僕の甘美な眠り姫

須藤慎弥

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僕の甘美な眠り姫⑮ ちーと結婚する人

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   初めての発情期だったちーは、あれから一週間も学校をお休みした。

   すべてを知ったからって、ちーの家族が不利になるような事はしないって久遠が言ってくれたおかげで、お父さんとお母さんから真実を聞けてちーはホッとしてる。

   仕方無かったんだもんね。

   ちーはまだ子どもだから、お父さんとお母さんが困る方が嫌だ。

   一人っ子のちーを、愛情いっぱいに大切に育ててくれてる。

   そんな両親の願いは叶えてあげなきゃ。

   チンチラ属は珍しい部類に入るらしいから、ちーがΩだって知った同じ種の仲間たちがたくさんお見合いの話を持ち掛けてきたって聞いた。

   子孫を残さないといけないから。

   久遠がどんなに怒った顔してきても、こればっかりはどうしようもない。

   ツラいけど、ちーと久遠はバイバイしないと、お家や一族での久遠の立場も悪くなっちゃう。

   ちーが望む事はみっつ。

   結婚する人が、優しくて、美味しい飴玉持ってたらいいな。

   最後のひとつは、久遠が幸せになったらちーも嬉しいって事。


「………ふぁぁ……」


   原っぱの上が気持ち良くて、ついあくびが出た。

   でも、久しぶりの学校は少しきつい。

   お休みしてた一週間は、お母さんに飲みなさいって言われた薬を飲んでひたすら寝てたから、すっかり体がなまってる。

   昼休み、αクラスの久遠が来る前に、ちーは学校の裏庭でお昼寝する事にして早々と教室を抜け出してきた。

   今はちょっと、久遠の顔見られなくて。

   一週間毎日お見舞いにやって来ては、いっぱいキスして帰るんだもん。

   ダメって言ってもやめてくれないし、すぐ怒った顔するし。

   たくさん「好き」って言ってくれる久遠の事が、ちーも好きになってしまいそうになるから、本当にやめてほしい。


「見ーつけた」
「…………?」


   ちょうど、ころんと原っぱに横になった時だった。

   誰かに見付かった。

   体を起こして振り返ると、知らない黒髪の人がニコニコして立っている。


「………誰?」
「αクラスの神崎千歳(かんざきちとせ)です。  千歳って呼んでいいよ」
「………誰?」


   ちーの隣に座ったその人に自己紹介されたけど、名前を聞いても知らない人だった。

   日中はウトウトしてて自分の席からあんまり動かないちーは、今のクラスメイトの顔と名前もあんまり一致しないのに、αクラスだなんてもっと分からない。


「我が校の眠り姫は天然ちゃんだったのか。  面白い」
「………誰?」
「あはは…!  君、それしか言葉知らないみたいだよ。  俺、千歳っていうの。  覚えて」
「……覚えなきゃいけない?」
「うん、出来れば。  君の婚約者だしね」
「え…!!?」
「良かった、反応があった」


   この人、今…ちーの婚約者って言った…!?

   あれ、でもちーの結婚相手はお父さんの会社の人って聞いてたんだけどな…。


「君の家と俺の家、お見合いの話があったんだけど、知ってるよね?  父親同士が同僚なんだと思うけど」
「あ!  ………はい」
「それ、俺」
「へぇ……」
「へぇって!」


   そういう事か。

   お父さん、説明が足りないよ。

   会社の人って言ってたから、ちーと結婚する人は、うーんと年上の人なんだとばかり思ってた。

   という事は…ジッと見詰めてくるこの人も、チンチラ属って事か。

   一重の垂れ目で優しそうだけど、聞いてた通り同じ種とは思えないほど体が大きい。

   久遠と一緒くらいかな?

   ちーはチンチラ属の仲間と会うのは初めてで、ついついジーッとこの人の顔を見てしまった。


「熱烈だなぁ。  可愛いね。  超ラッキーだよ、眠り姫が婚約者だなんて」
「眠り姫?」
「君、そう呼ばれてるんだよ。  知らなかった?」
「知らない…。  あの…、あなたもチンチラ属?」
「そうだよ。  チンチラ属β性の両親から突然変異で産まれたα千歳です」
「へぇ…!  頭ゴチャゴチャ…」
「あはは…!  面白いんだけど、君。  名前は何だったかな?  ……あ、そうそう。  千里くんだっけ」
「はい、千里です。  よろしくお願いします」


   形ばかりにペコッと頭を下げて挨拶すると、また、笑われた。

   よく笑うこの人が、ちーと結婚する人なんだ…。




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