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R_少しずつ注ぐ
しおりを挟む夕暮れの街は、思った以上に賑やかだった。
石畳に灯りが入りはじめ、
店先からは、香草や焼き肉の匂いが流れてくる。
ダレルさんの手は、まだ僕の手を取ったまま。
強くもなく、
でも、離れる気配もない。
それが、少し照れくさくて、
でも……嬉しかった。
「……おや」
通り沿いの露店の主人が、こちらを見て、にやりと笑う。
「若いのに、仲がいいねえ」
一瞬、意味を測りかねて。
「あ……」
僕が何か言う前に、
「はい」
ダレルさんが、落ち着いた声で答えた。
「大切な人です」
――え。
足が、止まりそうになる。
露店の主人は、満足そうに頷く。
「いいねえ。
随分と美しい恋人じゃないか、最近は物騒だからな、気をつけな」
そう言って、
ダレルさんに、小さな菓子袋を、おまけで渡してくれた。
「……ごちそうさまです」
礼を言って歩き出すと、
胸が、ひどく熱い。
「……ダレルさん」
「はい」
「今の……」
「事実です」
即答だった。
反論も、補足もない。
「……その……」
言葉を探していると、
今度は、すれ違った女性二人が、ひそひそと声を落とす。
「……ほら、あの人たち」
視線が、刺さる。
嫌な感じは、もう、しなかった。
「……あの」
小さく、言う。
「僕たち……
どう、見えるんでしょうか」
ダレルさんは、少し考えてから答える。
「……そう、在ろうとしているようには」
それは、
確認でも、断定でもなかった。
でも。
「……困りますか」
そう聞かれて。
「……いえ」
首を振る。
「……ちょっと、恥ずかしいだけです」
「それは……」
彼は、耳まで赤くなっているのにも構わず、あからさまに視線を外して、少しだけ声を落とす。
「俺もです」
その言葉で、
胸の熱が、落ち着いた。
⸻
宿に戻ると、
昼とは違う静けさがあった。
部屋に入る。
ランプに火を入れ、
荷物を置く。
いつも通りのはずなのに。
どこか、違う。
距離だ。
物理的には、変わっていない。
でも――意識が、近い。
「……飲みますか」
ダレルさんが、小さな瓶を取り出す。
「果実酒……
甘いそうです。そういう日の夜に、飲むものです」
「……少しだけ」
ひとつの杯に、ゆっくりと注ぐ。
乾杯も、言葉も、必要ない。
「……おいしいですね」
「はい」
沈黙が、心地いい。
寝支度に入る。
外套を外し、
それぞれ、荷をまとめる。
いつもなら、
それぞれの距離を保っていた。
でも今日は。
「……その」
僕が、先に口を開く。
「寒くなりそうなので……」
毛布を、持ち上げる。
「……一緒に、使いますか」
言ってから、
心臓がうるさい。
ダレルさんは、一瞬、固まったあと。
「……よろしいのですか。
寝かせてあげる余裕は、なくなるかもしれない」
「はい」
その意味は、僕の、願い通り。
……僕は、この世界で、我慢弱くなっている。
灯りを落とす。
横になる。
毛布の下で、
体温が、近い。
足が絡まる。
腰が突き上げられる、
押し広げられる、
出す…とは言われずとも、分かる。
下腹の最奥まで、ダレルの匂いが染み込むように、注ぎ込まれる、何度も。
「……ハル」
暗闇の中で、蕩けるように甘く呼ばれる。
「気持ちいい…もっと、奥まで、もっと…俺を、受け入れて」
「……僕も」
熱い、もっと――。
言葉は、それだけで、十分だった。
眠りに落ちる直前。
ダレルさんの指が、
そっと、僕の頬に触れる。
確かめるように。
離れない。
――彼に、首輪は、もうない。
でも。
この距離は、
命令でも、義務でもなく。
互いが、選び続けている距離だった。
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