眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

flour7g

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奴隷ではなくなる日_本編fin.

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――それは、気づけば、そこにあった。

引き出しの奥にしまっていた小袋。
数えていなかった硬貨。
いつの間にか増えていた宝石や装身具。

街を歩くだけで、
微笑みを向けられ、
黙って立っているだけで、
「どうか」「せめて」と差し出されるもの。

最初は戸惑って、断っていた。
でも、断るほど、増えていった。

――この世界では、
――“美しい”というだけで、価値になる。

その現実に、
ようやく、僕は、向き合えるだけの時間が経った。
彼のためなら、強くなれる。

「……ダレル」

宿の部屋で、声をかける。

彼は、すぐにこちらを見る。
眼鏡の奥の視線は、穏やかで、揺れない。


「……一緒に、来てほしいところがあります」

理由は、言わなかった。
言えなかった。



役所の石造りの建物は、
朝の光を冷たく反射していた。

窓口で、金額を聞く。

――市民権取得。
――元奴隷の身分解除。

想像していたより、
ずっと、具体的な数字だった。

元いた世界でも、大金など扱ったことはないから…
どうしようもなく、手が、少し震える。

それでも前を向いて、
小袋を、差し出す。

「……この分で、足りますか」

役人は、中身を確認し、
淡々と頷いた。

書類が、机に置かれる。

名前を書く欄。

「……ダレル」

そう呼ぶと、
彼は一歩、前に出る。

「ここに……」

指差す。

「名前を、書いてください」

一瞬。

ほんの、一瞬だけ、
彼の指が止まった。

――怖い。
――自由は、選ぶものだから。

「……ハル」

低い声。

「これは……
君の、命令ですか」

胸が、締め付けられる。

「……いいえ」

はっきり、言う。

「……僕の、希望です。
僕は、ダレルと、ちゃんと対等になりたいから。一緒に、生きていきたいから」


沈黙。

それから、彼は、頷いた。

羽ペンを取り、
ゆっくりと、自分の名前を書く。

インクが、紙に染みる。

魔法陣が、淡く光り――
すぐに、消えた。

「……これで」

役人が言う。

「彼は、市民です。
首輪も、不要になります」


その言葉が、
胸の奥で、反響する。



外に出る。

空が、やけに高い。

ダレルは、
しばらく、何も言わなかった。

「……ダレル」

不安になって、彼を呼ぶ。

「……悩んだり、後悔、してませんか」

彼は、立ち止まり、
ゆっくりと首を振る。

「いいえ」

そして。

「……でも」

こちらを見る。

「一つだけ、確認しても?」

「……はい」

「俺は、もう……
命令に、縛られません」

一拍。

「それでも」

眼鏡の奥の目が、まっすぐだ。

「ハル、俺は、そばに居たい」

胸が、いっぱいになる。

「……それは、願い、ですか」

彼は、ほんの少しだけ、笑った。



「願いで、希望で、祈り。きっと、ずっと変わらない」

即答だった。

その瞬間。

――自由は、失われなかった。
――自由は、選び直された。

首輪は、もう、ない。
でも、距離は、変わらない。

それどころか。

彼は、そっと、手を取った。

逃げない。
命令でもない。

ただ、繋ぐ。

「……おめでとう、
これからもずっと、一緒に」

どうしても、近くで伝えたい気持ちが体を動かす、
そっと寄り添うように、並ぶ。


「俺は、君と出会って、滲んでいた世界が鮮やかに開けた。
君がそばにいるだけで、どんな困難も乗り越えられると信じられる…俺の世界を照らしてくれた。  
君と会えて、俺は本当に幸せ者だ。
この想いに偽りはない。
君を、一番近くで、よく見ていたい。」


ダレルは、柔らかく微笑みながら、そう返した。

元奴隷としてではなく。
市民としてでもなく。

ハルの隣に立つ、ダレルとして。




本編fin.

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