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第3話・アシル
しおりを挟む不法侵入だって叫んでいいよな。
目の前に現れた男がめちゃくちゃ美形だからって、勝手に俺の家に入っちゃダメだろ。
そもそも、どうやって入った?
あの閃光は何だったんだ。
いや待て、これは夢なんじゃないか。
そうだ、きっとそうだ!
理解不能な珍事…これが夢だとしたら全部説明が付くじゃん!
「ほんの数秒でよくあれこれ考えられるな。 夢ではないというのに」
「おい! 俺の心を読むのやめろ!」
「驚くのも無理はないが、現実逃避は感心しないな」
「夢じゃないならお前は誰なんだよ!」
心が読める男には一から十まで俺の戸惑いが伝わっているだろうに、何の表情の変化も見せずにゆっくり近付いてくる。
電気の下で銀色の髪をキラキラさせながら歩んで来る姿に、すげぇ背が高いな…と呆気に取られて足元を見ると、男は土足(ブーツか?)だった。
「てか靴! わ、来るな、近寄るな! おい、聞いてんのかよ! おい!」
「私の名は「アシル」。 おいと呼ぶな」
「まさかの外人!」
「天界での名だ。 水景もアシルと呼んでくれ」
俺の目の前でしゃがんだ男が目線を合わせてきた。
間近で見るとさらにその整った容姿を見せ付けられる羽目になって、咄嗟に目を逸らそうしたけど無理だった。
銀色の瞳に見詰められると、どこか懐かしいような、記憶の片隅でこの瞳に見覚えがあるような気がして、その断片を探そうとまじまじと見詰め返す。
「あのさ…その前にお前は一体何者なんだよ、訳が分からねぇ…」
「正確にはアシル様、と呼ばれている」
「聞いてねぇよ!」
「はぁ…。 これでもまだ思い出さんか」
「う、うわっ、何を…っ」
テレビの中のアイドルのようなヒラヒラした服を揺らめかせて、男の右手が俺のこめかみに触れた。
刹那、触れられた場所からピリッとした痛みが走って瞳を閉じると、すぐに脳内にある光景が浮かんだ。
「無理もないか。 水景はまだ乳飲み子だったのだから」
「………………」
──薄暗い。 あ、雨が降ってるのか。
いや…これは土砂降りと言っていいほどの大雨だ。
俺は誰かに抱き抱えられていた。
何だか辺りが騒々しくて、自分の意志で動く事の出来ない俺はかたく瞳を閉じたまま微動だにしていない。
いくつものけたたましいサイレンの音が聞こえ、何かが焼ける焦げ臭いにおいもしてきた。
──なんだ、これは…。
「ほぅ、においも伝わったか」
男の声は現実世界で聞こえた。
けど多分、脳内に広がる喧騒は俺にしか聞こえてない。
何か大変な事が起きている。
大雨が降り注ぐそこはどこかの山の中で、間違いなく重大な事が。
「少し時空が飛ぶぞ」
現実世界の男の声に、え?と返す間もなく場面が切り替わる。
俺は誰かに抱かれたまま空を飛んでいて、ある場所へ着地した。
「あ…! ばあちゃん…!」
脳内に、俺の記憶のままのばあちゃんが現れた。
驚いた様子で、誰かから俺を受け取ったばあちゃんがひっしと抱き締めてくれた。
懐かしい…こんなに温かい腕、ずっと感じてないな。
『この世界だとおよそ十八年後、私が水景を迎えに来る』
『あなたは一体何者なの?』
『私の名はアシル。 雨の神だ。 あの神社に祀られている銀龍の子孫』
『まぁ…!』
『水景に言い伝えておけ。 空に立ち昇る私の姿を見付けられたら、生涯幸せになれる、と』
ばあちゃんの驚いた顔を最後に、脳内に流れていた映像が途切れた。
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