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僕の甘美な眠り姫⑬ ちーは獣人
しおりを挟む漂ってくる久遠の香りが、思考を鈍らせてくる。
なんで気付いてるって教えてくれなかったのって、問い詰めるのは簡単だ。
でもそんな事出来ない。
お父さんの立場とちーの今後を考えたら、出来るはずない。
「そっか…知ってたんだ………」
久遠は優しいから、何もかも分かっててちーを守ってくれてたんだ…。
そう思うと、惨めさを感じると共に、久遠の儚いまでの優しさに感慨深くもなる。
「ちー君、……フェロモン出さないで…。 さっきの飴、一個しか持ってきてないから…」
「……出てる?」
「出てる…」
「これ、どうやったら止められるの? 久遠は、ちーからフェロモン出てるってどうやって分かるの?」
困った顔で笑う久遠に詰め寄ると、少しだけ距離を取られた。
嫌だな、なんで離れるの。
ぎゅってしててほしかったのに。
「僕を虜にするにおいがするの。 何も考えられなくなっちゃうくらい、強烈に誘われるの…」
そうなんだ…。
授業でバース性について学んでたからちょっとだけ知識はあったけど、実際にそんなものがちーの体のどこかから出てるなんて面白い。
どうやってフェロモンを誘発するのか、これは久遠にだけしか効かないのか、知識があやふやなちーは興味津々だった。
「……ちーからそんなのが出てるの? 他の人も虜になっちゃう?」
「…他の人を虜にしたいの?」
「え? そういうわけじゃ……」
「ちー君は僕のものだよ。 誰かにこのフェロモン嗅がせたら許さないんだから」
「わ、待って、久遠…っ、何を…」
久遠はこのお姫様抱っこが好きなのかな…っ?
抱き上げられてベッドに移動した久遠が、ちーを寝かせて覆い被さってくる。
これは、……ちー、押し倒されてる…?
「僕がどれだけ理性かき集めてると思ってるの? イエスって言ってくれないちー君が悪い。 僕の気持ちもちー君の気持ちも、弄んでる。 ……本当に、悪い子」
「悪い子? ちーの事?」
「そうだよ。 僕達は結ばれる運命なのに、他の人と結婚するなんて言うじゃない。 相手は何者なのかな?」
嫌だ、怖い。
久遠……怒ってる。
笑顔じゃない久遠は冷たい顔をするから、すごく怖い。
「知らない…。 同じ獣属で、α性で、男の人だって事しか…」
「男なの!? ……そう……じゃあもっといけないね。 てっきりα女性なのかと思ってたよ」
「違うよ、男の人。 チンチラ属なのに、大きい人」
「ちー君、その人と会った事あるの?」
「無いよ。 話だけ聞いた。 お父さんの会社の人だって」
「いい情報ありがとう、ちー君」
「え、何が?」
何故だか分からないけど怒られてるっていうのは、……分かる。
見上げた先の久遠の顔が冷たいから、ちーはどうしていいか困ってしまった。
久遠はちーを、結婚したいって思ってくれるくらい、好きなのかな…?
虜になっちゃうフェロモンが出てるから、そうやって言ってくれてるんじゃないの…?
なんでそんなに、ずっと怖い顔して見てくるの…?
「ちー君…僕は我慢強い男だよ。 でもこれは……我慢出来ないかもしれない…。 傷付けたくないから、早くイエスって言って、お願い…」
「言わない。 ううん、言えないよ。 久遠は、ちーと結婚しちゃダメ」
「どうして……!」
「久遠はαの人と結婚して。 ちーは同じ種の人と結婚する。 子ども、産まなきゃって……んっ」
久遠は、最後まで言わせてくれなかった。
あったかくてやわらかい唇を押し付けられて、キスしてるんだって分かっても…なんでだろう。
動けない。
いいにおいがして、ちーの全身から力が抜けた。
いけないことしてる。
久遠と結婚するわけじゃないのに、こんなのダメな事なのに、舌を舐められると何も考えられなくなった。
「だめだよ、僕の前でそんな事言っちゃ。 ……飛んじゃうんだからね」
「んっ…飛んじゃう…? …何っ?」
「全部。 何もかもどうでもいいって思っちゃうって事。 ちー君泣かせてしまってもいいやって…」
そんな事を言いながら、久遠から何回も何回も、キスが降ってくる。
病気の時みたいにツラそうな顔してるから、ちゃんと久遠の話を聞いてあげたいのに、ちーは目も開けられない。
こんなに必死な久遠、知らない。
すごく───ドキドキする。
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