僕の甘美な眠り姫

須藤慎弥

文字の大きさ
12 / 20

僕の甘美な眠り姫⑫ ちーの正体

しおりを挟む




   ちーを振り向いた久遠の顔は、怒ってなかった。

   青い瞳をツラそうに細めて、キッチンで呑気に水を飲んでたちーの所まで歩いてくる。


「何考えてたの?」
「え。  ………うーん…甘かったなぁって」
「何が?」
「…………グレープ味の飴玉」


   正直に言うと、久遠がシンクに手を付いて項垂れた。

   はぁ、と大きな溜め息を吐いて、ちーをジッと見てくる。

   この顔は……怖い。

   ちー、何か変な事言った?

   あ、もしかして久遠も体調が悪いのかな?


「久遠?  大丈夫?  頭痛い?」
「大丈夫。  少し、ちー君のお部屋行ってもいい?」
「うん、いいよ」


   キッチンから出た久遠の後ろを付いて行く。

   ちーが、久遠のデッカイお家に行きたくないってワガママ言うから、ちっちゃい頃から雨の日は大体ちーの家で遊んでた。

   勝手知ったるでちーの部屋へ向かう前に、「ちー君とお話してきます」って久遠がお母さんに断ると、「私はお買い物行ってくるわ」だって。

   お家に二人っきりになっちゃった。


「あ、お水忘れた。  持ってくる…」
「待って、ちー君」


   深刻な表情で、引き止められた。

   このビー玉みたいに綺麗な青い瞳が、ちーをジッと見詰めていて、居心地が悪い。

   もう何年も前から友達の久遠は、この家の家族の一員みたいなものだから、いつもはお母さんとも普通に話してたのに…今日は違う人みたいで変な感じ。


「ねぇ、ちー君。  結婚するなら僕としようよ。  僕とじゃ嫌?」


   掴まれた腕を引っ張られて、よろけながら久遠の胸に飛び込んだ。

   またそんな事を言ってくる久遠に、そのまま抱き締められた。

   いつからかこんなに背丈も体付きもちーとは離されてしまって、ギュッてされると息が苦しい。


「嫌じゃないけど、ちーと久遠は結婚出来ないよ」


   さっきも同じ事言ったのに、また言わせるなんてヒドイ。

   ちーだって、結婚するなら、できるなら、久遠とがいいに決まってる。

   でもちーは獣人なんだよ。

   ヒトじゃないんだよ。

   無理なものは、無理……だよ。


「どうしてそんなにあっさり言えるの?  ちー君も僕と同じ気持ちだって分かってるのに…!」
「ちーは結婚相手いるんだって」
「それさっき聞いたよ!  どこの誰だか分からないけど、僕以上にちー君を好きな男は居ない!  ちー君もそうでしょうっ?」
「ちーも久遠、好き。  でも結婚できない」
「あ、あのね、ちー君。  僕は全部知ってる。  ちー君の秘密、全部知ってるの」
「秘密って?」


   両肩を持たれて、顔を覗き込まれた。

   秘密って、なんの事?

   久遠に隠してる事と言ったら、ちーは獣人だって事だけ………。

   ……え、もしかして、……気付かれてるの?  ちーが獣人だって事……。


「なんでちー君が隠そうとするのか、やっと分かったよ。  ちー君のお父さんは僕のお父さんの会社で働いてるんだね」
「うん、そうだけど……」
「獣人だって知られたら、会社での立場が悪くなる。  そう考えたんだ、ちー君のお父さんとお母さんは」
「………………」


   久遠、……知ってたんだ。

   ちーが獣人だって。

   しかも全然驚いてないところを見ると、ずっと前から知ってたのかもしれない。

   言いたくても言えなかった秘密を、久遠がすでに知ってたなんて考えもしなかった。

   ヒトの世は獣人にうるさい。

   平等になってる、なんて幻想で、まだまだ区別差別される世の中だ。

   生きるためには、お父さんとお母さんが隠そうとするのも当たり前だった。


「知ってるって、言ったでしょう?  ちー君、僕と結婚しようよ。  立場とか性別なんて関係ない。  僕はちー君と一緒に居たい」


   ふわっと抱き締めてくる久遠の体から、甘い香りがする。

   フルーツの飴玉とも違う、久遠のお家の至る所に置いてあるアロマの香りとも違う、何だか意識を持っていかれるにおいだ。


「久遠……いつから知ってたの?」
「ちー君と僕が出会って、一ヶ月後」
「えぇっ?  そんな……ちーと久遠が出会ったのってまだ…」
「そうだよ。  幼稚園でお昼寝中に、可愛い耳と尻尾見付けちゃった」


   嘘っ………!?

   そんな前からバレてたなんて、ちーが今まで隠してきた意味がない!

   久遠に気付かれたらおしまいだって言われて育ってきたから、今すごく心臓がドキドキしてる。

   気付いてるよって、言わなかった久遠の優しさも……ちょっとだけちーが惨めになった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる

水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」 理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。 凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。 伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。 狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。 「君は、俺の運命の番だ」 これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。 温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。 極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。 そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。 これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

生意気Ωは運命を信じない

羊野迷路
BL
小学生の時からかっていた同級生と、進学校(自称)である翠鳳高校で再会する。 再会した元同級生はαとなっており、美しさと男らしさを兼ね備えた極上の美形へと育っていた。 *のある話は背後注意かもしれません。 独自設定ありなので1話目のオメガバースの設定を読んでから進んでいただけると理解しやすいかと思います。 読むのが面倒という方は、 1、Ωは劣っているわけではない 2、αかΩかは2つの数値によりβから分かれる 3、Ωは高校生以上に発覚する事が多い この3つを覚えておくと、ここでは大体大丈夫だと思われます。 独自設定部分は少しいじる事があるかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです。 追記 受けと攻めがくっつくのはまだ先になりますので、まったりお待ちください。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

処理中です...