眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

flour7g

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奴隷ではなくなる日_ダレル視点

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ダレル視点

―市民権を買う日。
―奴隷でなくなる朝。



朝の光は、静かだった。

目を覚ました瞬間、
最初に見えたのは、天井でも、壁でもなく――
机の上に置かれた、眼鏡だった。

ハルが渡してくれたもの。
俺の世界を、初めて“正しく”してくれたもの。

手を伸ばし、眼鏡をかける。

輪郭が、戻る。
色が、意味を持つ。

……今日も、世界は、

――よく見える。

それだけで、胸の奥が、少し温かくなる。

「……」

隣の寝台を見る。

ハルはまだ眠っていた。
規則正しい呼吸。
俺の寝衣の端を、無意識に握る指。

――守る。
――仕える。
――縋る。



そのどれとも違う感情が、
胸の中心に、静かに在った。

俺は、奴隷だった。
それは、変わらない事実だ。

首輪は、昨日まで、確かに俺の首にあった。
だが今は、錆びて外れたまま、
机の引き出しの中にある。

触れない距離に。

それが、
少しだけ、怖かった。



街へ向かう道中、
人々の視線が、いつもと違っていた。

――俺ではない。
――ハルを、見ている。

畏れでも、軽蔑でもない。
欲と、羨望と、好意。

金品を差し出されるたび、
俺は、胸の奥が、ざわついた。

「……」

理不尽な感情だと、分かっている。

それでも。

――彼が、奪われる側でなく、
――与えられる側であること。

それが、誇らしくもあり、
同時に、少しだけ、怖かった。

役所の前に立ったとき、
ハルは、ほんの少しだけ、深呼吸をした。

「……ダレル」

呼ばれる。

その名前を、
俺は、もう、愛している。

「一緒に……来てほしいところがある」

理由を聞かなくても、分かっていた。

いや――
分かりたく、なかったのかもしれない。



窓口で、金額が告げられる。

俺の、市民権。
俺の、自由。

数字として示されるそれは、
かつての俺の人生より、
ずっと、軽く見えた。

ハルの手が、少し震えている。

それを見て、
俺は、胸が締め付けられた。

――違う。
――これは、俺のためだけのものじゃない。

彼は、選んでいる。

「……」

書類が差し出される。

名前を書く欄。

俺は、立ち尽くした。

自由は、
与えられるものだと思っていた。

だが、これは――
選ぶものだ。

「……ハル」

声が、低くなる。

「これは……
君の、命令ですか」


彼の言葉は、迷わなかった。
その言葉は、
首輪より、重かった。

俺は、ペンを取る。

指が、震える。

――自由になったら、
――俺は、彼のそばに居られるのか。

そう思って。

それでも。

名前を書く。

ダレル。

インクが、紙に染みる。

魔法陣が、淡く光る。

胸の奥が、
ひどく、軽くなった。

「……これで」

役人の声。

「彼は、市民です」

不要になった、と言われた首輪。

その言葉を、
俺は、噛み締める。



外に出る。

空が、広い。

眩しくて、
目を細める。

……眼鏡が、曇っていた。

俺は、慌てて拭く。

見えなくなるのが、
怖かった。

「……ダレル」

ハルが呼ぶ。

「後悔……してませんか」

その問いに、
俺は、少しだけ、笑ってしまった。



後悔など、あるはずがない。

ただ。

「……一つだけ」

言葉を選ぶ。

「俺は、もう……
命令に、縛られません」

それは、確認だった。
そして、祈りだった。


彼を見る。

――そばに居たい

心から。

役割ではなく。
義務でもなく。

彼は、少し笑って言った。


俺は、自由になった。

だから、
自分の意思で、ここに立っている。

手を、取る。

逃げない。
縛られない。

ただ、選ぶ。

言葉は、
もう、奴隷の礼ではない。

――愛する人の隣に立つ者の、言葉だ。

首輪は、外れた。

だが、
俺の居場所は、失われなかった。

それどころか。

世界は、
これまでで、一番、はっきりと、


よく見えている。

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