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奴隷ではなくなる日_本編fin.
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――それは、気づけば、そこにあった。
引き出しの奥にしまっていた小袋。
数えていなかった硬貨。
いつの間にか増えていた宝石や装身具。
街を歩くだけで、
微笑みを向けられ、
黙って立っているだけで、
「どうか」「せめて」と差し出されるもの。
最初は戸惑って、断っていた。
でも、断るほど、増えていった。
――この世界では、
――“美しい”というだけで、価値になる。
その現実に、
ようやく、僕は、向き合えるだけの時間が経った。
彼のためなら、強くなれる。
「……ダレル」
宿の部屋で、声をかける。
彼は、すぐにこちらを見る。
眼鏡の奥の視線は、穏やかで、揺れない。
「……一緒に、来てほしいところがあります」
理由は、言わなかった。
言えなかった。
⸻
役所の石造りの建物は、
朝の光を冷たく反射していた。
窓口で、金額を聞く。
――市民権取得。
――元奴隷の身分解除。
想像していたより、
ずっと、具体的な数字だった。
元いた世界でも、大金など扱ったことはないから…
どうしようもなく、手が、少し震える。
それでも前を向いて、
小袋を、差し出す。
「……この分で、足りますか」
役人は、中身を確認し、
淡々と頷いた。
書類が、机に置かれる。
名前を書く欄。
「……ダレル」
そう呼ぶと、
彼は一歩、前に出る。
「ここに……」
指差す。
「名前を、書いてください」
一瞬。
ほんの、一瞬だけ、
彼の指が止まった。
――怖い。
――自由は、選ぶものだから。
「……ハル」
低い声。
「これは……
君の、命令ですか」
胸が、締め付けられる。
「……いいえ」
はっきり、言う。
「……僕の、希望です。
僕は、ダレルと、ちゃんと対等になりたいから。一緒に、生きていきたいから」
沈黙。
それから、彼は、頷いた。
羽ペンを取り、
ゆっくりと、自分の名前を書く。
インクが、紙に染みる。
魔法陣が、淡く光り――
すぐに、消えた。
「……これで」
役人が言う。
「彼は、市民です。
首輪も、不要になります」
その言葉が、
胸の奥で、反響する。
⸻
外に出る。
空が、やけに高い。
ダレルは、
しばらく、何も言わなかった。
「……ダレル」
不安になって、彼を呼ぶ。
「……悩んだり、後悔、してませんか」
彼は、立ち止まり、
ゆっくりと首を振る。
「いいえ」
そして。
「……でも」
こちらを見る。
「一つだけ、確認しても?」
「……はい」
「俺は、もう……
命令に、縛られません」
一拍。
「それでも」
眼鏡の奥の目が、まっすぐだ。
「ハル、俺は、そばに居たい」
胸が、いっぱいになる。
「……それは、願い、ですか」
彼は、ほんの少しだけ、笑った。
「願いで、希望で、祈り。きっと、ずっと変わらない」
即答だった。
その瞬間。
――自由は、失われなかった。
――自由は、選び直された。
首輪は、もう、ない。
でも、距離は、変わらない。
それどころか。
彼は、そっと、手を取った。
逃げない。
命令でもない。
ただ、繋ぐ。
「……おめでとう、
これからもずっと、一緒に」
どうしても、近くで伝えたい気持ちが体を動かす、
そっと寄り添うように、並ぶ。
「俺は、君と出会って、滲んでいた世界が鮮やかに開けた。
君がそばにいるだけで、どんな困難も乗り越えられると信じられる…俺の世界を照らしてくれた。
君と会えて、俺は本当に幸せ者だ。
この想いに偽りはない。
君を、一番近くで、よく見ていたい。」
ダレルは、柔らかく微笑みながら、そう返した。
元奴隷としてではなく。
市民としてでもなく。
ハルの隣に立つ、ダレルとして。
⸻
本編fin.
引き出しの奥にしまっていた小袋。
数えていなかった硬貨。
いつの間にか増えていた宝石や装身具。
街を歩くだけで、
微笑みを向けられ、
黙って立っているだけで、
「どうか」「せめて」と差し出されるもの。
最初は戸惑って、断っていた。
でも、断るほど、増えていった。
――この世界では、
――“美しい”というだけで、価値になる。
その現実に、
ようやく、僕は、向き合えるだけの時間が経った。
彼のためなら、強くなれる。
「……ダレル」
宿の部屋で、声をかける。
彼は、すぐにこちらを見る。
眼鏡の奥の視線は、穏やかで、揺れない。
「……一緒に、来てほしいところがあります」
理由は、言わなかった。
言えなかった。
⸻
役所の石造りの建物は、
朝の光を冷たく反射していた。
窓口で、金額を聞く。
――市民権取得。
――元奴隷の身分解除。
想像していたより、
ずっと、具体的な数字だった。
元いた世界でも、大金など扱ったことはないから…
どうしようもなく、手が、少し震える。
それでも前を向いて、
小袋を、差し出す。
「……この分で、足りますか」
役人は、中身を確認し、
淡々と頷いた。
書類が、机に置かれる。
名前を書く欄。
「……ダレル」
そう呼ぶと、
彼は一歩、前に出る。
「ここに……」
指差す。
「名前を、書いてください」
一瞬。
ほんの、一瞬だけ、
彼の指が止まった。
――怖い。
――自由は、選ぶものだから。
「……ハル」
低い声。
「これは……
君の、命令ですか」
胸が、締め付けられる。
「……いいえ」
はっきり、言う。
「……僕の、希望です。
僕は、ダレルと、ちゃんと対等になりたいから。一緒に、生きていきたいから」
沈黙。
それから、彼は、頷いた。
羽ペンを取り、
ゆっくりと、自分の名前を書く。
インクが、紙に染みる。
魔法陣が、淡く光り――
すぐに、消えた。
「……これで」
役人が言う。
「彼は、市民です。
首輪も、不要になります」
その言葉が、
胸の奥で、反響する。
⸻
外に出る。
空が、やけに高い。
ダレルは、
しばらく、何も言わなかった。
「……ダレル」
不安になって、彼を呼ぶ。
「……悩んだり、後悔、してませんか」
彼は、立ち止まり、
ゆっくりと首を振る。
「いいえ」
そして。
「……でも」
こちらを見る。
「一つだけ、確認しても?」
「……はい」
「俺は、もう……
命令に、縛られません」
一拍。
「それでも」
眼鏡の奥の目が、まっすぐだ。
「ハル、俺は、そばに居たい」
胸が、いっぱいになる。
「……それは、願い、ですか」
彼は、ほんの少しだけ、笑った。
「願いで、希望で、祈り。きっと、ずっと変わらない」
即答だった。
その瞬間。
――自由は、失われなかった。
――自由は、選び直された。
首輪は、もう、ない。
でも、距離は、変わらない。
それどころか。
彼は、そっと、手を取った。
逃げない。
命令でもない。
ただ、繋ぐ。
「……おめでとう、
これからもずっと、一緒に」
どうしても、近くで伝えたい気持ちが体を動かす、
そっと寄り添うように、並ぶ。
「俺は、君と出会って、滲んでいた世界が鮮やかに開けた。
君がそばにいるだけで、どんな困難も乗り越えられると信じられる…俺の世界を照らしてくれた。
君と会えて、俺は本当に幸せ者だ。
この想いに偽りはない。
君を、一番近くで、よく見ていたい。」
ダレルは、柔らかく微笑みながら、そう返した。
元奴隷としてではなく。
市民としてでもなく。
ハルの隣に立つ、ダレルとして。
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本編fin.
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