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第4話・大福を求めて
しおりを挟むアシルの掌が俺のこめかみから離れると、ふわりと抱き寄せられた。
懐かしいばあちゃんの姿にほろりときていた俺は、脱力感に苛まれてそのままアシルの腕に収まる。
…今の映像で全部理解しろって言うのかよ。
無理だよ。 登場人物はばあちゃんとアシルしか居なかったじゃん。
「この世界の十八年は長いな。 こんなに成長するのか」
ぎゅっと腕に力を込めたアシルが、俺の耳元でしみじみとそんな事を言っている。
俺なりに現状の把握を試みてみるけど──妙な能力を持った「アシル」がここに居る、という事しか把握出来ない。
何が起きているのか、何故アシルはここに居るのか、脳内に流れ込んできた映像は…何だったのか。
「……アシル、だっけ? 今の何?」
「そんな事よりも、私は腹が減った」
「そんな事よりって、これより大事な事は今ないと思うけど!?」
「いや、ある。 私は大福が食べたい。 どこに行けば手に入る?」
「コンビニに行けばあるんじゃ…って、危な! 流されるとこだった!」
待て待て。
俺は得体の知れない人間を前に頭がおかしくなってきてる。
この状況の説明をしてくれと言ったはずが、大福に心を奪われた銀髪銀目のアシルが首を傾げた。
「こんびに? そこに行けば大福があるのか」
「あるんじゃない? 苺大福もあるかも」
「それはいい! 行こう!」
「えっ、ちょっ? えぇ!?」
呑気に大福を買いに行くモチベーションになんかなれるはずがないのに、興奮気味に立ち上がったアシルから腕を取られて「案内しろ」と命令された。
仕方なくアシルと共に徒歩五分の位置にあるコンビニへと向かう。
あの映像によるとどうやら俺のばあちゃんとは知り合いみたいだから、警戒心はいくらか解かれた。
でもな…普段と変わらない暗がりの道を、見ず知らずの派手な銀髪の男と歩くなんて今朝の俺は考えもしなかったよ。
「…歩き慣れない。 飛んだ方が早いと思ってしまうな」
「飛ぶってなんだよ」
「龍の姿で、だ」
「はっ?」
「水景も聞いていただろう。 私は雨の神、銀龍のアシルだ」
またそんな事言ってる。
誰が信じるんだよ、「雨の神」だの「銀龍」だの。
「…それって映画の撮影? それか熱烈なファンタジー信者?」
「やれやれ。 私の事を幾度も見付けておいて、水景は現実主義者だな」
「俺は説明をしてくれって言ったのに、アシルが大福食べたいって駄々こねたんだろ!」
「人間の姿になるのは骨が折れるのだ。 一週間は元の姿に戻れない。 腹も減る」
話の論点をすり替えられた。
謎だらけな現状に疲れ始めた俺は、アシルの語りに合わせて喋る事にした。
きっとこれは超リアルな夢なんだと往生際悪く思いながら、コンビニの中へと入る。
アシルは、自動ドアに驚いていた。
「品物がたくさんあるな」
「コンビニだからな。 ……あ、あったよ」
一般的によく売られているタイプの苺大福を発見してアシルに見せると、不思議そうにまた首を傾げた。
初見だったようなので、そのままレジに持って行って会計を済ませる。
店外へ出てみると、夕方まで降り続いていた雨が嘘のように上がっていた。
「この雨の時期に私が抜けると困ると言われたんだが、そろそろ私も嫁を見付けて隠居したい。 下に任せてもいいだろうと思っている」
「なんかよく分かんねぇけど…手下使えないって言ってなかった?」
「そうなのだ。 私の悩みの種だ」
ふーん、と相槌を打って何気なく銀色の瞳を見上げると、思いがけず真剣な眼差しを向けられて慌てて苺大福をアシルに手渡した。
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