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第二章
好きな人
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「シェイド様!ここにおられたので……どういう状況ですか?」
どうしようかと途方に暮れていると、救世主が現れた。
「ルイス様……!!」
助けを求めた瞬間来てくれるなんて、流石は王太子殿下のお付きの人!!と、私が尊敬の眼差しを送っていると、ルイス様は困惑したような目でこちらを見てきた。
「本当に何があったのですか?シェイド様、説明していただけますか。」
そう聞かれたシーくんは、とても簡潔に分かりやすく説明していく。流石、地頭がいい人は内容をまとめるのもとても上手だ。私は苦手だから羨ましい。というか、説明を聞く限り本当に最初から聞いてたのか。
「はぁ……オークウェル公爵令嬢。」
「はっ……!はい!」
ルイス様の声かけによって、固まっていたセレナ・オークウェル様が動いた。
「あなたが婚約者となることをまだシェイド様は了解していないので、まだ正式な婚約者ではありませんよね。それに、ルナ・ハリスと関わることも婚約者となる予定であるということを公言することも禁止されているはずですが。」
「そっ…それは、」
青ざめるセレナ・オークウェル様。というか、知らない間にクラスメイトとの交流が禁止されていた。なんでだ。
「ねぇ、なんで交流が禁止されてたの?」
大声で言っていいのか分からなかったので、一応小声でシーくんに尋ねると、シーくんも小声で答えてくれたので小声でよかったらしい。でも、耳元がくすぐったい。
「この婚約自体が、俺がルナを側室として迎える場合にのみに成立するものだ。俺がルナを正室にするか、それが叶わないなら王太子を辞すると言った時点でこの話自体は消えた。
しかし、俺がルナ以外の女性に興味を示す可能性もあると考えている王家はそのまま飼い殺しにしている。ルナが条件を達成できると誰も思っていないから、その場合ルナと王家との繋がりを消すために婚約者候補の女性はルナと交流を持たないように言っているんだろう。」
「……なるほど。」
いろいろ思うところはあったが、なんとか言葉にできたのはなるほど、の一言だけだった。というか、私のせいでかわいい女の子の純情が弄ばれてる感があってとても申し訳ない。
シーくんとそんな会話をこっそりとしている間に、ルイス様とセレナ・オークウェル様との会話……言い合い?も進んでいた。
「王太子殿下が、こんな庶民に騙されているなんて私、可哀想で……!王太子殿下をお助けしたいのです!」
「あ!お待ちください、オークウェル嬢!」
セレナ・オークウェル様は、ルイス様の静止を振り切ってこちらにやってきた。シーくんに抱きしめられていた私を突き飛ばすと、自分から腕を絡ませにいった。なるほど、これが肉食系女子。
「王太子殿下!私、王太子殿下がお望みならどんなことでもいたします!ですからどうか、私を選んでください!」
「………」
そう言って縋り付くセレナ・オークウェル様。美男美女で行われるその光景はとても綺麗で、さながら絵本の1ページのようだ。しかし、王太子が無表情なためちょっと残念な感じになっている。え?なんなの?そんな綺麗な子に迫られて何が不満なの?……って私は一体何目線なんだ。
「私、明日の試験でこの平民よりも優秀であることを証明いたします!明日の試験で私が平民に勝ったら、私を正式な婚約者にしてくださいませ!」
「オークウェル嬢……」
「はい!」
シーくんから名前を呼ばれ、嬉しそうにセレナ・オークウェル様が返事をした。それを見ているシーくんは笑顔で、今度こそ絵本の1ページ……と思ったけど、なんか違う。主にシーくんの笑顔が。
「申し訳ないのですが、私が愛しているのはルナ・ハリスただひとりです。ルナ・ハリス以外の者を正室にするつもりも、側室を迎えるつもりもありません。」
「そんな……!?」
「側室もって……!本気ですか!?」
セレナ・オークウェル様に対して言ったことなのに、セレナ・オークウェル様だけでなくルイス様も驚いたような声を上げた。
「以前から言っていたと思いますが、私の伴侶は何かあっても生涯ルナ・ハリスただひとり。他の方の入り込む余地はありません。」
イケメン王子様からの熱烈な告白に対して、ときめきよりも先に、愛が重い……という感想を抱いてしまい思わず無表情になってしまう私は、女として何かが欠けている気がする。というか、シーくんからのアプローチに対する耐性ができたのか、最近では美しすぎる顔にもドキドキすることがなくなった。綺麗だな、とは思うけども。
あ……!まさか、これが美人は3日で飽きるということなのか……!?そうか、飽きるというよりも、慣れるというのが正しいのかもしれない……。私やっぱり、天才じゃない……?
そんなことを真剣に考えていた私を、(後々思い返すとあの場面で何くだらないこと考えていたんだとおもわないでもないが、徹夜明けで眠かったから仕方ない。)セレナ・オークウェル様が睨みつけた。美人は涙目で睨みつけても絵になる、うん。
「私は諦めませんわ!今の王太子殿下はおかしくなっているのです!どんな手を使ったのかは知りませんが、対属性魔法の刑の時といい、きっと何か卑怯な手を使っているに決まっています!
私……きっと、王太子殿下を正気に戻して差し上げます!」
そう言って、セレナ・オークウェル様は走って去って行った。それを見ながらため息を吐き項垂れるルイス様と、華麗な王子様スマイル(ただし圧がすごい)で見送るシーくん。
でもシーくんは、セレナ・オークウェル様の姿が見えなくなると、すぐに王子様の表情を消していつものシーくんに戻った。いつものことながら、演技力が凄すぎる。日本にいたら、ルックスも相まってドラマとか映画とか引っ張りだこだっただろうな。少女漫画原作のヒーローとかめっちゃ似合うと思う。
「シェイド様!側室も迎えるつもりがないとはどういうことですか!?」
ルイス様の声に、またもや違う方向に行っていた思考を引き戻された。
「言葉の通りだ。」
「ひとりしか伴侶を持たない王太子など、この国の長い歴史の中でも前代未聞です!ただでさえ、第一王子であるウィルド様が全ての婚約を解消してしまったというのに……。王族として大切なのは少しでも多くの子を残すこと。神クロス様から加護を受けたその血を、絶やしてはなりません!」
「血を繋ぐならルナとの子だけでいい。他の女性との間に生まれた子など愛せるわけがないだろう。」
「いや、それでも……」
尚も続くシーくんとルイス様の会話。というか、これ私も当事者だよね?なんか私抜きで話進んでるけども。
「それに、ルナは夫と妻はお互いひとりずつでそれ以外は許さない、と言っていた。」
「そうなんですか!?」
「へっ!?」
完全に油断していたところに、思わぬフリが来た。そんなこと言ったっけ……?あ、そういえば言ったことあるかも、小屋にいた時に。シーくん、本当に記憶力がいいな。
でもなんというか……セレナ・オークウェル様の存在を知っても、何も動揺していない。正室でなくても、側室が何人いてもいい、と思っている自分がいた。日本では不倫は不貞行為とみなされて有責となるのに。私の価値観も変わったのか?いや、違う。だって未だに、不倫は良くないって思ってる。……ああ、そうか、
「別に、側室でもいいし妻が何人いてもいいよ?」
「ほら!ルナ様もこう言っていますし!」
「……なぜだ。」
嬉しそうなルイス様とは対象的に、シーくんの顔には苛立ちが浮かんでいた。……うん、これシーくんも答えに気付いてる感じだ。怖い……でも、言わないともっと怖い。
「私は恋愛の意味で好きだ、結婚したいって思った人のことはひとりじめしたいって思うから何人も妻がいるのは嫌だよ。でも、なんというか……シーくんのことは好きだけど、そういう意味での好きではないから、お互いが納得してるなら何人奥さんがいてもいいし、なんなら私いなくてもいいし……子供とかの負担が減ってラッキー……みたいな?」
「……ほう、なるほどな。」
「ご……ごめんなさい……」
シーくんのあまりの圧に、思わず震えながら謝る私。というか、本当に言いたくなかったけど、もう答え気付いてたじゃん!昔そんな話したもんね!答えに気付いてるのに本人に言わせるとか、自分も追い込んでどうすんの!?やっぱりシーくんMなの!?
「しかし、それなら話は簡単だ。お互いが納得したらと言ったな。俺は納得していないからそれは有り得ない。俺が欲しいのはルナだけだ。
……何を言われても、もう逃さないからな。」
そう言ってシーくんは、私を後ろから抱きしめて肩に頭を乗せた。うん、とりあえずこれだけは言わせて欲しい。
「……重い。」
……重いよ、シーくん。いろいろな意味で。
そうして、なんとか寮に帰った私は、仮眠を取ることもできずに徹夜で試験を受けることとなった。文字通り命を削って試験を受けたため、何とか悲惨な結果は免れたが、試験後徹夜でフラフラの私はティアに抱えられながら何とか寮まで帰りその後夕食も食べずに朝まで寝ていた。
ティア、ありがとう……!!
どうしようかと途方に暮れていると、救世主が現れた。
「ルイス様……!!」
助けを求めた瞬間来てくれるなんて、流石は王太子殿下のお付きの人!!と、私が尊敬の眼差しを送っていると、ルイス様は困惑したような目でこちらを見てきた。
「本当に何があったのですか?シェイド様、説明していただけますか。」
そう聞かれたシーくんは、とても簡潔に分かりやすく説明していく。流石、地頭がいい人は内容をまとめるのもとても上手だ。私は苦手だから羨ましい。というか、説明を聞く限り本当に最初から聞いてたのか。
「はぁ……オークウェル公爵令嬢。」
「はっ……!はい!」
ルイス様の声かけによって、固まっていたセレナ・オークウェル様が動いた。
「あなたが婚約者となることをまだシェイド様は了解していないので、まだ正式な婚約者ではありませんよね。それに、ルナ・ハリスと関わることも婚約者となる予定であるということを公言することも禁止されているはずですが。」
「そっ…それは、」
青ざめるセレナ・オークウェル様。というか、知らない間にクラスメイトとの交流が禁止されていた。なんでだ。
「ねぇ、なんで交流が禁止されてたの?」
大声で言っていいのか分からなかったので、一応小声でシーくんに尋ねると、シーくんも小声で答えてくれたので小声でよかったらしい。でも、耳元がくすぐったい。
「この婚約自体が、俺がルナを側室として迎える場合にのみに成立するものだ。俺がルナを正室にするか、それが叶わないなら王太子を辞すると言った時点でこの話自体は消えた。
しかし、俺がルナ以外の女性に興味を示す可能性もあると考えている王家はそのまま飼い殺しにしている。ルナが条件を達成できると誰も思っていないから、その場合ルナと王家との繋がりを消すために婚約者候補の女性はルナと交流を持たないように言っているんだろう。」
「……なるほど。」
いろいろ思うところはあったが、なんとか言葉にできたのはなるほど、の一言だけだった。というか、私のせいでかわいい女の子の純情が弄ばれてる感があってとても申し訳ない。
シーくんとそんな会話をこっそりとしている間に、ルイス様とセレナ・オークウェル様との会話……言い合い?も進んでいた。
「王太子殿下が、こんな庶民に騙されているなんて私、可哀想で……!王太子殿下をお助けしたいのです!」
「あ!お待ちください、オークウェル嬢!」
セレナ・オークウェル様は、ルイス様の静止を振り切ってこちらにやってきた。シーくんに抱きしめられていた私を突き飛ばすと、自分から腕を絡ませにいった。なるほど、これが肉食系女子。
「王太子殿下!私、王太子殿下がお望みならどんなことでもいたします!ですからどうか、私を選んでください!」
「………」
そう言って縋り付くセレナ・オークウェル様。美男美女で行われるその光景はとても綺麗で、さながら絵本の1ページのようだ。しかし、王太子が無表情なためちょっと残念な感じになっている。え?なんなの?そんな綺麗な子に迫られて何が不満なの?……って私は一体何目線なんだ。
「私、明日の試験でこの平民よりも優秀であることを証明いたします!明日の試験で私が平民に勝ったら、私を正式な婚約者にしてくださいませ!」
「オークウェル嬢……」
「はい!」
シーくんから名前を呼ばれ、嬉しそうにセレナ・オークウェル様が返事をした。それを見ているシーくんは笑顔で、今度こそ絵本の1ページ……と思ったけど、なんか違う。主にシーくんの笑顔が。
「申し訳ないのですが、私が愛しているのはルナ・ハリスただひとりです。ルナ・ハリス以外の者を正室にするつもりも、側室を迎えるつもりもありません。」
「そんな……!?」
「側室もって……!本気ですか!?」
セレナ・オークウェル様に対して言ったことなのに、セレナ・オークウェル様だけでなくルイス様も驚いたような声を上げた。
「以前から言っていたと思いますが、私の伴侶は何かあっても生涯ルナ・ハリスただひとり。他の方の入り込む余地はありません。」
イケメン王子様からの熱烈な告白に対して、ときめきよりも先に、愛が重い……という感想を抱いてしまい思わず無表情になってしまう私は、女として何かが欠けている気がする。というか、シーくんからのアプローチに対する耐性ができたのか、最近では美しすぎる顔にもドキドキすることがなくなった。綺麗だな、とは思うけども。
あ……!まさか、これが美人は3日で飽きるということなのか……!?そうか、飽きるというよりも、慣れるというのが正しいのかもしれない……。私やっぱり、天才じゃない……?
そんなことを真剣に考えていた私を、(後々思い返すとあの場面で何くだらないこと考えていたんだとおもわないでもないが、徹夜明けで眠かったから仕方ない。)セレナ・オークウェル様が睨みつけた。美人は涙目で睨みつけても絵になる、うん。
「私は諦めませんわ!今の王太子殿下はおかしくなっているのです!どんな手を使ったのかは知りませんが、対属性魔法の刑の時といい、きっと何か卑怯な手を使っているに決まっています!
私……きっと、王太子殿下を正気に戻して差し上げます!」
そう言って、セレナ・オークウェル様は走って去って行った。それを見ながらため息を吐き項垂れるルイス様と、華麗な王子様スマイル(ただし圧がすごい)で見送るシーくん。
でもシーくんは、セレナ・オークウェル様の姿が見えなくなると、すぐに王子様の表情を消していつものシーくんに戻った。いつものことながら、演技力が凄すぎる。日本にいたら、ルックスも相まってドラマとか映画とか引っ張りだこだっただろうな。少女漫画原作のヒーローとかめっちゃ似合うと思う。
「シェイド様!側室も迎えるつもりがないとはどういうことですか!?」
ルイス様の声に、またもや違う方向に行っていた思考を引き戻された。
「言葉の通りだ。」
「ひとりしか伴侶を持たない王太子など、この国の長い歴史の中でも前代未聞です!ただでさえ、第一王子であるウィルド様が全ての婚約を解消してしまったというのに……。王族として大切なのは少しでも多くの子を残すこと。神クロス様から加護を受けたその血を、絶やしてはなりません!」
「血を繋ぐならルナとの子だけでいい。他の女性との間に生まれた子など愛せるわけがないだろう。」
「いや、それでも……」
尚も続くシーくんとルイス様の会話。というか、これ私も当事者だよね?なんか私抜きで話進んでるけども。
「それに、ルナは夫と妻はお互いひとりずつでそれ以外は許さない、と言っていた。」
「そうなんですか!?」
「へっ!?」
完全に油断していたところに、思わぬフリが来た。そんなこと言ったっけ……?あ、そういえば言ったことあるかも、小屋にいた時に。シーくん、本当に記憶力がいいな。
でもなんというか……セレナ・オークウェル様の存在を知っても、何も動揺していない。正室でなくても、側室が何人いてもいい、と思っている自分がいた。日本では不倫は不貞行為とみなされて有責となるのに。私の価値観も変わったのか?いや、違う。だって未だに、不倫は良くないって思ってる。……ああ、そうか、
「別に、側室でもいいし妻が何人いてもいいよ?」
「ほら!ルナ様もこう言っていますし!」
「……なぜだ。」
嬉しそうなルイス様とは対象的に、シーくんの顔には苛立ちが浮かんでいた。……うん、これシーくんも答えに気付いてる感じだ。怖い……でも、言わないともっと怖い。
「私は恋愛の意味で好きだ、結婚したいって思った人のことはひとりじめしたいって思うから何人も妻がいるのは嫌だよ。でも、なんというか……シーくんのことは好きだけど、そういう意味での好きではないから、お互いが納得してるなら何人奥さんがいてもいいし、なんなら私いなくてもいいし……子供とかの負担が減ってラッキー……みたいな?」
「……ほう、なるほどな。」
「ご……ごめんなさい……」
シーくんのあまりの圧に、思わず震えながら謝る私。というか、本当に言いたくなかったけど、もう答え気付いてたじゃん!昔そんな話したもんね!答えに気付いてるのに本人に言わせるとか、自分も追い込んでどうすんの!?やっぱりシーくんMなの!?
「しかし、それなら話は簡単だ。お互いが納得したらと言ったな。俺は納得していないからそれは有り得ない。俺が欲しいのはルナだけだ。
……何を言われても、もう逃さないからな。」
そう言ってシーくんは、私を後ろから抱きしめて肩に頭を乗せた。うん、とりあえずこれだけは言わせて欲しい。
「……重い。」
……重いよ、シーくん。いろいろな意味で。
そうして、なんとか寮に帰った私は、仮眠を取ることもできずに徹夜で試験を受けることとなった。文字通り命を削って試験を受けたため、何とか悲惨な結果は免れたが、試験後徹夜でフラフラの私はティアに抱えられながら何とか寮まで帰りその後夕食も食べずに朝まで寝ていた。
ティア、ありがとう……!!
応援ありがとうございます!
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