眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

flour7g

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よく見えてくる_ダレル視点

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ダレル視点



朝の街は、やけに明るかった。

石畳に反射する光が眩しく、
眼鏡越しでも、輪郭がくっきりしている。

……今日も、世界は、よく見える。

それは、いつも通りのはずなのに。
最近は、ほんの少しだけ、俺にも優しい。

――まだ慣れない、落ち着かない。

隣を歩くハルは、まだ少し足取りが覚束ない。
昨夜の名残を、体の芯が、正直に覚えているのだろう。

俺は、歩調を合わせ、隙間なく密着して、隣を歩く。
無意識の動きだった。

「……おや」

通り沿いの店主が、こちらを見て、にやりと笑う。

「お二人さん、朝から仲がいいね」

声色は軽い。
だが、視線は――鋭い。

俺ではない。
ハルの首筋に、向けられている。

「……?」

ハルが、不思議そうに首を傾げる。

よく見えない。
いや、彼自身には、見えない位置だ。

……当然だ。

俺は、一瞬、思考を止める。

――話したほうがいいか。
――隠すべきだったか。

そんな考えが、
遅れて、胸の奥に浮かぶ。

だが。

「若いって、いいねえ」

別の通行人が、通りすがりに言う。

「……大事にしなよ」

その言葉に、
俺の中で、何かが静かに確定した。

守る。

それだけだ。

「……ダレルさん?」

ハルが、小さく呼ぶ。

「皆さん……何を見てるんでしょう」

困ったような声。

俺は、答えない。
答えられない、ではない。

答える必要が、ない。

代わりに、少しだけ位置を変え、
自然に、彼の背後に立つ。

隠すためではない。
触れるためでもない。

ただ――
俺の手の届く場所に、置くためだ。

「……?」

それでも、ハルは気づく。

首の後ろに、指を伸ばし、きょとんとする。

その仕草が、
あまりにも無防備で。

「……あ」

何かに思い至ったように、
小さく息を吸う。

そして。

振り返って、
俺を見上げて。

二人が出会ったとき、俺に眼鏡をかけてくれたときと同じ声、
あの優しげな声で、言う。

「……よく見えるところでも、いいんですよ」

一瞬。

世界が、止まったように感じた。

拒絶ではない。
恥じらいでもない。

ただの――
許可。

それは、
俺が一人で抱えていたものを、
彼が、世界に開いた瞬間だった。

「……」

言葉が、すぐに出てこない。

隠す理由は、もうない。
誇る理由も、必要ない。
ただ、俺はもう一人じゃない。

「……では」

低く、静かに。

「俺が、きちんと…よく見て、守ります」

それだけを、告げる。

誓いでも、命令でもない。
選択だ。

ハルは、少しだけ目を丸くしてから、
ふっと、笑った。

「……お願いします」

その一言で、十分だった。

ほかの視線は、もう気にならない。

俺は、ここにいる、
彼の、よく見える場所に。
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