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僕の甘美な眠り姫⑫ ちーの正体
しおりを挟むちーを振り向いた久遠の顔は、怒ってなかった。
青い瞳をツラそうに細めて、キッチンで呑気に水を飲んでたちーの所まで歩いてくる。
「何考えてたの?」
「え。 ………うーん…甘かったなぁって」
「何が?」
「…………グレープ味の飴玉」
正直に言うと、久遠がシンクに手を付いて項垂れた。
はぁ、と大きな溜め息を吐いて、ちーをジッと見てくる。
この顔は……怖い。
ちー、何か変な事言った?
あ、もしかして久遠も体調が悪いのかな?
「久遠? 大丈夫? 頭痛い?」
「大丈夫。 少し、ちー君のお部屋行ってもいい?」
「うん、いいよ」
キッチンから出た久遠の後ろを付いて行く。
ちーが、久遠のデッカイお家に行きたくないってワガママ言うから、ちっちゃい頃から雨の日は大体ちーの家で遊んでた。
勝手知ったるでちーの部屋へ向かう前に、「ちー君とお話してきます」って久遠がお母さんに断ると、「私はお買い物行ってくるわ」だって。
お家に二人っきりになっちゃった。
「あ、お水忘れた。 持ってくる…」
「待って、ちー君」
深刻な表情で、引き止められた。
このビー玉みたいに綺麗な青い瞳が、ちーをジッと見詰めていて、居心地が悪い。
もう何年も前から友達の久遠は、この家の家族の一員みたいなものだから、いつもはお母さんとも普通に話してたのに…今日は違う人みたいで変な感じ。
「ねぇ、ちー君。 結婚するなら僕としようよ。 僕とじゃ嫌?」
掴まれた腕を引っ張られて、よろけながら久遠の胸に飛び込んだ。
またそんな事を言ってくる久遠に、そのまま抱き締められた。
いつからかこんなに背丈も体付きもちーとは離されてしまって、ギュッてされると息が苦しい。
「嫌じゃないけど、ちーと久遠は結婚出来ないよ」
さっきも同じ事言ったのに、また言わせるなんてヒドイ。
ちーだって、結婚するなら、できるなら、久遠とがいいに決まってる。
でもちーは獣人なんだよ。
ヒトじゃないんだよ。
無理なものは、無理……だよ。
「どうしてそんなにあっさり言えるの? ちー君も僕と同じ気持ちだって分かってるのに…!」
「ちーは結婚相手いるんだって」
「それさっき聞いたよ! どこの誰だか分からないけど、僕以上にちー君を好きな男は居ない! ちー君もそうでしょうっ?」
「ちーも久遠、好き。 でも結婚できない」
「あ、あのね、ちー君。 僕は全部知ってる。 ちー君の秘密、全部知ってるの」
「秘密って?」
両肩を持たれて、顔を覗き込まれた。
秘密って、なんの事?
久遠に隠してる事と言ったら、ちーは獣人だって事だけ………。
……え、もしかして、……気付かれてるの? ちーが獣人だって事……。
「なんでちー君が隠そうとするのか、やっと分かったよ。 ちー君のお父さんは僕のお父さんの会社で働いてるんだね」
「うん、そうだけど……」
「獣人だって知られたら、会社での立場が悪くなる。 そう考えたんだ、ちー君のお父さんとお母さんは」
「………………」
久遠、……知ってたんだ。
ちーが獣人だって。
しかも全然驚いてないところを見ると、ずっと前から知ってたのかもしれない。
言いたくても言えなかった秘密を、久遠がすでに知ってたなんて考えもしなかった。
ヒトの世は獣人にうるさい。
平等になってる、なんて幻想で、まだまだ区別差別される世の中だ。
生きるためには、お父さんとお母さんが隠そうとするのも当たり前だった。
「知ってるって、言ったでしょう? ちー君、僕と結婚しようよ。 立場とか性別なんて関係ない。 僕はちー君と一緒に居たい」
ふわっと抱き締めてくる久遠の体から、甘い香りがする。
フルーツの飴玉とも違う、久遠のお家の至る所に置いてあるアロマの香りとも違う、何だか意識を持っていかれるにおいだ。
「久遠……いつから知ってたの?」
「ちー君と僕が出会って、一ヶ月後」
「えぇっ? そんな……ちーと久遠が出会ったのってまだ…」
「そうだよ。 幼稚園でお昼寝中に、可愛い耳と尻尾見付けちゃった」
嘘っ………!?
そんな前からバレてたなんて、ちーが今まで隠してきた意味がない!
久遠に気付かれたらおしまいだって言われて育ってきたから、今すごく心臓がドキドキしてる。
気付いてるよって、言わなかった久遠の優しさも……ちょっとだけちーが惨めになった。
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追記
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