眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

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R_火が灯る

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朝は、驚くほど穏やかだった。


朝焼けの光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気をやわらかく染めていた。

ダレルは、既に起きていた。

ベッドの脇に立つ彼は、まだ眠気の残る瞳を細め、
無造作に伸びた前髪がその表情を隠している。  
鍛え上げられた胸筋と腹筋は、
まるで彫刻のように浮かび上がり、
夜着の簡素なズボン一枚だけを身にまとったその姿は、
静かな朝の空気の中でひときわ存在感を放っていた。  

彼の呼吸に合わせて、引き締まった筋肉がわずかに動く。

ただ、首輪を外した状態で、手のひらに載せている。

金属は、朝の光を受けて、
ひどく静かに光っていた。

「……それ」

思わず、声を出す。

「外したんですか?」


彼は、首を振る。

「いいえ。
錆びかけていましたから…
外れた、だけです」

留め具が、古くなっていたらしい。
力を入れたわけでも、魔法を使ったわけでもない。

ただ――
外れてしまった。

僕は、その首輪を見る。

ずっとそこにあったもの。
当たり前の境界線。

「……」

言葉が、出てこない。

ダレルも、何も言わない。

二人とも、同じことを考えているのが、
不思議と分かった。

――もう、必要ないかもしれない。
――でも、失うのは、怖い。

沈黙は、重くなかった。
ただ、確かめ合う時間だった。

「……ハル」

呼び方が、名前だけになっている。

「はい」

「……君は」

少し、言い淀む。

「この世界で……
不自由は、ないですか」

一瞬、考える。

「……あります」

正直に答える。

「火も起こせないし、
水を浄化するのも、できません」

小さく、笑う。

「……生きてはいけますけど、
全部、借りてる感じがして」

ダレルは、しばらく黙っていた。

それから、首輪を床に置き、
こちらへ向き直る。

「……俺は」

低く、落ち着いた声。

「君から、眼鏡をもらいました」

胸が、少しだけ鳴る。

「俺は、この世界が、よく見えるようになって。君と過ごすようになって、すべてが変わった…」

一歩、近づく。

「だから…、もう少し、ハルに触れてもいいのなら…それが赦されるなら…」

そっと、手を差し出される。

「今度は……
俺の方から、渡したい」

「……え?」

「魔力です」

驚くほど、穏やかな言い方だった。

「大したことは、できません。
俺の魔力は……
戦うためのものですから、
ハルの身体に、ちゃんと馴染むかどうかも、やってみなければ、分からない…」

それでも。

「生活に、少しだけ使える分を……
分けることは、できます」


迷いと決意の入り混じった瞳を伏せて、
どこか頼もしさと脆さを同時に感じさせる。  

ダレルの大きな手が、戸惑いがちに僕の手をそっと引いた。  
その手の温もりに、僕の心臓が静かに高鳴る。  
言葉はなくても、彼の揺れる心が伝わってくる。  


僕たちは互いに身を寄せ合い、

朝の静寂の中で、

ダレルの唇が、触れた。

温かい。

熱ではない。
流れだ。

胸の奥に、
何かが、すっと通る。


彼の大きな手が背中にまわされて、しっかりと支えてくれる。
信頼と愛情の証のように、
熱い魔力のエネルギーを託してくれる。

その輝きは、まるで小さな炎のように僕の唇から体内へと流れ込んだ。  


ごくりと、
ダレルの唾液ごと息を呑む、
魔力は胸から下腹へと広がり、じんわりとした温かさが全身を包み込む。  
 

「……!」

息を呑む。
膝が、震える。

「……これ」

「力を抜いて、無理は、しないでください」

彼の声は、すぐそばだ。

――

唇が熱くなって、
唾液が絡み合う、ダレルの分厚い舌が、
僕の口の中から抜ける。


僕の、震える指先に、
小さな感覚が、残る。

「……試しても、いいですか」

きっと顔は真っ赤だ、
深く息を吐くのがやっと…
でも、試さずには居られない。

頷きが返る。

僕は、宿の小さな炉に目を向け、
指を、そっとかざす。

――お願い、だから。

ぱち。

小さな火花。

それだけ。

でも。

「……ついた」

声が、震える。

火が、灯っている。

ほんの、生活の火。

「……すごい」

ダレルは、微笑まなかった。
ただ、静かに言う。

「……世界が、少し広がったでしょう」

胸が、いっぱいになる。

「……ありがとう」


顔を上げると、
彼は、首を振った。

「礼は、いりません」


ダレルのまなざしを感じながら、僕は胸元に手を添えて、
魔力の熱をしっかりと受け止めた。  

不安もあったけれど、
彼の存在が背中を押してくれる。 

僕の中に灯った新たな力が、静かに、しかし確かに鼓動を刻み始めていた。


そして、床に置かれた首輪を見る。

「……これは」

答えは、もう分かっていた。

「……今は」

僕が、言う。

「今は……
そのままで、いいよね」

彼は、少しだけ目を伏せる。

「……承知しました」

でも、それは従属の返事じゃない。

同意だった。

眼鏡と、魔力。
見る世界と、生きる世界。

互いに渡し合って、
二人は、ここに立っている。

火は、小さく、安定して燃えていた。
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