだよね。  お金持ちの久遠とβのちーは、一緒にはなれない」
「……あ、あのね…ちー君。  それなんだけど、僕気付いちゃったんだ。  ちー君は……」
「βだよ。  ちーはβ」


   千里の隣にゆっくり腰掛けた久遠は、頭を抱えた。

   これだけ言い張られてしまうと、久遠が千里の秘密を追及しなくてはならなくなる。

   それが嫌だから、千里の方から打ち明けてほしいと思っているのに、獣人の事はともかくそこはもう誤魔化してほしくなかった。

   たとえ千里がβであろうとΩであろうと、久遠にとってはそんなものどうだっていい。

   分かってほしい。

   どんな千里でも、千里個人が好きだという事を。


「ちー君……あの…知ってるんだよ、僕。  αだから気付いちゃったっていうか」
「何を?」
「ちー君、Ωでしょう?」
「Ωなの?」
「……え???」
「ちーはβだよ。  お父さんもお母さんも、ちーはβだって言ってたよ」
「えぇぇ???」


   どういう事だ。

   あのフェロモンは間違いなくΩが発情した時のもので、αである久遠は実際に体感している。

   もしかして千里は、自身の性別を知らないのだろうか。

   彼の父親と母親は千里の性別を知らずに適当に伝えていたのか、はたまたΩの社会的地位を案じてβとして生きるよう信じ込ませていたのか。

   ーーー恐らく後者だ。

   獣人である事を隠し、Ωである事も隠し、千里は本来の自分を出せずにここまで成長している。

   そしてそれを千里には気付かせないようにして、千里はこれからも自分というものが何なのか分からないまま、秘密をいくつも抱えて生きていかなければならない。

   そんなのおかしくないか。

   これは、千里の両親とじっくり話し合う必要がありそうだ。

   千里を送りがてら、自宅に上がり込んですべてを白状してもらおう。

   大好きな千里が、これ以上自分を偽って生きている姿を、久遠は見たくなかった。


「ちーはね、結婚する相手がもう決まってるんだって」
「…………何?」




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